日本財団 図書館


【平成11年度】
 アフリカ諸国の中でもわが国の援助実績が大きいケニア、タンザニア及びガーナの3ヶ国を調査対象とした。また分野別には、船員、気象及び都市交通の各分野について調査した。
 調査に当たっては、過去に実施した当該国、当該地域に関する調査・研究をレビューするとともに、ケニア及びタンザニアについては現地調査を行った。
 
インフラ整備
 3ヶ国をはじめとするアフリカ諸国は、アジア地域と異なり、地理的・文化的・民族的に遠く、また運輸施設及び技術水準も極めて低いレベルにあった。この状況でプロジェクトベースの支援を実施した場合、運輸インフラ施設の再整備等は、専門家の助言・指導が無ければ効果的な成果は期待できない。従って、各分野に共通して望まれることは「長期専門家の派遣」であった。それぞれのセクターに対し長期に専門家を滞在させ、個別セクターの問題・課題を抽出し、当該国及び関係者等に広く現状を知らしめることが肝要であった。
 これまでアジア地域で果たしてきたわが国の経験から、インフラ整備、特に農業や観光といった他の分野と直接的に関連する運輸インフラヘの支援を実施していくことが開発途上国から中進国(新興工業国)への近道と考えられた。
 
船員分野
 世界の外航船の乗組員の大半が開発途上国船員であるといわれていた。従って彼等の技術レベルを向上させ維持することが船舶の安全運行と海洋環境の維持保全にとって重要であった。海運先進国であるわが国としては、更に積極的に開発途上国船員の技術レベルの向上に努め、世界の海の安全と環境保全に貢献することが国際社会におけるわが国の債務であった。
 平成2年度からは、開発途上国船員を研修生としてわが国に受入れ、ODAの一環として、官民一体となって船員養成を実施した。また途上国の船員教育関係者をわが国に招へいし、わが国の船員教育機関等の視察や関係者との意見交換等を行うことにより、相互の理解を深めるとともに、当該国の船員教育の状況を把握して、船員教育分野における国際協力の推進を図った。一方、JICAにおいては、船員教育専門家を相手国に派遣し、教育方法等についての技術移転、アドバイスを行った。更に、研修員の受入についても研修員のニーズに合わせて「個別研修」及び「集団研修」を実施した。
 
気象分野
 気象業務は、国民生活、都市活動、産業活動等の効率化を図るうえでもっとも基本的な情報インフラの一つであり、防災を通じて国民の安全確保や環境監視による環境保全への寄与等、先進国途上国を問わず、社会への貢献が一層期待される分野であった。また、地球規模の環境問題の深刻化が進む中で、オゾン層や温室効果ガスなどの地球規模の監視が全人類的な課題となってきており、これらの監視を実質的に担っている各国気象機関のこの分野に対する貢献への期待が高まっていた。
 途上国においては、資金不足等により気象観測、予報、伝達等のための設備が不十分で満足な気象情報が提供できない状況にあった。防災、農業等において気象情報への需要が高まっていたが、気象観測点の不足、飛躍的に進歩する気象技術に職員のレベルが追いつかない等の問題を抱えていた。わが国はこれまで、資金協力によるハード面での援助、専門家派遣、研修員受入れ等ソフト面での協力を行ってきたが、以後もその国の気象業務の発展段階に応じた援助を行っていく必要があった。
 
都市交通分野
 この調査では、世界銀行が1986年にまとめた「途上国の都市交通戦略」を見直すために作成した検討の視点を列挙したペーパーを翻訳したものである。このコンセプトペーパーは、世界銀行のホームページに掲載され、外部からの意見を取り入れながら随時修正が加えられており、今回翻訳したものも途中段階のもので最終版ではなかった。しかしそこで取り上げられている視点は、わが国か途上国の都市交通の支援を、より効果的かつ効率的に進めていくうえで参考となるものであった。
 世界銀行の都市開発戦略は、都市の居住適正を左右する経済的競争力、財政的な持続可能性、統治、管理の仕方を制度的に発展促進させることを主目的としていた。
 1996年に発表された交通部門戦略の枠組みでは、交通政策においては、経済的側面、社会的側面及び環境保全の側面が本質的に一体のものであること、交通の役割は、貧困者及び社会的弱者を含めた人々に対する保険・医療・教育・社会サービスの提供の改善などの達成を推進・支援する手段として必要であると述べていた。
 以後は、排気ガス基準などの制度の整備、公共輸送分野への競争方式の導入、徒歩、自転車等伝統的輸送手段の取扱などを検討する必要があった。
 
