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(3)討論と総括

フィン女史:はじめに朝のセッションの議論と午後のセッションの構成について話したい。ホーチミン市とハノイでの交通問題を議論した。両方の都市で共通の問題があることが明確になった。例えば、第1に交通事故や安全、環境汚染に関連するオートバイの問題がある。しかし、更に重要な問題は、モータリゼーションの第2段階である。オートバイは交通事故や環境といった問題を抱えているが、交通渋滞という面ではそれほど深刻な問題とはなっていない。オートバイ利用者が、自動車に移行すると、全てが混乱に陥るであろう。誰も交通問題を扱うことさえできなくなるであろう。昨晩、近い将来、たぶん2006年に輸入関税の大幅な引き下げが実施されるという重大なニュースを聞いた。その結果、自動車価格は下落し、経済状況が良好であれば人々は自動車を購入するであろう。それまで、数年しか残されていない。我々が置かれた状況は非常に大きな嵐の前の深刻な状況であると認識しなければならない。それに対する準備をしなければならないのである。この状況は、ホーチミン市とハノイで共通である。しかし同時に、ホーチミン市とハノイに種々の異なった様相がある。第1に、都市規模が異なっている。ホーチミン市はアジアの主要な都市の1つである。アメリカやヨーロッパの基準ではそれほど大きいと言えないかもしれないが、3百万、2百万人の人口レベルは大都市と言える。ホーチミン市とハノイでは規模が異なるのである。それは、我々がすべきことも異なっていなければならないことを意味している。2番目の差異は都市の利用に関してである。ホーチミン市は基本的に商業都市であり、南東アジアの中心的な商業活動の国際的なコアである。ハノイは伝統的な文化的な都市であり、そして観光都市である。当然ベトナムの首都である。都市の特徴は非常に異なっている。都市の目標も当然異なっているに違いない。そのために、ハノイとホーチミン市への対応策、もしくは我々が将来のためにすべきことも異なっているに違いない。第1に、将来のために今何をすべきか議論したい。数人のプレゼンターは交通に関して、一人は都市計画について話した。計画目標の期間設定に対する考えが、交通セクターと都市計画セクターで多少異なっていると見える。一人は長期の問題を言及し、2人は短期的な側面を語った。現在何をするべきなのか、プレゼンター全員の方々にコメントを頂きたい。
 
アイン氏:周知のように、ホーチミン市はハノイより大きく、人口も多い。ホーチミン市の交通状況は非常に複雑である。ホーチミン市の組織体制は、際立ってハノイとは異なっている。ホーチミン市には国営企業は1社であるが、ハノイでは国営企業が占める割合は非常に大きい。そのため、ホーチミン市の公共交通開発が、的確にハノイの公共交通開発モデルに続くものではない。一方、ホーチミン市交通需要は非常に高い。岩田氏の指摘の通り、現状では鉄道によるホーチミン市の公共交通システムへの投資は非常に高価である。土地利用に対する良い戦略計画なしでは、需要を満たす公共交通モデルやネットワークは形成されないであろう。そのために、現在、ホーチミン市に必要なことは、実際的な調査と同時に15年から20年先の需要を満たすために徐々に交通問題を解決する交通モードへのアクセスを提供するためのステップや戦略である。
 
フィン女史:ハノイからの代表の一人であるチュアン氏を招きたい。ハノイとホーチミン市の都市問題に焦点を当てるために、ハノイから1人、ホーチミン市から一人発言者を選んでいる。
 
チュアン氏:ありがとうございます。第1に、我々のプレゼンテーションや今までのディスカッションを踏まえると、我々は多くの問題を抱えていることがわかる。多くの分野で問題解決のための行動を起こさなければならない。実施に当たっては長期・短期の両方の視野に立ち、また分野間の緊密な調整が必要になる。早急に実施可能な課題は、最後のプレゼンテーションで述べたようにハノイで実施されており、継続されなければならない。意見交換や実際の援助も必要となるであろう。ハノイでの緊急課題は都市交通整備方針について、緊急に変更しなければならないことがあるということである。2000年以前は自家用車が、ほとんど何の規制もなく増加した。このような状況は深刻である。結果、1998-2001の間、交通事故、渋滞、環境汚染が特に以前と比較し緊急課題となった。すぐにこの状態を改善することが不可能である。しかし我々は開発方針を変えなくてはならない。さもなければ、状態の改善、問題の解決は不可能になるであろう。そのために、大きな投資と成長を伴う公共交通の開発により、都市交通開発の方針変更を実施することが急務である。
 
