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第4章 点検整備と保守上の注意
4・1 作業心得
 航海用レーダー等は、船舶安全法に基づく船舶設備規程及び船舶等型式承認規則に適合したものが製造され、製造された機器の一台一台については、指定検定機関による検定が行われている。したがって、工場から出荷された個々の機器は上記諸規則に適合したものであるが、最終的な性能は船舶への装備方法によって大きく左右される。このため、装備を行うに当たっては、十分な配慮と注意が必要である。
 また、航海用レーダー等は、船舶の航行の安全上、欠くことのできない重要な機器であると同時に高度な電子機器でもあるので、取扱いには細心の注意を払い、作業目的や作業順序などを十分理解した上で装備点検を行わなければならない。
 作業を行うに当たって心得ておくべき基本的事項を以下に列挙する。
4・1・1 機器の内容についての知識
 作業の対象となる機器についての回路理論、回路動作、機械部分の構造については日頃からよく理解するように努めておくこと。
4・1・2 作業手順
 作業の一部が造船所や外注工場によって施工される場合には、事前に工事区分等について詳細な打合せを行い、工事計画に基づいた作業が行われるよう、十分な指導、あるいは依頼を行うことが必要である。
4・1・3 機器の現状診断
 作業に着手する前に、機器の配置の状態、機器の性能の状態、船舶の運航計画等を確認するとともに、レーダー日誌も点検して、問題点については、より綿密な調査を行い、現状を確認しなければならない。
4・1・4 故障箇所の調査
 故障箇所を発見するには、まず機能の全体的な面から問題点をとらえ、次に回路系統に区分し、最後に細部に及ぶように系列的に調査を行うことが必要である。故障に至った派生的、あるいは二次的な原因にのみ対処しても、一次的な原因(本当の故障原因)を取り除くことはできない。
4・1・5 修理の可否の判断
 手持ちの部品からその修理の可能性を判断し、部品やユニットの交換が必要な場合には、ユーザーの承認を得ること。
 部品の供給や技術相談を、その機器のメーカーから受ける場合には、連絡を密接にして、迅速かつ的確に行うこと。
4・1・6 高所作業を行うときの安全について
 レーダーマスト上での作業の場合には、次のことに十分注意して、安全な作業を行うように心掛けねばならない。
(1)作業は慎重に行い、「やりやすさ」より「安全」に重点をおくこと。
(2)必ず安全帽及び安全ベルト、又は命綱を着用すること。
 安全ベルトは必ず腰より高い位置に装着し、万一の場合に人体が逆転したり、抜け落ちないようにすること。
(3)鉄鋲の打ってある靴や油の付着した靴は、滑りやすいので使用しないこと。
(4)滑り事故を防ぐために手袋は使用しないようにする。ただし、寒冷時には、十分注意しながら着用する。
(5)工具や機材はロープや紐で結び、他の一端は自分のベルトや付近のステーなどに固定して落下しないようにする。
(6)作業場所の直下位置には、危険標識の注意札を立てるか、直下で作業する者に声をかけるなどして注意を促しておくこと。
(7)レーダーの空中線部に人体が接触したり、動作中の無線用空中線に触れて電波による障害を受けないように、これらの機器の電源を断にし、かつ、主電源や空中線回路などのヒューズも抜いておく。同時に、作業中であることの注意札をこれらの機器の電源スイッチ付近に取り付けておき、更に無線局員や現場の責任者にもあらかじめ了解を得ておくこと。
(8)ペンキ塗りの直後や、強風、大雨、大雪のとき、あるいは夜間での高所作業は中止すること。
(9)つり足場などの動揺や、反転のおそれのある装置はあらかじめ点検しておくこと。
4・1・7 保守・整備にあたっての注意事項
(1)CRTの陽極などには、電源スイッチを断にしても、高電圧が帯電している場合がある。高電圧の部分は、手を触れる前に蓄積している電荷を箱体等に放電させること。
(2)当該機器に結露が生じているようなときには、乾いた布で十分に拭き取ってから、あるいは暫く予熱状態で運転して乾燥させたあとに通電すること。
(3)空中線や送受信機の保守、点検の作業中に電源を入れられると危険なので、配電盤のレーダー用電源スイッチと、レーダー表示器の操作パネル上の電源(POWER)スイッチを断(OFF)にし、かつ、表示器の操作パネルと空中線マストの下部に(作業中)という注意表示をすること。
(4)レーダーを装備して初めて動作させるとき、及びマグネトロンを交換して最初に動作させるときには、電源スイッチを準備(STAND-BY)の位置にして、予熱時間を30分とってから動作(ON)にすること。長期間保管したマグネトロンを使用する場合も同様で、予熱時間を30分以上とり、カソードの破損などで寿命を短くしないように気をつけること。
4・1・8 点検整備の一般的な共通事項
(1)各機器間の配線の導通点検
 誤結線のために機器を焼損したり部品を不良にして、多大な損失を招くことがしばしばある。電線は、色分けや番号によって識別して結線するが、多心線で不明確な色は一度外しておいて導通点検するのが望ましい。導通テストの場合、一般的には片線を船体として利用する。番号でよく間違えるのは1と7、3と8、6(六)と9(九)であろう。急がずに一つ一つ確実に点検したい。
 同軸ケーブルの心線とシールド線がコネクタ内で短絡していたり、曲がりの部分が溶接の熱で短絡していることもあり、時には電線に釘を打ちこまれた事例もあるので、テスターで点検しておく必要がある。
 機器電源部と電源配電盤間の導通点検は、規定の電源供給盤へ配線されているか、ヒューズの容量は適正か、直流の場合は極性が合っているかどうかなどを点検する。
 溶接工事や内装工事等によって、ケーブルに傷がついたり接地したりすることがあるので、各線とアース間の導通を点検する。
(2)ケーブルの処理を確実に行い、ケーブルに合った栓口部品を使って確実に締め付ける。
 ケーブルの接続に誤りのないこと、シールド線やがい装の接地が完全に行われていることを確認し、そのあとにパテ(油性)を詰め込んでおくこと。
(3)機器の電源を投入するときの、各調整器の操作についての注意事項
(a)機器の電源スイッチは断の状態にしておくこと。
(b)表示器の操作パネル上の可変抵抗器は、一般的にC.C.W(反時計方向)いっぱいに回転させることにより、その機能が最小になるようにしてあるので、これらをC.C.Wいっぱいに回転させておくこと。
(c)スナップ(トグル)スイッチ類は断の状態にしておくこと。
(d)レーダーの電源スイッチが断の位置にあることを確認してから、電源配電盤のスイッチを投入し、レーダー内の電源ケーブルの接続端子盤で、電源の電圧とその極性が、規定の範囲にあることを電圧計にて確認する。
 電源が三相交流のときは、極性を誤ると回転部が逆の方向に回転することがある。
(e)電源入力側の絶縁抵抗を測定する際には、測定器からの高電圧が半導体素子に印加されないように注意すること。
(4)一般的な点検・整備項目
(a)各部品の装着、接地及び接触の状態が良好であること、及び変形等の異常がないことを確認すること。
イ. 各接続端子の締付けねじを点検し、緩みのあるときは増しじめする。
ロ. シールド線やがい装線の接地の状態を確認する。
ハ. 各ユニットの取付ねじの締付け状況を点検し、要すれば増しじめする。
ニ. 各ユニットの接地線の取付状態を確認する。
ホ. 各部のねじや接栓等に緩みや損傷はないか確認する。
ヘ. 各電気部品のはんだ付けの状態を確認する。
ト. プリント配線板に腐食やさびが発生していないか、水滴や塩類の付着によって絶縁が低下していないか、断線はないか、コネクタとの接触不良はないかなど念入りに点検し、確認する。
チ. PPI型CRT式表示器における偏向コイルのスリップリングとブラシの汚れや傷の状態を確認する。
リ. プリント板の装着の状態を点検し確認する。
ヌ. 各変圧器等から油漏れがないか確認する。
ル. 電気部品等に熱による変色や変形がないか確認する。
ヲ. 各ケーブルの結束の状況、端末心線の処理や固定の状況を確認する。
ワ. 各ケーブルグランドの締付けの状況、及び防水処理の状況を確認する。
(b)予備品と書類の内容を点検し、不足しているものについては、補充するように船主サイドに伝えておく。
4・1・9 定期的な点検整備
 機器の性能を正常に維持するには、故障修理のときはもちろん、定期的に点検整備を行うことが必要である。
 点検整備を行う場合に使用する測定器や工具の主なものとしては次のようなものが挙
げられる。なお、これらは、いずれも常に良好な状態に維持されていなければならない。
(1)携帯用ドリル
(2)オシロスコープ(5MHz以上)
(3)周波数測定器(9GHz帯の周波数の測定が可能なもの)
(4)テスター
(5)絶縁抵抗計(500V)
(6)導波管気密試験器
 約100kpa(1kg/cm2)が測定できる圧力計及び送気ポンプとコック付き、ただし導波管を使用するレーダーに限る。
(7)ストップウォッチ又はこれと同等のもの
 この定期的な点検整備は以下に述べる各項目別の要領による。
4・1・10 予備品の捕充
 予備品の数量とその状態を点検し、使用者側と相談して必要なものを補充する。なお、予備品については、電波法施行規則第31条の2項において、次のように予備品の備付けが義務づけられている。
 第31条
2. 法第37条に規定するレーダー(沿海区域を航行区域とする船舶の船舶局及び専ら海洋生物を採捕するための漁船の船舶局及びその船舶の入港中に定期に点検を行い、並びに停泊港に整備のために必要な計器及び予備品を備えることができる船舶局に設置するものを除く。)に備え付けなければならない予備品は、第1項の規定にかかわらず、次のとおりとする。ただし、二台のレーダーを備え付ける船舶局にあっては、各装置に共通に使用することができるものについては、装置ごとに備え付けることを要しないものとする。
一 マグネトロン 一個
二 サイラトロン 一個
三 受信用の局部発振管及び高周波混合素子 各種一個
(集積回路に使用されているものを除く。)
四 送受切替用特殊管(ATR管を除く。) 一個
五 空中線駆動用電動機のブラシ 現用数と同数
六 ヒューズ 現用数と同数







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