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運輸協力研究センター事業
1. 開発途上国における運輸交通問題に関する調査研究
 開発途上国、特にアジア諸国においては、経済の急成長、都市の経済活動の膨張に伴い、国民の生活水準が向上し、モータリゼーションが急進展していた。また農村部から都市部への人口移動が進み、都市部への人口集中が起こっていた。その結果、自家用車の交通量が著しく増加し、交通渋滞、大気汚染、騒音、振動等の環境悪化を引き起こし、大きな社会問題となっていた。一方、バス、地下鉄等の大量輸送機関は十分に整備されておらず、加えて道路面積の不足、交通信号の整備等による効率的な交通制御システムの欠如等により更に問題を深刻なものにしていた。都市交通のモードとしては、地下鉄を含む鉄道及びバスが基幹交通手段として挙げられるが、鉄道が運行されている都市は少なく、運行されていても先進国の都市のようにネットワーク機能が十分に発揮されていなかった。鉄道建設にはその投資額が膨大であったり、バスについては、利便性、信頼性、快適性の低さから十分に利用されず、中産階級以上においては自家用車に流れる傾向が強かった。
 
 開発途上国の都市交通問題に対する対策が遅れる原因には、運輸インフラ整備に対する資金不足、都市計画・都市交通計画の欠如、技術・ノウハウの不足、政府及び市民の都市交通に対する意識の低さの問題等が挙げられた。
 一方、わが国においては、昭和60年代、経済の急成長により現在の途上国に見られるのと同様の都市交通問題が顕在化した。これに対処するため、わが国は、都市鉄道や地下鉄の一層の整備、地下鉄と郊外都市鉄道との相互乗り入れの推進、バス路線の再編と優先レーンの設定、自動車排出ガス規制等の諸施策を進めてきた。
 わが国はこれらの経験を生かして途上国の都市交通問題の解決に協力する必要があった。わが国ODAによる取組み方としては、(1)インフラ整備への支援(円借款の活用)(2)都市交通計画策定への支援(開発調査)(3)人材育成、職員訓練の支援(技術協力)等が考えられた。また運輸省としても従来に引き続き(1)都市交通専門家等の派遣(2)民間事業、民活ノウハウの移転(3)関連法制度整備、運賃政策、交通公害対策等の立案への支援(4)都市交通問題分析診断モデルの開発(5)交換セミナー、コロキウム等の実施等において国際協力を強化していくことが重要であった。
 なお、この調査は、平成6年度から8年度に亘って実施されたものである。
 
 運輸分野が対象とする国際協力において地球環境に配慮したうえでどのような協力を行うかを総合的に検討することは重要である。このような観点から、この調査においては、まず広域的物流体系のあり方を取りまとめることとし、平成6年度から3ヶ年計画で東アジアにおける環境に配慮した効率的な物流体系整備の調査を行った。
 
【平成6年度】
 東アジア地域の運輸交通基盤施設の現況、物流の現況分析、交通モード別エネルギー利用効率・環境負荷、域内の環境保全課題について調査した。
 開発途上国、中でもアジア諸国においては、急速な経済成長を背景に物流需要の増大が予想されていた。しかしながら、物流インフラの整備は必ずしも十分とはいえず、鉄道、港湾・道路、空港等の各インフラの整合性のある総合的な整備が求められていた。また持続的な経済発展を維持するためにも、物流施設運営や物流サービス提供などに関わるノウハウ・輸送機関相互の接続といったソフト面も含めた効率的な物流体系の整備を支援していくことが重要であった。
 
【平成7年度】
 中国・インドシナ半島の諸国(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)を対象に、運輸交通基盤施設の状況、貨物及び旅客輸送量の状況、並びに地域開発計画など将来の交通需要の発生が予想される大規模計画について、既存の資料等をもとに整理した。更に、将来の運輸交通網整備をする場合に制約条件になると思われる自然条件及びその所在、運輸交通モード別エネルギー効率、環境影響項目についても整理し、アジア諸国における環境に配慮した効率的な物流体系整備調査のための基礎資料とした。
 
【平成8年度】
 3ヶ年計画の3年度目として、計画経済から市場経済への移行を図る努力をしているが物流体系が未整備なため、物流各分野で混乱を起こしているベトナムでの物流体系整備のための法体系について研究した。
 ベトナムにおいても、他のアジア諸国と同様、関連インフラ整備は不十分であった。道路については、道幅、舗装状態は悪く、長距離輸送能力は皆無に近かった。鉄道は、車両も古く、走行速度は時速20〜30km程度であった。更に、港湾施設は老朽化・陳腐化が著しく、その他、貨物の流通経路、倉庫での保管、首都園における交通規制等多くの問題を抱えており、関連法体系の整備が急がれていた。
 