【平成12年度】
 運輸分野国際協力の方向づけを行うことを目的として、中央アジアのカザフスタン及びウズベキスタンを対象に調査を実施した。
 中央アジアとわが国の関係においては、古くは旧シルクロードを通じて多くの文物を取り入れてきたこと、また民族学的にも近い関係にあるといわれているものの、当時は、人的交流、貿易の両面でも関係は薄かった。しかし、シルクロード地域への日本人観光客の増加、わが国天然資源確保の多様化を図る観点からも、わが国との交流・交易が深まると考えられた。それを支える運輸インフラ整備については、中央アジア地域の安定と繁栄に貢献していくうえでわが国としても積極的に支援していく必要があった。
 
幹線交通ネットワーク
 中央アジア各国は海に面しない内陸国であることから、交流・交易ルートをより多く確保することが国家存立の絶対的な条件となっていた。特に鉄道は中央アジアを横断する主要幹線であり、既存のインフラを活用しつつ、これらのリハビリや複線化、電化等による輸送力の充実を図ることが効果的であった。これまでモスクワを中心に構築されてきた運輸インフラネットワークについて、中国、イラン等とを結ぶ東西及び南方へのネットワークの整備・強化を行い、東西交易の交差点としての機能の充実を図る必要があった。ウズベキスタンについては、海に出るまでに2ヶ国以上通過しなければならないことから航空路の確保が人的交流、物流の双方にとって重要であった。
 
市場経済化への移行と運輸インフラ整備・運営の民活導入
 旧ソ連時代において運輸分野は経済上だけでなく軍事上も重要な国の基礎的なインフラであり、計画的に整備・管理がなされてきた。このため鉄道及び空港の管理運営体制も旧ソ連時代の経営体制が基本的に温存されていた。鉄道や都市交通の料金体系も社会主義国であったため低廉に押さえられており、国からの補助金を前提に運営が行われていた。一方、市場経済が徐々に浸透するに伴い、都市交通において民間のバス事業者等も進出しており、都市交通における官民の役割分担を適切に図っていくことが必要となっていた。
 
人材育成
 中央アジア各国の自立を促していくためには、各国ごとの技術者の育成は当然必要であるが、資金と時間と人材を有効に生かしていくためには、各国間の地域連携は不可欠であり、交通運輸に関するJICA集団研修の拡充や経営合理化に関する集団研修の創設、鉄道車両修理工場に併設して修理技術者の養成センターの設置とそこでの第三国研修の創設等多様な取り組みが必要であった。
 
【平成13年度】
 カンボジア及びラオスを対象に調査した。両国ともわが国が最大の援助国であった。この2ヶ国は後発開発途上国に分類され、これまで無償資金協力により比較的小規模な橋梁、道路等に対する協力が行われてきた。しかし国内では事業遂行に必要な人材が不足していることから、効率的・効果的な援助の遂行のための受け皿となるべき人材・組織の育成を図る必要があった。
 対象国の運輸交通政策・事業の人材・組織作りを見据えたうえで、各セクターの現状と課題についてとりまとめ、社会基盤整備に要する資金面を考慮した援助のあり方を策定するとともに、観光開発のような早期の収入が見込める分野を念頭において案件形成の可能性についても検討した。
 
運輸分野
 対象国であるラオス及びカンボジアに対する開発支援を考える場合、それぞれを1ヶ国としてとらえるのではなく、インドシナ地域全体、あるいはその関連地域の動向をふまえて開発計画を策定する必要があった。
 ラオスについては、海へ出るためには他国を通過しなければならない等の制約があることから、近隣諸国の開発や国際機関の支援動向にも注目する必要があった。
 カンボジアについては、重要課題である道路整備を中心に主要な幹線については整備が進みつつあったが、総合的な交通計画のマスタープランの策定が必須であった。
 
観光開発
 基幹産業に乏しい両国にあっでは、観光客のもたらす外貨収入は、国家財源の中で大きなシェアを占めていた。ワットプー(ラオス)、アンコール(カンボジア)等観光インフラは豊富であり、これらを背景に両国は、観光開発を重要施策の一つとしており、それをふまえてわが国ODAスキームの中で支援を行うことが望まれた。内容的には、観光振興・宣伝、観光産業育成、日本語ガイド養成等ソフト面の協力が必要であった。
 
援助方針策定調査(平成13年度)
(カンボジア・アンコールワット)
 
【平成14年度】
 中国及びスリランカを対象に調査を行った。
(中国)
 平成13年に策定された「対中経済援助計画」では、中国の経済成長とわが国の対中国世論を反映して「沿岸部から内陸部へ」、「環境重視」、「国益に配慮」といった方針が打ち出されていた。
 また、西部地区における開発は中国における重要な政策課題であったが、この地域は黄砂の発生源と見られていることもありわが国の環境に及ぼす影響も大きく、わが国にとっても開発と環境保全のバランスが最も求められている地域でもあった。そのため、現地の実状に関する情報収集と分析を行い、西部開発や環境に配慮した開発プロジェクトの協力の可能性を検討するとともにその結果をふまえ、環境に配慮した運輸開発事業モデルプランの提案を行った。また将来の運輸部門の環境負荷、とりわけ地球温暖化の原因となる二酸化炭素排出量の予測も行った。
 