 ズン氏の報告によると、ハノイは過去2年間に400台のバスの導入を含む多大な投資をバス交通に対して実施し、この2年間のバス輸送量は約4倍に増加した。2002年の旅客数は5千万人とまだ大きいとは言えないが、開発の潜在性は確かなものであると考えている。最初に取組まなければならないことは、変化による現状の悪化を避けることである。ハノイは現在取組んでいるが、将来も継続的に取組む必要がある。
 
 第2の課題も緊急課題であるが、ハノイでの長期的また短期的な、既存交通インフラの効率的利用である。現況のインフラは効率的ではなく良いとは言えないが、効率的に利用することによって、キャパシティを増加、もしくは2倍まで上げることも可能であろう。方策はプレゼンテーションに見られるように、安価な方法での既存道路システムの改善、交通制御、歩道のクリアランス、道路利用者のマナー改善、交通システムの効果的な運営の向上など、多くの方策の実施が可能である。
 
 第3はインフラ整備である。交通インフラ整備は、一般的に長期的な課題であり、多大な投資を必要とする。しかし、短期に実施可能で、今取り組むこともできる課題もある。ハノイではインフラ整備に関して以下の課題に集中して取組んでいる。第1は、バスウェー、バス専用レーン、車庫、デポシステムなどの公共旅客交通のためのインフラ整備である。そして第2は、大きな交差点などにおける事故と交通渋滞が緊急課題となっている、いわゆる「ホットスポット」である。Vong交差点、Nga Tu So交差点などの改善がその例である。第3は、大規模投資を必要としない現状のインフラの効率的な運用である。この件は早急な対応が可能であると考えている。道路建設、都市鉄道建設は早急に対応するべき事項であるが、完成には時間がかかり、その優位性は中長期的に推進されるべきであると考えている。
 
 その他にも対処法はある。法的・政策的対応がその一つである。技術的、専門的な対処法は直接的な対処法である。しかし、それが実際に実施され実現されるかは、背後の法制度による。前記方針を支持し実現を確実にするためには、法制度の整備が不可欠である。
 
大津氏:今朝説明したように、新規道路開発、特に環状線の整備はハノイの都市交通にとって非常に重要であると同時にハノイ内、ハノイ周辺、ハイフォン、ハノイ・ハイフォン間、ハノイ・カイラン港間の工業化促進にとって重要である。環状3号線の一部、国道5号と1号間は日本のODAにより建設中である。環状道路の他の部分、18号線は同様建設中である。環状道路や放射道路の更なる建設にはコストがかかるが、ODA予算も限られている。他の都市や当然ホーチミン市又は中部へも導入されている。ハノイの都市状況を改善する予算も限られているので、限られた財源で交通状況を改善する方法を提言したい。前記の道路が完成すると、交通状況は改善される。そのため、2006年から2007年にかけて、幹線道路沿いに総合もしくは専用バスレーンを利用したバス交通システムを構築するのである。この方法がバス利用推進に最適な方法である。中心市街地、特に北西部、西湖の南側では路線が集中している。この周辺地域では、投資が必要であろう。岩田氏が述べたように、MRTが必要であれば、幹線道路でのバスレーンを利用して、将来トラムやその他のMRTを導入することが可能になるであろう。ハノイの都市交通改善にはより良い方法であると思う。保守的であるが、フィージビリティは高い。
 
