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3. STEP及びSHIP APsの概要
 
 STEPとは、Standard for the Exchange of Product dataの略で、製品データの表現と交換に関する国際規格(ISO 10303)である。主として工業製品に関する設計、製造、運転、保守など、そのライフサイクルに渡って用いられるデータの表現方法を計算機が解釈可能な形で表現するもので、これら製品のデータを計算機の種類やアプリケーションから独立に扱うことを実現するものである。STEPの特徴は、このように計算機による解釈を可能にするために、規格そのものが通常の自然言語ではなく、Express言語という形式言語が用いられていることにある。これによって製品の仕様を厳密にしかも頑強に定義することによって、表現のあいまいさの除去とその結果によるデータ交換の確実性を実現している。
 
 STEPは元々、機械製品を対象としてスタートしたが、その対象が今日ではプラント建設や船舶・造船あるいは電気・電子、さらには製品ライフサイクルのように大きく広がっている。なお、これらの応用分野には、自動車、船舶のような業種特有のものと、3次元幾何や図面のような業種共通のものに大別される。今日、最も多く利用されているものに、3次元幾何のデータ交換があり、ほとんど全てのCADシステムが、そのプロセッサーを実装するに及んでいる。これに対して業種特有のものは、未だ実用面での活用は十分に浸透しているとは云えない。
 
 個々のSTEP応用規格は、要件定義を行っているARM(Application Reference Model)とその情報モデルを定義しているAIM(Application Interpreted Model)から成り、いずれもがExpress言語及びそれの図式表現であるExpress-G表現方法を用いて定義されている。前者のARMが完全に利用者の見方であるのに対して、後者AIMは情報の見方で記述されている。このために前者は利用者が見て即、内容を理解できるのに対して、後者は先ず理解不能である。逆に言えば、一般の利用者はARMを、IT技術者はこれに加えてAIMを理解する必要がある。ARMとAIMの関係を定義しているのは、マッピングテーブルと呼ばれるもので、情報モデルを理解するには、このテーブルを参照する必要がある。この辺りがSTEPは難しい、或いはSTEPは複雑と呼ばれているゆえんであるが、業務技術者の世界とIT技術者の世界と分けて考えれば、その妥当性はうなずけないものではないだろう。
 
 実際に表現されるデータはAIMの形式に従うものであり、その意味では業務側の技術者といえどもある程度はこれについて知っておく必要がある。ARMのモデルからAIMのモデルを作成する(マッピングする)にあたっては、基本的にSTEPが有するリソースと呼ばれている基本表現要素を組み合わせることになっていて、勝手に新しい要素を作ることは許されていない。この基本表現要素には幾何を表すもの、構成を表すものなど製品にまつわる多くのものが準備されている。これらは40番台の番号が付与されている。一方、応用部には200番台の番号が与えられる。
 
図3 STEP規格の体系
 
 さて、通常STEPデータの外部表現形式としては、テキスト形式のファイルが用いられる。これは一般にSTEPファイル、又は規格の21番にて決められていることもあって、Part21ファイルとも呼ばれている。利用者はシステムAが出力したSTEPファイルを、システムBに読ませることでデータ交換を行う。
 
 ところで、STEPのシステムを実装するにはどうしたらよいのであろうか?例えば、船主から参考データとしてSTEPファイルが送られてきた場合、先ずその内容を見る必要がある、あるいは船級協会からSTEP形式によるドキュメントの提示が求められた場合に既存のシステムからSTEPファイルへの変換が必要になる。これらの為にはSTEPの送受信のシステムが必須となることはいうまでもない。近年幾何形状に関してはほとんど全てのCADシステムがトランスレータを装備しているので何の問題もない。しかしながらShip STEPについては幾つかの問題が残る。少なくとも日本においては造船所独自のCADシステムが主流であり、自ずとそれ専用のトランスレータを開発する必要がある。STEPシステムとインターフェイスを取る方法としては、STEP専用のアクセスインターフェイスが規格の22番に決められていてこれを利用してC++などの言語で結合する方法と規格の14番にて定められているマッピング言語というものを用いて解決する方法がある。後者はSTEPの特徴であるExpress言語の優位性を遺憾なく発揮できることで着目されている。なおSTEPシステムの開発には使い込まれた開発キットを利用するのが一般的であり、ゼロからシステムを構築するのは費用や保守性などの観点からも好ましくない。
 
 船用STEP APの全体構成は、図3.1に示す通りである。船舶の製品モデルを表現するためには図に示されるような種々のAPが必要であるとされるが、平成14年10月に開催されたソウル会議にてAP226及び234がCancelとなり、AP226はAP227 2nd Editionに組み込む方針が決定、AP234はAP227 2nd Edition及びAP239(PLCS)への組み込みが検討されることになった。Ship APsの規格開発作業は当初予定に比べこれまで大幅な遅れとなっていたが、ここ2〜3年欧米を中心とした積極的な活動により、現在は下記4種類のAPのうち、AP216は2003年8月にISO 10303-216として発行され、AP215、AP218、及びAP227 2nd EditionもDISフェーズからIS発行フェーズへと規格開発が進められて来ている。これら各APの概要については、3.2以降に記述する。
 
(1)AP215: Ship Arrangements(船体区画配置情報)
(2)AP216: Ship Moulded Forms(船型情報)
(3)AP218: Ship Structures(船殻構造情報)
(4)AP227 2nd Edition: Plant Spatial Configuration(Plant/Ship配管情報)
 
