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7. 技術検討事項(Technical Discussion)[NK]
 技術検討事項として、まずShip Common Modelにおける考え方からはじめ、その後にAP215 (Ship Arrangement) において重要な項目である船の配置、区画、区域の考え方を説明する。Ship Common Modelは、他の分野におけるAPには無い船用APs独自の考え方であり、また全APsに関わる部分であるので、全船用APsを理解する上で大変重要な部分となっている。更に、ここでは船舶の構造に応じた物理的区分けから、貨物区域や防火区域等、区画の用途や要件に応じた論理的区分けについて解説するとともに、建造時における船体ブロック搭載を考慮した区分けについても説明する。また、商船のみを対象とするのではなく、艦艇における任務や防衛システムの立場から船体配置を検討した場合についても報告する。
 
 船舶の分野では他の分野に比べたいへん複雑で多岐に渡る情報が関わり合っているため、船舶の製品モデルを考える上で船舶全般を1つのモデルで考えることは非現実的であり、機能単位に分けて考えていくことが製品モデルの開発における効率面等に対し有効であると考えられる。船舶製品モデルで重要となる要素は以下のようなものが挙げられる。
- Arrangement
- Moulded forms
- Mechanical systems (machinery, propulsion, cargo handling)
- Structures
- Distribution systems (piping, HVAC, electrical, hydraulics/pneumatics)
- Outfitting and furnishings
- Communication
- Combat systems
- Navigation
- Operation
 
 この様な考えのもと、船舶製品モデルの開発において、機能単位毎にAPを分割し各々開発することとなった。現在開発中の船用製品モデルとして次のものが挙げられる。
 
- ISO 10303-215: Ship arrangements
- ISO 10303-216: Ship Moulded forms
- ISO 10303-218: Ship structures
- ISO 10303-227: Piping systems and Mechanical Systems(Plant Spatial Configuration)
- ISO 10303-212: Electrical systems
 
 全ての船用製品モデルを分割することは、それぞれの分野を並行してモデリング作業を行うことを可能にしており、全ライフサイクルに渡る各段階のうち、設計・製造等の初期段階のモデリングを先行して行い、その後に運用・保守等の段階のモデリング作業を開始すると言ったことを可能にしている。
 しかしながら、実際の業務等においては全船用APsの分野が複雑に関連し合っているため、複数のAPsを必要とする場面が多々発生することと思われる。このことから、全船用製品モデルの中の一部分のみをモデル化している各船用APsを統合するようなメカニズムを定義する必要がでてくる。この様な各船用APsを統合し整合性を保つメカニズムを、Ship Common Modelと称している。
 
 Ship Common Model (以降SCM) では、全ての船用APsにおいて適用できる共通の構成要素及びモデリングの基本的要素を定義している。SCMは、図7-1に示すような三つのパートに分かれており、それぞれModelling framework、Domain models、Common utilitiesとなっている。
 
図7-1 Parts of the SCM
 
 また、SCMはBuilding Blocksからなっている。このBuilding Blocksは、船用製品モデル特有のものであり、船舶製品モデルのコンテキストに使用され、ある機能単位(UoF)の一部または全てを表現するための構成要素となっている。SCMはモデリングの構造を示すものであり、これは複数のAPにおいて必要とされる製品構造モデルを定義しており、同様に各APs間で共通に用いられる構成要素やutilityについても定義している。SCMの最終的な目的は、異なる船用APにおけるアプリケーション参照モデル(ARM)を統合し、整合性を保つことにある。
 
 SCMにおいて定義しているモデリング構造は、関連付けの方法、プロパティの定義方法、表現方法についての一般的な概念を示している。つまり、船舶の全ての製品モデルにおける共通の概念を示しており、全ての船用APsにおいて用いられることとなる。図7-2に示すように、FrameworkはSCMの中の一部分を占めている。
 
図7-2 Modelling framework
 
 SCMの構造は、以下のBuilding Blocksからなっている。
- definitions
- generic_product_structures
- representation_resources
 
 このFrameworkは、船舶製品モデルの最上位に位置するものであり、主要な構成概念により製品モデルを分割し定義している。このframeworkは、船舶の全APに適用されることとなる。主要な構成概念には、definable_objects、definitions、representationsがあり、relationshipによりリンクが取られている。図7-3にSCM frameworkの構成及び要素間の関係を図示した。
 