岩田氏:やるべきことは多くあるが、長期的な解決を促進する短期的な解決策を提案したい。短期的な問題解決のために行動し、長期的な解決を促進しないのであれば、長期の交通ビジョンを見失い時間が浪費される。この観点から、2点提案したい。第1にプレゼンテーションで説明したように、多くのバスルートから、重要なコリドーを選定し、大量輸送システムの導入や駅などの重要な拠点エリアを考慮した個々の特色を踏まえた土地利用計画を慎重に修正することが必要である。可能であれば、将来の膨大な財政負担が予見される必要な施設のための土地収用を政府が先行して実施する。第2点はプライシングである。将来の大量輸送システム開発には莫大な資金が必要である。この資金をどこから調達するのか。市に対する政府や誰かからの寄付を期待することは考えられない。誰かが公共交通システムに対して支払わなければならないのである。私は公共交通の利用者が負担するべきであると考えている。公共交通が更に効率的で、一般に受け入れられるのであれば、民間セクターの利用者が一定のコスト負担をしなければならない。プライシングの制度面では、車両登録費、駐車料金、シンガポールで実施されているような市内中心部への通行料、その他の自家用車の利用に関する科料などを含む。全ての自家用車の利用者は、公共交通整備を支援し促進するためのコストを担うべきである。しかし、新聞によると、政府が自家用車の登録を2004年まで規制する動きがある。このような物理的な規制、自家用車登録規制は、誰にも利益をもたらすものではない。我々が全ての人に公共交通だけの利用を強要することはできない。政策は、政府及び市民に対し機会が適切に示されるべきで、特定の目的のためには確かに自家用車を必要とする。物理的な規制は本来良い解決策ではなく、何の収益もたらさない。適切な個人用交通へのプライシングが、政府が早急に検討すべき分野であると思う。
 
高木氏:家田教授に質問がある。今朝、ブラジルやトロントでの公共交通システムの成功例のスライド写真を見た。コリドーは商業地区もしくは住宅で高密度に開発されている。ハノイのバス交通システムで言えば、どこに高密度の住宅もしくは商業開発地域があるのか。個人的には都市開発が集中していないハノイが好きである。第1の質問は、公共交通開発のために高度な集積が必要であるのかということである。もう一つは、運営である。公共交通の運営は公共セクターか民間セクターのどちらかである。都市交通システムに関して他の国や都市で多くの経験があるが、公共セクター、民間セクターともに多くの失敗もある。失敗の理由は何なのか。ハノイで公共交通システムを推進するためにどのセクターが担うべきなのか。以上2点の回答を求める。
 
家田氏:まず、土地利用の密度と公共交通のコリドーに関しては、今朝お見せした例のクリチバ市は非常に難しい例であった。既存の市街地ではなく、新規のコリドー整備の事例であった。ハノイは既に市街化されているが、1号線や6号線沿いを郊外に進むとスプロール化が進行し、インフラ整備が不十分な地域での集合住宅や一戸建ての建設の進行が見受けられる。このようにスプロール化が進む地域でのコリドーに焦点を置くと、郊外地域での計画的な新規コリドー整備が可能であるといえよう。クリチバでさえ、市の中心部は古い都市であり、建築物の保全にどちらかというと関心があり、他のコリドー整備に対する強い政策はなかった。総論で言うと、土地利用規制や土地利用開発は公共交通と協調されてなければならないということが言える。このことは、既存の都市にだけでなく新規開発地域にも言えることである。
 
 第2は、運営に関しての質問である。運営組織は公共セクター、民間セクターもしくは公社のいずれの可能性もある。大規模な国営企業は民間企業より効率が悪いという例が、多くの都市にある。しかし同時に多くの民間のトラックやバスの運営が、十分管理されていないことにより混乱を招いた例もある。10年ほど前、マニラに住んでいたが、多数の民間バス会社があった。EDSAと呼ばれる大通りで、常に競争をしていた。約20から30台のバスが競争し、バスの運転手はバス停に早くたどり着こうとはりきる。そのため、バス停付近では常に渋滞が発生する。民間企業を利用するにしても、ある一定の調整機構や組織制度を導入し、民間企業に対して政府の政策が機能するようにしなければならない。発展途上国には当てはまらないかもしれないが、インフラとオペレーションのボディガード分離という概念がある。垂直分離は、運営者を二分類する。車両等の資産の所有者と運営は別の民間会社に任される。公共企業体は民間の効率的な運営の享受が可能となる。いずれにしてもこれは重要な問題であり、それぞれの市で異なる状況に対応して深く議論をしなければならない問題であり、一般的な確たる解決方法はないと思う。
 
チャウ氏:岩田氏のプレゼンテーションの中で、公共の鉄道輸送の最大能力は100万から150万であるという話があった。路線数、路線長など、この数字の根拠が知りたい。もしこれが最大輸送能力ならば、鉄道の輸送効率は非常に低いと考えられる。詳細の説明していただきたい。
 
岩田氏:私がスライドで説明したのは、通常、アジアの都市でLRTの1路線は15から20キロであるということである。1路線あたり1日最大の30万から40万人の輸送が可能である。ハノイで、例えば、15キロの3路線、合計45キロを建設すると、実際の最大輸送量は約百万人となる。3路線、45キロの建設コストは非常に高い。もちろん、もしハノイで、例えば100キロを更に建設するのであれば、輸送旅客数はより多くなる。プレゼンテーションでの数字は非常にラフな数字である。私が言いたい事は、たとえアジア都市で鉄道建設が可能であっても、大半の需要はバスで対応しなければならないということである。
 
フィン女史:外国の組織からの代表も見受けられるので、世銀のエリス氏からコメントを頂きたい。
 
エリス氏:ありがとうございます。遅れてきたので、岩田氏のプレゼンテーションのみ拝聴した。バスウェー、ハノイの歴史遺産の保全など多くの提案がなされたが、それを実現するためには当局の政治的な意志と多くのコーディネーションが必要である。気にかかることは、調査中にこれらの課題に対して、どの程度、関連当局が連携するという反応があったのか。センシティブな政策提言に対して、全ての機関が賛同したのであろうか。
 
岩田氏:プレゼンテーションに関して言うと、この報告は徹底的な分析に基いているものではない。指摘があった制度的なコーディネーションや調整は事実であるから、バスウェーと遺産地区のアイディアを出した。しかしながら、もちろん我々は将来の明確なビジョン、特に市街地を扱う方法が必要である。このことはマニラ、ジャカルタあるいはバンコクのような他の都市と非常に異なっているハノイとホーチミン市のユニークな特徴の1つである。都市開発のダイナミズムや能力を失わずに、中心市街地を保全する方法を提案する。このことはすべての人々が真剣に考えなければならない非常に重要な計画テーマの1つである。バスウィエーに関して言えば、既にホーチミン市の人民委員会と話し合いを始めていることから、比較的そう難しい問題ではないと思う。第1は、バスにより良い環境を与えることである。我々が議論を継続していると、バス用の排他的な空間をより多く確保する必要があると感じる。さもなければ、バス運営と政府がバス運営に対して実施した投資は、最大の利益をもたらさない可能性がある。現在、Tran Hung Dao道路を選択して、最初にバス専用レーンを実施し、その実効性をテストしようとしている。TUPWSは自信があり、少なくとも道路ユーザーと市民の反応を見るための政治的意志は表している。このパイロット計画はすでに準備され、2、3か月以内に実施され、その政策実験プロジェクトの効果を見ることができる。
 
ズオン氏:海外からの専門家に3つ質問したい。最初に、バス運営に際し、貴国では公共セクターと民間セクターの旅客輸送の割合はどの程度なのか。どちらの割合が大きいのか。第2に、公共セクターが大きい場合、バス交通に対しての助成はどうなっているのか。助成金はあるのか。またどの時点で助成金の支払いを停止するのか。期限があるのか。それとも、助成をとめる他の基準があるのか。永久に助成するのか。第3点は、中心市街地の日常の市民生活のための小規模かつ短い距離の貨物輸送に関してである。貴国ではどのような組織で運営しているのか。現在、ハノイでは1、2年まえから、政府がシクロを禁止したため、中心市街地での生鮮品の輸送が困難になっている。現在我々は対応策を検討中である。日本でのこのような課題に対しての対応策を聞きたい。
 
家田氏:バスに関しての民間、公共の割合だが、現在都市間のバスに関して言えば、全てが民間セクターによって運営されている。市内バスについては、2、3のバス運営の運輸公社はあるが、他は民間の運営である。正確な数は不明だが、多くの民間の企業がバス運営に携わっている。東京では、交通局が都営交通システムを担い、バス交通に携わっている。横浜でも同様のシステムがある。しかし、ほとんどの市では、バスは民間が運営している。
 
 助成金に関しては、日本政府あるいは地方自治体は民間及び公営のバス運営企業に助成金は全く支払っていない。全て、政府予算あるいは地方自治体予算から完全に独立している。扱いも公平である。そのため運賃が比較的高く設定され、利用客を失っていることも意味している。私はこれが最善策であるとは思わない。多くの改善策があると考えている。地方の非常に人口密度が低い地域では、政府あるいは地方自治体が小規模な助成金を支払い、最低限の交通サービスを維持している。
 
