日本財団 図書館


<トピックス>
(社)海外運輸協力協会創立30周年記念
1. 座談会
日時 平成15年11月5日(水)
場所 虎ノ門パストラル新館 あやめの間
出席者
(社)海外運輸協力協会 会長 竹内 良夫
(社)海外鉄道技術協力協会 理事長 黒田 定明
(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル 代表取締役社長 前 迪
(財)国際臨海開発研究センター 理事長 黒田 秀彦
日本工営(株) 代表取締役専務 澄川 啓介
日本交通技術(株) 代表取締役社長 桑原 彌介
 
司会 (社)海外運輸協力協会 常務理事 桑原 薫
 
テーマ
○これからの国際協力のあり方
○今後のコンサルタントのあり方
○国土交通省、外務省、JICA、JBIC等に望むこと
○当協会に望むこと
 
 【司会(桑原常務理事)】それでは、全員おそろいでございますので、これから、社団法人海外運輸協力協会創立30周年記念座談会を開催させていただきたいと思います。
 皆様方には大変お忙しい中をお運びいただきまして、大変ありがとうございます。私は、本日、司会を務めさせていただきます、社団法人海外運輸協力協会常務理事の桑原でございます。よろしくお願いいたしたいと思います。
 はじめにJTCA{(社)海外運輸協力協会}が昭和48年度から平成14年度までの30年間、どんなことをやってきたかということに簡単に触れてみますと、例えば国庫補助事業については、情報収集事業ですと、延べ542カ国に360の調査団を派遣しました。案件形成事業ですと、延べ123の国に対して、113の調査団を派遣しました。要人招へいですと、305人招へいしました。それから、現在はやっておりませんが、コンサルタンツの研修事業ということで、延べ2,869人の方に受講していただいたとか、あるいは私どもで主催しています国際協力関係のセミナーに関しましては、延べ受講者数で2,212人という非常に多数の方に聞いていただいております。その他、国土交通省、あるいは国際協力機構等からの受託事業も着実に実施しておりますし、また、日本財団からはさまざまな助成を受けて、調査研究、あるいは自主事業、さまざまな事業を実施してきているというところでございます。
 次に、去る8月に閣議決定されました新しいODA大綱についてですが、そのポイントは、今まであまり明確に示されていなかった国益重視、国民の利益ということを十分考えるというようなことが、1つの大きな違い。それから、地球環境問題とか、あるいは平和の構築というようなことについて、重点的に取り組むというようなことが新しいことです。更に、従来要請主義というのを前提にしてきましたが、これからはあまり要請主義にこだわらずに、政策協議を強化していこうというようなこととか、従来もNGOとの連携を図ってきたところですが、今後は、さらにNGO以外の大学とか研究団体とか、いろんな民間の知見を生かそうというような方向、そういった意味で、新しいODA大綱というもののポイント。そういうものがあるわけですが、我が国のODAというのは、ここ数年、予算的にも非常に減少しておりますし、また、我が国の景気自体も厳しいということから、まさに私どもの会員の皆様方がどのようにこれからの事業を進めていくか、それが非常に問われている時期かと思われます。そういう中で、このJTCAの30年を振り返って、これからの国際協力というのはどのようにあるべきか、また、海外コンサルタントがどのようにあるべきかというようなことについていろいろお話をいただき、その中で、運輸分野についての担当の省庁であります国土交通省、あるいは外務省、JICA、JBIC等に対してどういうことを望むか、あるいは最終的に当JTCAに対してどういうことを望むか、そういったことをお話しいただきたいと思います。
 まず最初に、会長からちょっとお話をいただいて、それから、ほかの方々にもいろいろお話をいただければありがたいと思います。
 