 このframeworkの重要な部分は、definable_objectsの概念にある。definable_objectsは、製品に関する活動において用いられる個々のものである。definable_objectsは、最も一般化されたオブジェクトであり、ここからより特化したオブジェクトへと派生していく。SCM framworkにおいては、item、item_relationship、item_structureへと派生している。definitionはdefinable_objectsを記述しており、つまりはモデルの記述的な概念のエンティティを示している。また、definitionは更にDesign definition、Functional definition、Manufacturing definition等に分類することとなる。1つのdefinable_objectsが異なるバージョンのdefinitionを持つこともあり、ライフサイクルに渡ってdefinitionが変更される場合もある。
 
 SCM frameworkにはitemエンティティがあるが、船用APsにおける典型的なitemは次のようなものが挙げられる。
−船舶の構成要素:船殼、船楼、甲板、プロペラ等
−異なる視点からの船舶の部分:アセンブリ、システム、スペース等
−設備:ポンプ、発電器、主機、配管等
−鋼材構造のエレメント:プレート、プロファイル、二重底、フレーム、隔壁等
−鋼材構造のエレメントの形状:開口、カットアウト、エンドカット等
−機能上のエレメント:左舷、論理的な接合等
 
 itemのプロパティはdefinitionから引かれている。definitionはitemに対して定義されるが、definitionが無い場合についてもitemは定義される場合がある。概念の全てのプロパティ(つまり、itemに対する全てのdefinition)は、多くの異なる方法により定義される場合があるので、definitionは異なるrepresentationを持つことができるようになっている。しかしながら、ある場合においてはrepresentationを持たずにdefinitionを定義することも可能である(オプショナル)。船用APsにおいては、新しくrepresentationを定義する際に、SCM frameworkにあるrepresentationの下位型として定義することができる。Modelling frameworkにおける主要な概念間の最上位レベルでのrelationshipは、各々のAPのサブタイプに限定され、これはその属性の宣言により実行される。
 
図7-3 ExpressG of SCM framework
 
 Domain modelsは、SCM frameworkの下位型として一般的な要素を定義している。全てのAPsが各要素を用いるとは限らず、また複数のAPsが同一の要素を用いる場合もある。SCM frameworkでは全ての船用APsが適用する概念を定義していたが、Domain modelsでは各APsが必要に応じて部分的に用いるものである。図7-4に示すように、Domain modelsはSCMの一部分を占めている。
 
図7-4 Domain models
 
 Domain modelsは、アセンブリ、システム、スペースから見た製品と言ったように、様々な観点からモデル化された製品を体系化する基礎となり得るものである。(例えば、船殼構造におけるcutoutはfeatureへ、pipingはsystemへと集約される。)しかしながら、これは製品データを体系化する為のモデリング技術を暗に与えていることにもなる。つまり、Domain modelsは、必要に応じて製品データを体系化させるような一般的な概念を示しているのである。この様にすることにより、それぞれのAPsの開発において新たにモデリングの方法を定義し直す必要が無くなり、既にDomain modelsに従って開発された他のAPsとの整合性を保ちながらモデリング作業を容易に行うことができるようになる。
 
 以上のようにDomain modelsに合わせて製品データを体系化するのは、実世界のオブジェクトを反映させる必要性のみに焦点を当てるのではなく、複数のAPsで相互に使用でき、整合性をもつframeworkに準拠させる必要性から行われている。
 
 SCMでは各APsと同様に機能単位にUoFを定義しているが、例としてSCMにおけるproduct_structures UoFに属しているDomain modelsを以下に示す。
- features
- parts
- product_structure_by_system
- product_structure_by_assembly
- product_structure_by_space
- connection_topology
 
 Common utilitiesは、ほとんどのAPsにおいて必要となるであろう概念を集めたものである。Common utilitiesは、多くのケースに対しARMにおいてそのまま使用できるものであり、使用の際に更なる特定化を必要としない点において、Modelling frameworkやDomain modelsとは異なっている。Common utilitiesの多くが船舶に特化したものとなっているが、いくつかは他の分野においても使用可能な場合もある。
 Common utilitiesには、現在次のものが適用されている。
- ships and ship types
- ship's general characteristics
- configuration management
- location concepts
- basic geometry and topology
- materials
- measures and units
- external references
 
図7-5 Common utilities







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