 短距離の貨物輸送もしくは生鮮品の輸送に関しての第2の質問に関しては、約10年前に完全に規制緩和したため、現在厳密な組織制度は存在しない。それ以前は、全てが政府の監督下にあった。魚や野菜、その他の荷物を運ぶためのトラックサービスを始める際には、政府の許可が必要であり、トラック所有、事業開始、運賃料金も全て政府の管理下にあった。市の経済が発展の初期であれば、ある種の規制はシステムを明確にし健全にするかもしれない。経済が成長し、持続可能な状態になった時点で、規制を徐々に緩和し、市場経済の恩恵を受けることが可能となる。これが現在の我々の現状である。
 
大津氏:バス運営に関して言うと、横浜市のバスの専門家によると、横浜市の約半分は7つの民間バス会社によって運営され、他の半分が市営でまかなわれている。民間と市営が同じエリアで営業しているが、ほぼ全ての地区がバス営業エリアに分割されている。そのため市は、民間と競合していない。民間との競争は良いことであるが、市は民間のバス運営エリアには参入しない。このことは運営地区を分け合っていることを意味している。
 
家田氏:実際に市内での貨物輸送は、発展途上国の都市交通計画では非常に重要であると思う。今まで、ほとんどの交通調査や研究は、旅客輸送だけに重点が置かれ、物流もしくは貨物輸送は複雑で、結果を得ることが困難であるとされていたためおろそかにされていた。個人的には、貨物輸送は将来の鍵を握る課題であると考えている。先進国の都市と発展途上国の都市を比較すると、旅客交通はそれほど異なっていない。例えば、ほとんどの都市で住民1人当たりのトリップ数はほぼ1日2回である。しかし、貨物交通の発生を比較すると、途上国の都市の1人当たりのトリップ数は先進国の都市でのトリップ数の2分の1あるいは3分の1以下である。将来経済成長すると、貨物の交通量が一層増大する。その状況を深刻なものとして受け止め、事前に対策を練る必要がある。このことは、マニラ、バンコク、東京の都市を5、6年に亘って比較した研究結果であり、非常に重要な問題であるとことが解った。
 
アイン氏:貨物の公共輸送調査に関して、付け加えたい。実際、ホーチミン市はベトナムの他の市とは比較にならない量の貨物を取り扱っているので、HOUTRANS調査では、旅客のみならず貨物も同様に調査すべきである。市の港湾はベトナムで最大の取扱量を誇り、調査が旅客交通や旅客トリップのみを扱うのであれば、ホーチミン市の交通問題は解決できない。ハノイは南に旧市街、北にGia Lamエリア内のロンビエン橋から開発されている市街地の2地域に分けられる。ホーチミン市は、サイゴン川で2つのエリアに別れている。サイゴン川の特徴はすべての橋のクリアランスが45-53メートルであることである。しかし、ハノイの橋のクリアランスはそれほど高くはない。このように現状が異なっているため、川が両市にあるからといって、ホーチミン市の交通調査とハノイのモデル調査は一致しない。
 
 第2の課題は、政府の決断である。5年前には、サイゴン港とタンカン港の移転は不可能であるというのが大方の見方であった。しかし、市と中央政府は近い将来ホーチミン市から港を外に移転させるという強い意向がある。第2に、岩田氏が市の強い意向を示したように、我々は一週間前、ホーチミン市人民委員会と作業を行い、ホーチミン市は主要道路沿いの交通コリドー開発である「政策実験事業(Policy Test Project」を支援する。事業はSai Gon-Binh Tay路線、Tran Hung Dao道路からCho Lonを含んでいる。政策実験事業を利用し、他の多くの市への適用が可能となるバス交通コリドーの形成し、将来の市の交通開発計画を形成することとなる。これが、市が確固たる意思を持って取組んでいる事業である。
 
川久保女史:現在、私は、岩田氏、アイン氏と共にホーチミン市の都市交通プロジェクトに係っている。岩田氏がプレゼンテーションで説明したように、ホーチミン市の95%の人々が公共交通指向型都市への移行に同意している。ホーチミン市はバス指向都市へ移行するべきである。人々はバスの重要性を認識し、改善するべきだという意見なのに、オートバイを使い続けているのが私の疑問である。ベトナムの人に尋ねたいのだが、オートバイを利用する理由は何であろう。便利だからか、それともバスサービスが良くないからなのであろうか。どのような条件を満たせば、バス交通に移行することできるのであろうか。
 
