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(4)トランジスタ
 トランジスタは図2.70に示すように,PN接合のダイオードに,もう一つの半導体を追加して,三つの電極を付けた原理構造のもので,P形,N形半導体の接合配列の仕方によって,PNP形とNPN形の2種類がある。トランジスタはダイオードと同じく,ゲルマニウム又はシリコンを素材として作られるが,シリコントランジスタの方が耐熱特性が格段にすぐれているので,現在実用されているのは殆んどがシリコントランジスタである。トランジスタの極はPNP形及びNPN形の夫々につき図2.71のように示される。即ちPNP形接合の場合は,一方のP形をエミッタE,他のP形をコレクタC,中央のN形をベースBと呼ぶ。回路図記号で表示する場合は一般に図2.71に示す表示法による。
 
図2.70 PNP形模型図
 
図2.71 トランジスタの表示記号
 
 トランジスタの動作を最も多く採用されているエミッタ接地の接続の場合について次に説明する。
 
図2.72 PNP形エミッタ接地
 
 図2.72に示すように,コレクタCに負の電圧を,エミッタEに正の電圧を加えると,BとCとの間にPN接合部に電流阻止方向の逆電圧がかかったことになるので,BとCの間には殆んど電流は流れない。次でエミッタEに正,ベースBに負となるような電圧(バイアス電圧)を加えると,EB間のPN接合に対し,順方向電圧がかかったことになるのでエミッタEの正孔((+)電荷に相当)はベースに向って流れ込む。ところがベース層は極めて薄いので,大部分の正孔はベース層を通り抜けてコレクタCとの境界面に達する。
 ここまで来ると正孔はコレクタCに加えられている負の電圧により引張られてコレクタ側に急に吸い込まれる。しかしベース層を通過する際,正孔の一部はベース領域内で電子((−)電荷)と結合して中和するのでベースから不足分の電子の補給を受けるために直流IBが流れる。エミッタに流れ込んだ正孔即ちエミッタ電流の大部分はコレクタ直流電流ICとなる。電流IE,IB及びICの間にはIE=IB+ICなる関係がある。
 エミッタ接地の場合のトランジスタの出力静特性の一例を図2.73に示す。この図はベース電流を幾通りかに選び,それぞれの値を一定としてコレクタ電圧対コレクタ電流の関係を示したものであるが,コレクタ電圧10Vにおいて,ベース電流を100μA変化させると,コレクタ電流が約9.5mA(100μAの95倍)変化することを示している。
 トランジスタでは通常,入力電流をベースとエミッタ間に加えると,コレクタから増幅される出力として電流を取り出すことができる。エミッタ接地のトランジスタ回路でエミッタとベース間に微少交流入力信号電圧を加えて,コレクタ側に交流出力電流icが2.74図に示すように電流が増幅されて取出される。
 
図2.73 エミッタ接地における接合トランジスタの静特性
 
図2.74 エミッタ接地のトランジスタ増幅回路
〔入力電圧と出力電圧との間には位相反転あり。〕







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