 平成6年度に実施されたこの事業は、運輸分野の国際協力を実施するに当たっては、より良い地球環境を保全しなければならないという問題認識のもと、環境問題が深刻化している中での運輸分野の国際協力のあり方について研究し、その成果を取りまとめたものである。
 
都市への人口集中化
 時地方から都市への人口の流入は、地方における産業労働の価値が都市におけるよりも低いため、より良い生活を求めて人が移動するためであった。この人口の都市への流入を抑制するためには、地方における労働時間当りの農水産物、その他の生産物サービスの価格と大都市における生産物の価格とのインバランスをなくさなければならなかった。その手段として、例えば中国で行われているように、安い土地と労働力をもつ農村部に軽工業を中心とした工業都市を開発して工業の分散化を図ることなどが考えられた。この場合、近くの港湾・空港の整備や鉄道を含むアクセス交通網の整備など輸送基盤施設の整備との一体的開発が必要であった。
 
都市交通問題
 人口が集中した都市においては、その輸送手段として自動車の利用がますます増大していた。その結果世界の大都市は例外なく大気汚染に悩まされていた。とりわけ開発途上国の大都市においては、自動車の整備が行き届いていないことや地下鉄などの電化された大量輸送機関が未発達であったため、先進国の大都市に比べ、大気汚染の状況は遙かに深刻であり、都市住民の健康に重大な障害を起こすまでに至っていた。また、人口の増加により都市が限りなく無秩序に拡大しつつある中、自動車の排気ガスによる大気汚染のほか、交通渋滞が慢性化し、生活環境も悪化し、更に経済活動にも影響を与え都市機能を低下させるということが起こっていた。
 
都市問題と運輸分野国際協力
 運輸分野の開発援助において、地球環境問題から見て、そのインパクトが最も大きく深刻なテーマは、交通インフラの整備による都市化の促進と道路交通量増加による大気汚染の悪化、それらを解決するための交通インフラの更なる整備と都市化の拡大という悪循環過程である。この悪循環を断ち切り、地球環境の保全と開発を両立させる方策を検討することが重要であった。諸問題を解決する手段はいろいろ考えられるが、大都市への人口集中抑制、地方都市開発、農村開発等の国土利用・都市政策を推進するほか、低公害車の普及、LRTのような新交通の整備等を図るとともに、住環境の向上を目指した都市再開発と一体的に地下鉄、鉄道等の整備を図り、都市構造そのものを変化させる政策も必要と考えられた。
 
 平成7年度及び8年度に実施されたこの事業は、運輸分野のコンサルタントに求められる役割と活動の理念、わが国のコンサルタントの直面する課題を整理分析したうえで、開発途上国の発展を支援するためコンサルタントがとるべき行動やコンサルタント活動を支援する当協会の望ましい方向性について研究し、報告書に取りまとめたものである。
 わが国が行う開発途上国に対する技術・経済協力における人材の育成や国家開発計画の策定、開発プロジェクトのマスタープラン或いはフィジビリティー調査の実施に当たっては、コンサルタントの力は欠くことができない。コンサルタントの能力が成果の良し悪しを左右するといっても過言ではない。優秀なコンサルタントを確保するためには、第一にコンサルタントの社会的、経済的地位の向上を計り、魅力ある職場とする必要がある。そのためには、当協会も機会あるごとに社会一般に対して、コンサルタントの地位等に関する正しい認識を持ってもらうよう活動することが必要である。更に、開発途上国においてコンサルタントが活躍している姿をもっと広くメディアを通じてPRする必要がある。そのために、当協会は、機関誌「海外運輸」をより有効に活用するため、編集部会で会員コンサルタントの意見を聴取しながら、会員コンサルタントの活動をよりPRできるよう努力している。
 
 多様な人材の確保と言う意味では、外国人コンサルタントの確保も考えなければならない問題である。欧米先進国のコンサルタントのみならず、開発途上国の優秀な人材についても提携ないしは雇用の機会は増えていくものと考えられるため、当協会もそのコンタクトの窓口になることも期待されるであろう。
 
 当協会では、国際協力人材養成事業として、会員コンサルタントのみならず、民間及び地方自治体の運輸分野実務担当者等を対象に、海外研修を実施しているが、運輸分野国際協力の人材養成を図るためにより効果的な研修が望まれる。
 わが国のコンサルタントは、一般的に中小企業であり、経営基盤も強固とはいえない。協会の最も重要な役割の一つは、会員企業全体の利益のために活動することである。具体的には、他の同種団体とも協調して、クライアントヘ働きかけ、発注システムの改善、発注歩掛りの改善などを獲得するよう努力することである。
 コンサルタントは、社会的使命、責任を負っており、切磋琢磨して最新技術の習得に努め、クライアントの期待に応えると同時に、社会に貢献する役割を担っている。従って、このような姿を一貫して保ち、コンサルタントとしての更なる社会的地位の向上を図る自助努力をする必要がある。







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