アイン氏:お答えします。人々はバスサービスに期待している。両方の市での交通事故の状況が非常に重大であり、人々は交通事故の減少を望んでいる。公共輸送の安全性はより高く、その安全性も認められている。しかし、現在のバスサービスの質は十分ではない。例えば、ホーチミン市では、現在、市が2,000台以上のバスを所有している。しかし、老朽化が激しく、500台のみが運行可能である。バスの老朽化が激しいので、市は車両の更新を決定した。市民はバスの状態が悪いために利用できないのである。午前言ったように、通行者への2つの事故は、バスの老朽化が原因で、ブレーキが利かなかったことによる。このような事故は、過去三ヶ月に起きたもので、バスサービスの質が向上すれば、ベトナムの人々はオートバイに固執するよりむしろバスを利用するであろう。2つの良い例がある。ここにいるフィン氏とチャウ氏は、1年前は通勤にオートバイ利用していた。今はバスを利用している。このように、もし国際援助機関が健全な開発を担保する最適なバスネットワーク開発計画策定を援助するのであれば、我々ベトナム人にバス利用の意思があるということは示されている。投資家は、ハノイとホーチミン市における公共交通開発のためのサービスや施設に投資するべきである。我々ベトナム人は、両都市への援助に対して感謝するであろう。
 
フィン女史:若干説明を与えたい。ホーチミン市調査では、95%の人々が市は公共交通指向型都市へ発展するべきであると言った。しかし何故、まだ人々がオートバイの利用を継続するか、また、公共の乗客輸送を開発することを望む理由は何か。第1に言えることは、オートバイの利便性が高いということである。ハノイとホーチミン市では他のモードへの乗り換えなしで目的地に到達できる、特にハノイでは、調査によると、市が小さいから、1回の平均移動距離は4kmにすぎない。しかしながら、その便利さにもかかわらず、統計によれば、事故の70%がオートバイによって起こされ、オートバイはすべての交通モードうち最も危険な交通手段である。オートバイ乗車時、ベトナム人は通常ヘルメットを使用しない。そのために、オートバイ事故による脳傷害が非常に重要な問題である。第2に、オートバイ利用による社会コストは非常に大きい。例えば、アイン氏によると、ホーチミン市には現在2百万台のオートバイがある。もし1台平均1,000ドルとすると、人々が交通手段に使った金額は20億USドルである。第3に、環境汚染に対して多大な影響がある。第4に、公共旅客輸送の割合がまだあまりにも小さいため、オートバイが大きい割合を占めている。調査によると、ホーチミン市で公共旅客輸送の占める割合は1%にすぎない。我々の観察結果でも7%であり、改善や成長にかかわらず、ハノイの報告書でも10%強である。ハノイでは90%、ホーチミン市では99%の交通需要を他の交通モードで担わなければならないことは明確である。このため、人々はオートバイ利用を継続しなければならないのである。また、ハノイやホーチミン市でのバスサービス改善の必要性、特にバス運行頻度で、チャウ氏の発言どおり、ピーク時のサービス改善はされたが、バスが非常に混雑している。交差点でも混雑が生じている。市には、定時運行という面で信頼性を得るためのバス路線図もない。そのため人々は仕事にバスを利用できない。市とTUWPSは、旅客数増加促進のため、バスサービスを強化するべきである。最大限の乗客が見込めないバス失敗の他の原因は、ハノイの道路の80%が幅員10m以下であるとう、インフラの限界がある。このため、バス運行の計画・調整は非常に困難である。努力にもかかわらず、旅客交通でのバスの割合は小さい。前に述べた通り、欠点はあるが、人々はオートバイ利用を継続している。
 