 【竹内会長】日ごろ考えていたこと、ないしは感想を少し述べたいと思います。
 海外運輸コンサルタンツ協会として、30年前にスタートした当時は、今に比べれば、日本も貧乏なときだったし、コンサルタント事業そのものがあまり活発ではなかった。というよりも、ようやくスタートし始めたというようなときでした。一般には建設部門は進んでいたけれども、コンサルタント事業というのは、スタートし始めたというときじゃなかったかと思うんです。ですから、当初は、当時の貧弱なコンサルタントの能力というものを、いかにしてこれから伸ばしていこうか、そのこと自体が国際協力にプラスになる、国際協力の目標になるという感じで、社団法人海外運輸コンサルタンツ協会ができたと思います。当時、ECFAは、運輸とか何とかということを超越した、広い意味でのコンサルタント協会をつくっていたと思うんですけれども、特に運輸関係に集約したコンサルタントを伸ばすことが要請されたと認識して、こういう協会をつくったんじゃないかと思います。
 そこで社団法人としてやりましょう。社団法人として、各社が集まりまして、それぞれの各社の伸びていくための知恵を絞りましょうというような感じで、スタートし、その趣旨に運輸省も賛成してくれました。当時の船舶振興会も、理解を示しまして、バックアップしてくれました。たしか基金を一部つくりまして、その基金を持った社団法人、すなわち各社の会費制によって運営される社団法人をつくりました。即ち中に基金を持って、その基金をうまく利用しながら各社のコンサルタント事業を助成する。国際的に仕事をする場合に、みずから仕事をするためには、お金が要るだろう。本当は自分の金で行なわなくちゃいけないわけなんですけれども、そのお金に対しての資金手当てをできるだけソフトにしてやろうという政策を最初とったんじゃないか。ですから、基金を中心として、基金の利息ですか、そこから上がる成果の金額を持って、各社が海外でコンサルタント事業を進める際の事業補助というか、金利補助を与えたスタイルでスタートしたんじゃないか。
 その政策は、僕は大変効果的に動いてきたと思うんですけれども、だんだんと各社が自立して仕事をしてやっていかれるようになりますと、今度は協会自体の目的が、みずからがデータを集めたり、考え方やデータのストックを、各社に利用してもらうというような方向になってきたんじゃないかというような気がいたします。
 ですから、今の協会は、各社の経済的なバックアップするというスタイルから、ある国際的な協力、技術協力、あるいは経済協力のためのバックデータをつくるとか、基本的な政策に対する提言をするようになった。ですから、コンサルタントの皆さんたちが集まったグループが国際的な経済協力、あるいは技術協力の本当の意味でのバックになる、基盤をつくっていくというような意味の方向に役割が変わっているんじゃないかなと、こんなような気がしました。
 【司会(桑原常務理事)】ありがとうございました。今、会長に非常に簡潔に30年を要約していただいたんですけれども、この30年、設立とともに、会員として参加されたうちの1人であります海外鉄道技術協力協会の黒田さん、国際協力とかODAということに関して、ご披露いただきたいと思います。
 
 【黒田理事長((社)海外鉄道技術協力協会)】まず、これからの国際協力のあり方という点につき意見を述べさせていただきたいと思います。私ども非常に小さな協会でございますので、私自身率先して現場にどんどん出ておりますので、日ごろコンサルタントの現場の第一線で感じていることをベースにお話ししたいと思います。
 これからの国際協力のあり方ということですが、私ども鉄道という分野では、鉄道の経営、管理、運営、即ちにソフト面の協力にこれから重点を置いていかなければならないと思っております。
 今まで日本のODAを見ますと、我が国は鉄道の分野に非常に力を入れていまして、1966年ぐらいから鉄道分野の円借款が始まっていますが、98年迄の累積統計を見ますと、鉄道分野の円借款は1兆6,500億円という大きな額に達しておりまして、分野別シェアから言いますと、発電所が、日本の円借款で番大きなシェアを占めて、16%ぐらいですが、その次が鉄道で8.4%ぐらいのシェアを占めており、鉄道には非常に大きな援助をしてきたんですが、援助の内容を見ますと主としてハード即ち鉄道の建設、リハビリ、改良、あるいは設備の更新とか、ほとんどがハード面の整備の援助だったわけです。しかし、ハード面の整備とハードをいかに有効に活用するかというソフト面の整備は車の両輪ともいうべきものですから、これからは、経営、管理、運営等、ソフト面の整備の協力を大いにやっていかなければいけない。
 我が国政府も今迄ハード面を中心に支援してきた開発途上国の鉄道の状況を見ても、なかなかうまくいっていない面がたくさんあるということに気がついてきて、我が国のODAの方向もだんだん管理運営に重点を移しつつある、というのが現状です。
 ここで、鉄道の経営・管理運営面のソフト面の改善を考える場合、二つの面から検討する必要があります。一つは政府と鉄道との関係、即ち政府のやるべき事と、鉄道のやるべき事、それぞれの責任分担を明確にする事、及びもう一つは鉄道自身が行うべき改善努力です。私ども鉄道の分野では、よく世界銀行の経験を参考にします。世界銀行は我が国よりも鉄道の分野では、20年ぐらい援助経験が長いので、非常に参考になる面があります。
 世界銀行の鉄道分野の援助は第二次大戦後の戦争で荒廃したヨーロッパの鉄道の復興から始まりました。従って、ハード面を主体に支援したのです。ところが、その後開発途上国の鉄道のハード面をいろいろ支援しても、少しも鉄道全体がよくならないという事に気付き、援助で失敗した例を詳しく分析したのです。その結果を1982年ごろ、有名な「レールウェイプロブレム」という論文にまとめて、以後の世界銀行の鉄道の援助政策として発表したのです。先ほど申し上げましたように政府と鉄道がそれぞれやるべき事を明確にし、政府がやるべきことをやっていなければ、鉄道自身の力だけでは鉄道の経営はよくならないので、借款は供与しないとか、あるいは車両の保守体制ができていなければ、車両を買う資金を供与しないという、借款の条件、コンディショナリティを明確に打ち出しました。我が国も最近になって世界銀行の方向になってきたんだなという感じがいたします。
 そこで、具体的に経営管理改善の援助をどういうふうにしたらいいかということで、最近考えている事をお話ししたいと思います。私どもJICAの社会開発調査でエジプトの国鉄経営改善、ブルガリア国鉄の経営改善、あるいはポーランドの国鉄民営化支援等をしてまいりましたが、経営管理運営の改善を提案したり、あるいはヨーロッパでやっている上下分離、事業別分離とかの機構改革の提案をする前に、まず第一次ステップとしてやるべきことがあるのではないかという事を最近感じています。それは、開発途上国の鉄道を見ますと、いわゆる経営管理運営のデータベースが全然できていない。例えば線区別、事業別に、コストと収入がどういうふうになっているか、それがはっきり捉えられていない。というのは、車両、列車はいろいろな線区にまたがって走りますし、職員もいろんな線区、事業にまたがって働くものですから、区分しにくいという事もあるのでしょうが、その事業別、線区別にコストがどれくらいかかって、収益はどうか、そういうデータが整備されていない。そのようなデータがなければ現状分析ができないし、改善の提案もできない。ですから、いろいろ経営管理運営の改善、機構改革を提案する前に、まず、「経営管理運営のデータベース構築」というのをやることが大事であるというふうに考えております。
 それから、経営管理運営改善の協力をどういう仕組みでやるかというのも検討しております。もちろん、こういうソフト面は、JICAさんの社会開発調査、あるいは研修生の受け入れ、専門家派遣の制度の活用が考えられますが、最近検討していますのは、円借款で、ソフトだけのプロジェクトをつくって提案していきたいという事です。先程述べましたように「経営のデータベース構築」、これをコンサルティングでやりますと4〜5億円ぐらいの資金があればできるわけです。こういうソフト面だけの小規模の円借款プロジェクトをこれからつくって提案していきたい。
 それから、もう1つの例として、インドの鉄道は老朽橋梁が多く、毎年500から1000の橋梁を20から50億円かけて取り替え・リハビリをしております。一方、日印鉄道実務者会議というのがありまして、国土交通省の鉄道局とインドの鉄道省が毎年協力関係を話し合っていますけれども、その中で、インド側から日本の鉄道橋梁の検査、保守、それから、寿命の延伸、そういうソフト面の技術協力を求めている。そこで、私ども、インドの鉄道橋梁のリハビリ・更新円借款プロジェクトの形成を検討しました。この橋梁のハード面の整備資金が100億円というオーダーになると思いますが、その一部に、数億円ぐらいのオーダーのソフトのプロジェクトも入れて、橋梁のハード、ソフト両面の協力ができないかと検討してみたのですが、インド鉄道の最高幹部に会ってみると、ハード面の円借款協力よりもむしろソフト面の技術協力に関心が深いということがわかりましたので橋梁の保守、検査、寿命の延伸、インド橋梁専門家のトレーニング等、ソフト面だけの円借款プロジェクトを形成した方が良いのではないかと考えております。この場合、大体100マンマンス、5億円ぐらいあれば可能です。そういうソフトだけの円借款プロジェクトをこれから形成しつつ提案していきたいと思っております。JBICの幹部の方にも先日会って、このような話をしましたら、非常に前向きに受けとめていただいております。
 【竹内会長】今まで日本の援助は、大体要請ベースですね。
 【黒田理事長((社)海外鉄道技術協力協会)】そうですね。
 【竹内会長】その要請ベースでそういうふうに持っていこうという感じなんですか。
 【黒田理事長((社)海外鉄道技術協力協会)】もちろん相手方の要請するのを支援いたしますけれども、ODA大綱で政策協議の強化の方向を打ち出しておりますので、日本の官のほうにもインプットして、政策協議のほうに反映してもらう。両方やっていかなければいけないと思っています。
 【竹内会長】こういうことをやらなくちゃいかんというふうに考えて、というのは、今までだとやりにくいですよね。要請ベースでなく、こちらのほうから政策的な提案を持っていくというスタイルにならないとね。確かにおっしゃるとおりに、そちらのほうに行くべきだと思いますね。
 【黒田理事長((社)海外鉄道技術協力協会)】従来の要請主義でも、我々コンサルタントが相手側の鉄道幹部と話し合っていいプロジェクトを一緒に考えて要請ベースに乗せる努力をし、また日本の官のほうにもインプットしていましたけれども、これからは、政策協議の強化の方向ですから、官へのインプットを、今まで以上にやっていかなければならないと思っています。
 【司会(桑原常務理事)】ありがとうございました。今、JARTSの黒田理事長から、ODAのあり方も、ハード中心から、ハードもソフトもというんですか、少しソフトというものを考えていかなくちゃならないような時代に変わりつつあるのかなという大変、示唆に富んだお話かと思いますが、もうひとかた、成立時からの正会員として30年ともに歩んできていただいた、パシフィックコンサルタンツインターナショナルの前社長、これまでのいろんなご経験を踏まえて、よろしくお願いいたします。
 
 【前 社長((株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル)】
 ただ今、黒田理事長から鉄道分野の非常に専門的なお話がありましたが、私どもも基本には、いわゆる交通インフラセクターのコンサルティングエンジニアリングサービスを中心として今日までやってきました。しかし、1990年代の後半に入って、もう少し前からかもしれませんが、ODAのニーズも非常に多様化しまして、エンジニアリングサービスだけじゃだめだということで、いわゆる総合開発コンサルタンツとして、例えば社会開発セクターにも対応できるコンサルタンツになろうと努力してきました。私自身、そういう意味ではどちらかというと、エンジニアリングよりは、そういう開発計画に多く携わってきた者なのですが、そういうプランナーの視点で、今後の国際協力のあり方について、こういう難しい時期ですから、いろいろと考える訳です。
 基本的に我々はある意味で歴史的な転換期にあるというか、ものすごい変革の波に向き合っているような気がします。非常にマクロな言い方をしますと、20世紀の後半に起こった、いわゆる社会主義の崩壊から始まって、自由な市場経済的システムに社会が変わって行ったのですが、それでまた、ここに来て、いわゆるIT革命と言われているような電子通信システムの発達によって、情報化されたネットワーク社会に変わって来ています。
 そのような変化の中で、大きな2つの流れが世界的に起こっているのではないかと思います。1つは「政治の民主化」ということ、もう1つは「経済の国際化」ということだと思います。そのような大きな流れに、多くのアジアの国々は比較的上手く適応して、政治的な安定だとか、経済的な繁栄をある程度享受したと言えると思います。それに対して、例えばアフリカの国々は、そういう変化に対する受容能力というようなものが乏しいために、いまだに混乱とか貧困から抜け出せない。また、例えば中近東の国々にとってみれば、宗教だとか民族の違い、あるいは価値観の違いなんでしょうか、言ってみれば、先進国主導型、あるいはアメリカ主導型の民主主義だとか、あるいは経済の国際化に対して、対立する動きが出てきた。それで、いろんなところで混乱や紛争が起きていると言えると思います。
 ですから、我々、これから日本の国際協力を考える場合、非常に単純化した言い方ですが、例えばアジアの国々には引き続き経済成長を支援するためのインフラ整備を支援しましょうとか、アフリカの国々にはミニマムの人間らしい生活を送れるように、社会開発的な要素を強めて、支援しましょうとか、あるいは中東の国々では、平和の構築や定着に貢献する分野を支援しましょうとか、対象とする国や地域の特殊性を考慮して、きめの細かい戦略的な対応がより一層必要になってくるように思います。
 それと、もう1つは、先ほど話に出ましたが、そういう複雑な世界で開発コンサルタンツとして平和や安定に貢献する社会的使命があるとすれば、やはり、総合コンサルタンツ的なサービス対応力が必要になると思うのです。その場合、ソフトとハードを合わせて、最適なソリューションというか、開発のシナリオをきちんと描けるような、そういうコンサルタンツとしてサービスを提供する必要があると思います。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION