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<協会だより>
1. JTCA第5回政策説明会開催
 「JTCA第5回政策説明会」が平成15年11月7日午後2時から、レストラン立山において開催されました。約20人の参加者を迎え、「ODAにおける環境社会配慮について」国土交通省総合政策局 国際業務課課長 稲葉 一雄氏に講演をいただきました。講演の中で課長は、「JICA環境社会配慮ガイドライン(案)」については、その理念、基本方針等について、パワーポイントを使って、また、「環境社会配慮ガイドライン改定委員会の提言(案)」については、検討の背景、環境社会配慮ガイドラインの基本的なありかた、その適切な実施・遵守の確保等について、わかりやすく説明がされました。
 
熱心に聴講する参加者
 
2. 第5回運輸国際協力セミナー開催
 平成15年12月16日、国際協力銀行(JBIC)環境審査室長の畑中邦夫氏をお招きして、今年度第5回の「運輸国際協力セミナー」がレストラン立山で開催され、JBICの新しい「環境社会配慮確認のためのガイドライン」について、ご講演をいただきました。
 講演では、まず、今年10月1日に完全施行されたJBICの新しい「環境社会配慮確認のためのガイドライン」策定の経緯についての解説の後、その理念と基本方針、その目的と位置付け、手続きに及び、カテゴリー別の環境レビューとモニタリング、更にJBICと相手国の環境社会配慮確認に係る情報公開、意義申立て手続きのプロセス等について、実際のガイドラインの条文を引用しつつ、分かりやすい解説を中心にして、約1時間20分にわたるお話しをしていただき、その後約20分間、質疑応答が行われました。
 特に、新ガイドラインに対する開発途上国の反応と実施機関に理解されていない現実、以前よりも厳しいガイドラインの採用による案件発掘や事業実施の遅延への対応、空港のチェックリストに電波障害を入れるべきこと等について、忌憚のない意見交換が行われました。
 会場には、40名近い会員企業の関係者、国土交通省の関係者にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。
 
日時:平成15年12月16日(火)16:30〜18:20
会場:レストラン立山「D会議室」
テーマ:「JBICの新しい環境社会配慮確認のためのガイドラインについて」
講師:JBIC環境審査室長 畑中 邦夫氏
 
3. 国際観光開発促進協力調査「スリランカ」
対象国:スリランカ民主社会主義共和国
調査期間:平成15年10月13日〜11月3日(22日間)
 
【調査の概要】
 
1. 調査の背景
 スリランカ政府は、20年にわたる「タミール・イーラム開放の虎(LTTE)」との内戦に終止符を打つべく本格的な和平交渉を進めている。インド洋上の日本シーレーンの要衝であると共に伝統的な親日国であり、わが国としても和平プロセスへの積極的支援を行っているところである。同国は、北海道よりやや小さい面積ながら、7つの世界遺産が示すように、多様で、しかも優れた観光資源を有している。紀元前5世紀頃より古代文化が栄え、仏教文化の長い歴史があること、ポルトガル、オランダ、英国と続く植民地支配の中で独特のコロニアル文化が培われた歴史・文化観光資源が豊富なこと、長い海岸線のビーチと標高2000mに及ぶ高原地帯、砂漠から多雨までの気候のバラエティとそれに伴う動植物などと自然観光資源も豊富である。また、人々も温和であり、識字率が高いことなど人的資源もあり、観光についてのポテンシャルは極めて高い。
 1990年代初めに作られたスリランカのマスタープランでは、外国からの来訪客数を当時の40万人弱から2000年には80万人とする計画が立てられていたが、1983年の民族対立に端を発した暴動事件等により観光面に大きなマイナスの影響を与え、現在でも40万人前後の数字(2002年:39.3万人)に留まっている。
 
2. 調査の目的
 スリランカにおいては、長年の紛争が観光振興に大きな影響を与えていたが、和平の動きが具体化しつつある。元々スリランカの観光については、豊富な観光資源があり、当面それほど大規模な投資をしなくても、海外からの観光客が増加すれば、外貨獲得、雇用増加に寄与するところが大きく、同国政府は和平後の観光促進に期待を抱いている。
 そこで、同国観光省や政府観光局等の政府関係機関と意見交換を行うと共に、出来るだけ広い範囲で各地を視察し、観光資源の現状、受入れ態勢の現状等を調査することによって、今後の国際協力の方向を探ることを目的とする。
 
3. 現状
(1)世界でも有数な都市遺跡、仏教遺跡が集積するアヌラダプーラ、ポロンナルワ、キャンディの3古都を結んだ文化三角地帯、南西海岸のビーチとコロンボ及び歴史的港湾都市ゴール、未開発ながらポテンシャルのある東部海岸のビーチ、紅茶農園など独特の風情を残すヌワラ・エリアが代表する中南部高原山岳地帯、ウダワラウェ国立公園の自然保護地域などを踏破し、多様で豊富な観光資源があることを確認出来た。また、世界遺産の保全、維持にも継続して多大な努力を払っていることも確認することが出来た。
(2)既に増え始めた海外からの観光客:本年1月から9月までの海外からの来訪者数が対前年同期比で22%の増加を示しており、ここ数年は40万人前後であった年間来訪者数が今年は50万人の大台に乗せることが確実だとみなされている。
 
