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II. アイルランドのホスピス視察
Our Lady's Hospice
 5月29日、先行していたメンバーとアイルランドのダブリンで合流し、早速ホスピスの見学を行った。まず訪れたところは、1週間後にオープンを控えたOur Lady's Hospice の新設施設ともいうべきBlakrock Hospice である。カルメル会修道会の教会跡地に建てられた地上2階地下1階の16ベッドをもつ施設である。ここは私たちの理解のとおり、がん患者のための緩和ケアと終末期のケアを行うとのこと。ピースハウスと似た建物である。ここでどのようなケアが提供されるのか、2、3年後に訪れてみたいものだと思った。
そして、翌30日、近代ホスピスのはじめとして日本に知られてきたOur Lady's Hospiceを見学した。
 このホスピスは1879年、治癒の望めない結核患者を収容するために、9ベッドをもつ施設として始められたものだという。「治癒の望めない」患者を収容するという意味では確かに近代ホスピスのはじめとはいえようが、対象疾患が結核ということでは必ずしもそうとはいえないかもしれない。
 当施設は、1888年には110ベッドにまで増え、その後、痴呆やリウマチ患者を収容するようになり、現在は36ベツドのホスピス病棟のほか、リハビリテーション病棟(46ベッド)や一般老人病棟(108ベッド)をもつ総合病院として機能している。1985年からはホームケアを開始し、1995年にはデイケアを提供するようになった。
 ホスピス病棟を案内していただいた。アイルランドの医療は英国と同じNational Health Service(NHS)によって提供されていることもあり、病室はほとんどが4床室、簡素なつくりである。入院者はがんに限っているとのことであったが、高齢者がほとんどのようであった。
III. 英国・ノーリッジのホスピス視察
Priscilla Bacon Lodge
 5月30日、アイルランドを発って英国・ロンドンの空港から直接ノフォーク州ノーリッジ市に向かった。翌31日、Priscilla Baccn Lodge を見学した。
 ホスピスはノーリッジ市の郊外住宅地に位置している。建物は平屋で、中央に広いロビーが設けられ、そこには居心地のよいソファーが配置され、誰もがくつろげる場所となっている。個室と4床室あわせて25ベッドをもち、NHSのもとで運営されている地域に密着した活動を行っている。ただし、英国の看護師不足はこのホスピスにも及び、一部ベッドを閉鎖しているとのことであり、入院患者は家庭でケアができない老人が比較的多いように見受けられた。また、同地域には子ども専用の22〜25ベッドのホスピスが別に設けられている。
 
NHSによるNorwich Primary Care Trust の緩和ケアシステム
 
地域密着型ホスピスとしての活動
 まず何よりも感心させられたのは、スタッフ、ボランティアの私たちへのこころ暖まる歓迎ぶりであった。
 全員が前庭で2列に並びアーチをつくって私たちを出迎えてくれた。また、案内の手順も前もって周到に用意されていた。ビデオで施設や活動状況の説明のあと、2グループに分かれて施設内を見学、そののちホスピスの各スタッフと個別的に話し合う時間がたっぷりと設けられており、一人一人の質問にそれぞれの担当者からていねいに答えていただくことができた。
 この施設は、NHS のもとで地域に根ざした活動をするということが徹底している。地域のニーズによってデイケアを週4日行い、1日平均15名程度受け入れていること、15名のナースのうち6名はマクミランナース(がん専門看護師)が含まれおり、おもに在宅ケアを担当しているとのことであった。また子どもを対象にしたグリーフケア専門ナースも1名配置されていた。このナースの活動対象はホスピスで家族を亡くした子どもに限らず、地域の小・中学校などとも連携をとって、たとえば交通事故などで家族を失った子どもなどにもきめこまかなグリーフケアに当たっている。
 また、地域に向けての広報活動もよく行われており、わかりやすく書かれた数多くのパンフレットが作られていた。
 施設については日本のホスピスのレベルと大差ないか、もしくは日本のほうが充実しているともいえるが、ホスピス本来の意味でもあるホスピタリティについては日本はまだまだ及ばないと感じさせられた。施設は外に対してオープンであってこそ、地域から支持されるものとなり、多くの利用者を迎え入れることができるのである。いま一度ホスピスなど医療施設のあり方について、医療スタッフ全員が原点を再確認すべきことを学ばされたホスピスであった。
 
Priscilla Bacon Lodge のパンフレット







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