 船舶の製品モデルには、この他にも、通信、ナビゲーション、戦闘システム、艤装、空調、電装、等を考える必要があるとされている。ただし、船舶は、最近まで6種類あったAPを他の関係するAPと統合するなどして、現在4種類あるAPのうち3種類をISとして制定する最終段階にきており、しかもいずれも当初予定した審議日程に大幅な遅れを生じさせている現状から、APの種類を増やすことを考える以前に、少なくともまず優先したAPの開発・制定を急いできた。また、日本でもこれらの状況の進展に応じて、現実的な課題として、実装面での評価・検討が必要な時期になりつつある。
 なお、最近では上記APsに加え、ライフサイクル関係のAP(AP239)、家具関係のAP(AP236)及びNC関係のAP(AP238)等の検討が進められている。
 
図3.1 Ship Product Application Protocols
 
 各APの概要は次の通りである。
 
3.2.1 AP215: Ship Arrangements
 船の機能設計から生産までのライフサイクルの中で、船体の内部分割を表現する製品データを対象としており、非損傷時および損傷時の復原性、タンク容積、縦強度などの諸計算や重量解析、干渉解析、HVAC解析、衝突解析などの活動をサポートしている。取り扱われる情報は区画(貨物倉などの物理的区画、防火区域などの論理的区画)、区画の関係、積載容積や荷重条件、他システムからの要求などである。機能としては区画(Compartments)、区画設計定義(Compartment Design Definition)、区画特性(Compartment Property)などのモデルを取り扱う。なお、このAPの概要を図3.2.1-1に示す。
 STEP APではAAM、ARM、AIMの3つのモデルで段階的に定義される。第一段階のAAMは一般配置設計業務の処理と情報の流れ(業務フロー)を定義し、AP215がその業務のどの部分を対象としているかを利用者に示す。第二段階のARMは一般配置設計業務の製品モデルを利用者が理解できる単位で定義し示す。第三段階のAIMは計算機システムで処理するための厳密に定義されたモデルである。従って実務上利用者がフォローできるのは、AAM、ARMまでで、AIMはSTEP製品モデル表現を熟知したシステム部門開発者あるいはソフトウェアベンダーである。
 ここで「製品モデル」の用語を説明しておかなければならない。「製品モデル」とは業務対象の製品に関する技術情報全体のデータ表現で、単なるデータの羅列ではなく、そのデータに技術的意味ももたせた構造とすることによって、業務途中のデータや抽象的な概念を表現し、業務プロセスを管理支援することができる製品データの表現構造である。
 STEPの製品モデル表現は、
・製品の企画から廃棄までの製品ライフサイクル全体にかかわる製品データを表現する。
・製品データの基準表現(AP215製品データ表現モデル)とソフトウェアシステムとしての実装(Part21、STEP交換ファイル形式)の規格とを分離することによってファイルによる交換のみでなく、データベースへのアクセスインターフェイスの規格化も図る。
ことを目的としている。AP215の概要を示した図3.2.1-1中「適用業務」として囲った項目はAAMで定義された一般配置設計業務フローで発生する作業である。AAMの詳細については別添資料1: AP215調査解析報告書の4章を参照されたい。
 一般配置設計業務で発生する作業とAP215で規定された製品データモデル表現(アプリケーションオブジェクト:AOおよび機能単位:UoF)の主なものとの対応を表3.2.1-1に示す。各AOおよびUoFの詳細については別添資料1: AP215調査解析報告書の5章を参照されたい。表は例えば、A12221区画定義作業で生成、変更される製品データがprincipal_characteristics(AO) などの表現形式を用いて記述されることを意味している。具体的には作業者がAOの表現形式を参照し実際のデータをPart21形式のSTEP交換ファイルのフォーマットで記述していくが、この作業は当然人力では不可能であるためインターフェイスプログラムやデータベースなどのソフトウェアシステムの支援が必要となる。このシステムの開発は業務内容に熟知した設計従事者とSTEP製品モデル表現を熟知したシステム部門開発者あるいはソフトウェアベンダーの共同作業で行われることになる。このようなソフトウェアシステムが完備した暁における業務フローを図3.2.1-2に示す。AP215で示されたこのAAMはあくまでも理想化された1モデルであり、システム開発に当たっては各社独自の業務フローすなわちビジネスモデルが存在し、実際のフローは図3.2.1-2で示したように単純ではないと思われる。複雑な実業務に対してどのように製品モデルを適用していくかは実務上重要な問題であるが、STEP製品モデルを核として効率的、発展的なビジネスモデルを一旦組み上げてしまえば、インターネット技術に代表されるIT技術と相まって計り知れないビジネスチャンスが生まれるものと期待される。STEP規格の適用は実務者による規格の理解と同時に現状の業務形態を将来を見据えたあるべき姿に改変する視点が必要である。
 
図3.2.1-1 AP215の概要
AP215 (Ship Arrangement: 船体区画配置情報) の概要
(拡大画面:85KB)
(Fig.3.2.1-1_AP215.ppt)
 
 
 
表3.2.1-1 一般配置設計業務フローとAOの対応
(一般配置設計業務フローとAOの対応.xls)
(拡大画面:31KB)
 
 
 
図3.2.1-2 AP215による業務フロー
(拡大画面:21KB)
(AP215による業務フロー.xls)







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