 改革開放以降、経済とともに運輸関連施設は急速に発展し、運輸能力は絶えず増強していた。しかしながら、輸送需要に対する運輸網の総量不足、各種運輸方式間で繋がりのある総合運輸ネットワークの確立、運輸施設の技術水準向上等解決しなければならない課題も多かった。その後の援助のあり方については、ハードインフラ整備に加えてソフト面の協力(政策・制度・組織等の改革支援)が益々必要であった。
 また都市部においては、人口増加により急激な都市化が進み、都市計画と実行が追いつかない状況であった。総合的な交通整備計画は進んでおらず、自動車交通量の増加により排気ガスによる環境汚染が起きていた。そのため、軌道電車、トロリーバスの導入等クリーンエネルギー自動車の普及等、環境に配慮した大量公共輸送機関の導入が必要であった。
 
(スリランカ)
 スリランカにおいては、平成14年2月に内戦に対する停戦合意が成立し和平が進みつつあった。内戦で被害を受けた社会基盤施設の復旧が必要であり、北部地区を含めた支援が活発化することが予想されたことから運輸分野におけるその後の援助方針を策定するため、鉄道、港湾、観光セクターを中心に運輸各分野の調査を行った。
 
・コロンボ都市圏の都市交通は、道路交通が中心であるが、今後は既存の鉄道を都市鉄道とし、市内バスルートの見直しを行ったうえで効率的な通勤輸送網を確立することにより都市交通問題の改善を図る。また、車両登録・交通規制等の制度整備が必要である。
・鉄道については、コロンボ首都圏では現在でも通勤線としての役割を果たしているが、施設等の改善により都市鉄道としての機能を充実させる。
・港湾については、コロンボ港の南西アジア地域のコンテナ国際ハブ港としての機能を強化し、地方港湾についても地域開発・貧困解消の観点からも整備を行う。
・観光インフラは豊富であり、外貨収入は国家財源の中で大きなシェアを占めている。観光開発と環境保全の観点から優先度の高い観光関連プロジェクトについて順次整備を行う。また、日本人観光客の誘致も今後の課題である。
・現在進行中のコロンボ国際空港の整備に重点を置きつつ、観光開発の観点から地方空港についても必要な整備を行う。
・気象観測の歴史は古いが、近代的な装置を用いた気象予報と情報解析技術は遅れている。人材育成を行いつつ精度の高い観測・予報の段階的な実施を図る。
 
 中央省庁等改革を機会に、効果的かつ効率的な行政を推進するとともに国民に対する説明責任を果たすことを目的に、各省庁が所掌する政策について自ら評価を行うことを基本として、政府全体、国土交通省において政策評価の導入が図られることとなった。国土交通省の国際協力政策についても、政策の評価手法等を研究する必要があった。
 この事業は、国土交通省のODA政策についても、その評価手法などについて、国民の誰もが理解できる評価視点、評価尺度及び評価方式を明確にする必要がある状況をふまえ、過去に実施した国土交通省案件の整理をするとともに、国土交通省としてのODA政策をとりまとめ、もってその後の適切な政策評価に資することを目的とするものであった。
 
【平成13年度】
 学識経験者及び国土交通省の交通に関する分野(観光、鉄道、都市交通、自動車、海運、船舶、造船、船員教育、港湾、航空、海上保安及び気象)の各局等のメンバーを加えた国際協力評価事業検討委員会を設置し、まず、過去5年間に実施された国土交通省案件を収集し、整理するとともに、そこから代表的な10件を取り上げて統計的に整理して各個別案件間の関連、流れを概観して、国際協力の現状把握を行った。また、これまでの交通分野における国際協力事業を分析する一方、各局の担当者や国際協力にたずさわる関係団体などからヒヤリングを行い、国土交通省の交通分野に関する政策目標の体系化への検討を行った。
 
【平成14年度】
 平成14年4月1日より行政評価法が施行され、これに基づき国土交通省は同年4月「国土交通省政策評価基本計画」を策定した。この計画では、評価方式として事前評価、業績測定及びプログラム評価の3つを基本とすることが定められ、業績測定については、政策目標に基づいて業績指標を設定、その目標値を設定することが定められた。また政策の特性に応じた評価として、個別公益事業では新親事業採択時評価と再評価、個別研究開発課題では事前評価、中間評価及び事後評価を行うことが定められた。
 
 14年度は、政策評価に用いられる評価手法を評価・整理し、国土交通省の運輸関係のODA政策に適した政策手法を提言するとともに、政策評価に用いられる政策指標について検討を行った。また13年度事業で提言した国土交通省の運輸関係国際協力政策の政策目標体系に基づいて、政策目標に対応した業績指標とその目標値の取りまとめを行った。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION