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(3)サイリスタ整流器の位相制御角と直流電圧
 前各項にて代表的なサイリスタ整流回路の動作について概念的な説明を行ったが,位相制御角と直流電圧との関係を数式で示すと表2.2の通りで,これを連続的特性曲線として表したものは図2.100に示される。
 
表2.2 各種結線方式によるサイリスタ整流器の位相制御角に対する直流電圧平均値
注:Edo:
無負荷制御時(α=0の時)の直流電圧平均値,その値は表2.1に示される。
 
図2.100 サイリスタ整流器の順変換における位相制御角と直流電圧
 
(4)サイリスタ整流器の位相制御角と入力力率
 入力側の交流の力率は位相制御角に大いに左右されて変化することは単相,三相の何れの場合も同じであるが,図示の関係上,ここでは三相サイリスタ整流回路を例にとり説明する。
 
図2.101 位相制御角αによる交流入力電流の交流電圧に対する位相変化
 
 整流器の電源側交流のu相の電圧を図2.101の(A)図に示す通りとし,負荷電流が平滑化しているとするとu相巻線の負担する電流は短形波とみなされる。処で位相制御角零の場合はu相巻線に流れる電流は(B)図に示すように,その電流の基本波(主体を成す交流波成分)は電圧と位相が一致しているが,位相制御角が零より大きくなると,電流の基本波I1は(C)図に示すように,位相制御角αの大きさに応じて,位相遅れψが大きくなり,したがって,入力の力率も低下するようになる。全アームがサイリスタで構成される三相全波ブリッジ整流器の場合はα=ψとみなされるので,この場合の1相分の負担する基本波入力電力Pは,交流電圧実効値をVとすると,P=V・I1・cosα1で示される。処で,直流出力電圧はcosα1に比例して低下し,一方cosα1は入力力率に相当するので,上式は出力電圧の低下と共に入力力率が低下することを意味している。
 直流電動機の始動の場合のように,サイリスタ整流器の出力電圧を低下させて始動電流が流される場合には,以上の理由から突発的な無効電流がかなりのものとなり,電源系統電圧の瞬時降下を引き起す恐れがあるので注意を要する。
 直流から交流にエネルギーを変換する装置をインバータと称するが,船舶で一般に採用しているインバータは主として航海灯などの重要負荷に対し主電源停電時の緊急給電用のもので,蓄電池を電源とする静止形のものである。これ等の静止形インバータは一般に並列インバータという結線方式のもので,その基本動作は図2.102(a)に示すように変圧器の一次側の巻線を2分割し,その各々に交互のスイッチを切り替えて電流を流してやると,高圧側の二次巻線に交流電圧を誘起する原理に依っており,このスイッチに相当する部分をサイリスタによって置き替えたものである。単相並列インバータの回路では図2.102(b)に示すように2箇のサイリスタが配置されサイリスタのゲートにはトリガ信号(点弧信号)が交互に与えられる。サイリスタS1が導通すると変圧器巻線an間に蓄電池電圧と同じEなる電圧がかかるので,巻線の両端には変圧器作用により2Eの電圧が発生し,これが転流コンデンサCに充電する。
 
図2.102 単相並列インバータの結線図
 
 次にサイリスタS2のゲートにトリガ信号が与えられ,S2をターンオンすると,一次巻線を流れる電流の向きが前と逆になるので,ab間に誘起する電圧の極性も逆になり,S1の陽極電圧が瞬間的に−2Eまで低下するのでS1はターンオフし,一方転流コンデンサCは前と逆の極性の2Eの電圧で充電される。このように交互にトリガ信号がサイリスタに与えられることによって,ON,OFF動作を繰り返し,交流電圧を発生する。この結線方式では電圧と位相を異にする誘導性の負荷電流が流れると,それに対応して変圧器一次巻線に遅れ位相の電流が流れ,これを転流コンデンサCが吸収しなければならないことになるので,力率の低い誘導性負荷の場合は,このコンデンサの容量を増大しなければならず,また,これによって瞬間的に発生するピーク電圧の抑制処置も必要となる等不利な点が生じるので,リアクタンス負荷のように無効電流分を含む一般的な負荷に対しては次に示す改良形並列インバータ(改良マクマレーインバータとも呼ぶ。)が使用に適している。
 
図2.103 改良形並列インバータの結線図
 
 改良形並列インバータの回路は図2.103に示すように,並列インバータの無効負荷電流に対する動作機能を改良するためにフィードバックダイオードと称しているD1,D2のダイオードを挿入した点が特徴的である。誘導性負荷電流は電圧が零となっても流れ続けようとするので,例えばサイリスタS1がターンオフしても負荷電流の遅れ無効電流分ILに対応して一次巻線にIL2が流れようとする。この電流に対しダイオードD2が導通してこの無効電力を電源に送り返すように働く。
 また,この回路では遅れ力率の負荷のみでなく,進み力率の負荷もフィードバックによって補償することができるので,転流コンデンサCの容量を小さくすることができ,また,無負荷から全負荷に至るすべての負荷状態で方形波出力電圧を出すと共に,サイリスタに異常に高い電圧がかかることがないので,性能,安定性及び経済性の点で非常に優れた回路方式とみなされ,広範に使用されている。







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