 この課題に対して、意見を頂きたい。ほとんどのベトナム人がオートバイを利用しているが、別段特別な習癖やオートバイに対する趣味があるわけではない。公共旅客輸送システムの開発には時間がかかるが、ハノイとホーチミン市の公共旅客交通システムが世界の他の都市のように開発されれば、ハノイでの公共交通利用の割合が他の国と同様になるであろう。これまでのバス交通整備の初期の2年は非常に重要であった。しかし実際、バス輸送は交通需要の10%以下を担っているにすぎない。バスサービスのネットワークは、ハノイの小さなエリアをカバーしているだけである。その他のバス支援施設は、まだ整備されていない。ハノイで一般的には公共旅客輸送システム、具体的にはバス交通システムがより良く整備されれば、ハノイでの利用が促進されることを信じている。公共旅客交通開発には時間がかかるということである。
 
 そして第2に、人々が公共交通を利用するか否かは、公共交通だけに寄与するものではなく、サービスシステムという、市街地でのその他の生活条件によるものだと考えている。サービスシステムが断片的で統合されていなければ、例えば、1日で必要な商品購入に2-3の店舗に行く必要がある場合、オートバイがまだ最適な選択肢であろう。公共旅客交通開発と共に、公共交通の利便性が増すような都会生活者へのサービスが整備されるべきであろう。
 
 3番目のポイントは習慣と変更へのためらいである。もし10年あるいは15年前に、ハノイあるいはホーチミン市で公共旅客交通を導入していたなら、多くの人々はオートバイ購入しなかったであろう。しかし、現在、オートバイの普及は広範囲である。ベトナム人にとって貴重な資産となったオートバイを捨て去るには時間がかかるであろう。習慣というのは、重要な要因であると考えている。長期間、ハノイとホーチミン市では、公共旅客交通の整備がされなかった。人口の大半は公共交通を使う習慣がない。オートバイでなく、バスで移動することに対しての不安は多くの人にある。バス路線、バス停などの情報に慣れるための時間は必要である。このような要因はオートバイからバスへの移行に影響を与える。ハノイとホーチミン市で他の都市のように良い公共旅客交通システムを整備するのであれば、ハノイでの公共旅客交通の利用は他の都市と類似した状況になるであろう。ハノイとホーチミン市が例外ではないことを確信している。
 
家田氏:ハノイでの交通を議論することはとても興味深いが、時間がなくなってきているため、若干全体的なコメントをしたい。はじめに、ハノイは固有の都市と交通のモデルを創造するべきであるということである。当然、既に世界には成功例と失敗例がある。成功例であっても、その内部や裏には失敗面があるかもしれない。良い点、悪い点の両方を学び、好きな部分を取り入れればよいのである。好まないことは取り入れる必要はない。この点は、現時点で公共交通システムを導入していない、ハノイの利点であると考えられる。ハノイの独自の計画を策定して欲しい。これが第1点である。
 
 第2点は、多くの肯定的、否定的な点を学んだとしても、非常に短い区間でも小さな点でもよいから、新しい技術を使って、革新的な挑戦を試みて欲しい。大規模なインフラ整備ではなく、高額ではなく、効率的なIT、ITSや技術の利用を勧める。大規模、長距離でなくとも、新しい試みによって、ハノイは交通技術に関してはオリジナルの都市となるであろう。
 
 第3に、土地利用あるいは土地開発の制御システムを整備することである。アジアの大半の国々で、開発規制あるいは土地利用規制に関して成功していない。特に容積規制に関しては、アジアのほとんどの都市で成功していない。ハノイはこの点においても優位である。今日学んだとおり、過去2、3年の新規バスシステムは順調である。制度システムや人々の対応は否定的ではない。土地利用に関しても良い制御システムが整備されるであろう。
 
 第4は、時間的余裕があまりないということを理解することである。モータリゼーションの第2段階への準備は短期的に実施しなければならない。基本的に、都市計画や交通計画は20年、30年、時には百年の長期に亘って策定されなければならない。インフラは100年後も利用可能であろう。そのため、良い目標と良い計画を必要とする。現在十分な時間的余裕がないので、早いイニングでヒットあるいはホームラン打たなければならない。待つ必要はないことを理解して欲しい。モータリゼーションの第2段階への時間があまりないので、交通調査を非常に効率的に実施する必要がある。調査はオープンで、透明性があり、科学的で、世界中の他の都市の良い事例を取り入れるようなものを意味している。ここにはヨーロッパ、アメリカ、日本など海外から人がいる、互いに協力し連絡しあって、最善のアイディアを見つけるのである。これが私の最後のコメントである。







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