アヌラダプーラ:
ルワンウェリ・サーヤ大塔紀元前2世紀の建造物
 
ポロンナルワ:
ガル・ビハーラ(涅槃像、立像、坐像の3体の仏像)最近保存のため屋根がつけられた
 
(3)和平についての実感:今後の観光の伸びにとって「和平」は重要なキイとなるが、東部のトリンコマリーとその周辺を回った際、長い内戦に人々が飽き飽きしていること、トリンコマリー周辺私企業の複数のホテルがリノベーションを実施し早々と東海岸への来訪客に備えていること、東海岸からの小中学生の団体がアヌラダプーラ、ポロンナルワなどの遺跡を訪れるなどの行き来をしていること、などから和平が本物でありそうだとの感触を得た。一方、長年の民族・宗教問題に起因する紛争であっただけに予断を許さない側面があるのも事実。
(4)ホテルの水準:一般的に言って利用したホテルは国際水準から見て、最低限の基準は満たしている。地域によっては、国際水準のホテルが少ないことに安住して、改善の努力を怠っているところも見受けた。また、各ホテルは、お客の大半である欧州からの来客に標準を合わせているので、日本人客を今後増やそうとすれば、「清潔感」「バス付き」「安全性」「うまい料理」など、もっと細かいところにも気を配る必要がある。なお、日本人観光客が満足するレベルのホテルは、当地で最高とされるクラスのホテルであり、コロンボはともかくとして地方では数は限られてくる。
 
4. 課題等
(1)マスタープランの見直し:1990年代の初めに作られたマスタープランは、内戦の激化等により実施は当時の状況のままで停滞している。その後の情勢変化を織り込んだ見直しを行う必要がある。
(2)今後の受入れ態勢について:和平の本格化に伴って、今後急速に海外観光客の増加が考えられるだけに、受入れ態勢がそれに追いつくかどうかの懸念がある。
(1)今回利用したホテルは、フル・ブッキングという所が殆どであった。ある程度の水準のホテル絶対数が不足する。
(2)南西海岸のいくつかで、ごみ処理、廃水処理などによる環境悪化が今後増大する懸念。未開発の東海岸も今のうちに環境配慮の枠組みが必要。
(3)道路の整備:一部の幹線道路を除き、1車線でセンターラインも書かれていない道路で危険な追越しが頻繁に行われている。道路をふさぐ観光用の大型バスが増加すれば、渋滞を含めた道路事情がさらに悪化する。
(3)日本からの航空アクセス:スリランカ航空は成田からコロンボへの便を週3便持っているが、そのうち2便がモルジブのマーレ経由となっている。そのため、マーレへの客に座席が先にとられ、旅行会社がスリランカへのツアー客を断らざるを得ないケースもあるようだ。シンガポール航空、キャセイ航空、タイ航空などによるシンガポール、香港、バンコク等経由コロンボ便もトータルの時間は増加する問題はあるが、今後さらに活用する必要があろう。
(4)日本人観光客の増加を狙う場合のターゲットの設定:例えば、最大のターゲットを若い女性層とすると、テーマを「癒し」「買い物」「食べ物」として、受入れ態勢を整えると共に、日本の女性誌やTVで積極的なキャンペーンを行う等の施策が必要。また、スリランカ=危険な所というネガティブイメージを払拭する努力が必要であろう。
(5)鉄道の観光への利用:全国的に鉄道網が敷かれており、料金が安いこともあって利用客も多いようであるが、車両が老朽化、線路のメンテナンスが悪い等もあって、運行時間が遅れることや座席の確保が出来ないなどで、観光には利用されていない。定時に運行し、新しい車両を使い、予め座席も確保できる「観光列車」を運行すれば、道路事情の悪さをカバーすると共に、スリランカの観光魅力を高める。
(6)道路上のオアシスとなる休憩所の設置:全土にわたって車で移動したが、トイレ休憩の適当な場所が少ないことを感じた。観光バスの場合は一定の時間に多くの観光客の必要を満たすことが出来るように一定規模の施設が必要で、軽食をとったり、土産物を買ったりする機能を備えることも必要。
 
5. 今後の国際協力の方向
(1)専門家の派遣:和平実現をうけて、スリランカの今後の観光政策のあり方へのアドバイスや、日本人観光客プロモーションへの協力、今後の国際協力の方向性を協議しながら策定するために観光専門家の派遣を行うことが必要と思われる。
(2)研修の実施:スリランカの人たちはフレンドリーで生まれつきのホスピタリティーがあるが、ホテルやレストラン等の接客サービスのレベルは高いとは言えない。接客レベルを高めるために、日本で国別研修を受入れることも検討に値する。
(3)観光マスタープランの見直しと戦闘地域にあったため未開発ながらポテンシャルの高い「東海岸観光の開発計画」の実施が必要である。







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