日本財団 図書館


2 遠距離識別追尾システム等の現状について
 標記について、今次MSC77における検討、及び関係者から収集した情報等をとりまとめたところ次のとおり。
 
2-1 遠距離識別追尾システム(ロングレンジ・トラッキング・システム)
2-1-1 MSC77における検討結果、概要次のとおり。(ポイント仮約別添1参照)
(1)SOLAS第11章−2に盛込む件(米提案MSC77/6/16関連)
イ 本件をMSC77で検討することは時期尚早。2004年7月以降に改正作業を行うことが望ましい。
ロ NAV49、COMSAR8での検討を経て、MSC78で承認、MSC79で採択する予定。
(2)システムの機能要件(英国提案MSC77/6/11及び米国提案MSC77/6/11関連)
 機能要件(案)を採択(MSC77/WP.15 ANNEX1)。今後、SOLAS改正同様、NAV49、COMSAR8で検討し、MSC78で承認、MSC79で採択予定。
 機能要件のポイントは次のとおり。
イ 本システムは衛星経由で通信プロトコールを通して運用され、AISと異なり特定の者に情報提供されるもの。
ロ 本システムはAISと同様にスイッチオフできるものとし、具体的な事態を規定する方針。
ハ 本システムは基本的には全世界をカバーするもので、沿岸国は自国の沿岸を航行する船舶の監視することを期待している。
(3)本件の速やかな検討のため、米国をコーディネーターとするコレスポンディング・グループを立ち上げる。
2-1-2 MSC77出席中のUSCG担当官から聴取したところ次のとおり。
(1)米国に入る船舶は全てUSCGでトラッキングする方針で準備を進めている。これには、船舶の米国への入港情報を前広に入手することが不可欠であり、右を関係組織との間で調整中。
(2)対象船が多いためポーリングに係る費用は相当見込まれる。ただし、沿岸監視の目的で陸上にAIS基地局を整備することを考えた場合、VHF局を持たない地域に新たにVHF海岸局を設けるよりも、既にあるインマルサットを活用して航跡トラッキングする方が安価で済むとの意見もあり、このシステム整備とAIS整備は同時進行で検討している。
(3)常時スイッチオンを確保する方策については現在検討中。実務的には、AISの場合も同様であるが、スイッチオンをいかなる形でも約束事としてしまえば、スイッチオフして航行中の船舶は「あやしい船」として監視の対象となる。
2-1-3 商品例(別添2参照)
 IMOの会議場外でデモされていたTRANSAS社製識別追尾システムの概要次のとおり。
(1)キットは150米ドル。情報入手料は一日50ドル。インマルDを使用。情報提供頻度は自由に変えられる。気象情報は会社が英国気象から買いとって提供。
(2)バッテリーは数ヶ月持つ大容量。
(3)ロシア海事局では、漁船操業状況監視、密漁者特定のため、6000隻の漁船に装備させ監視している由。(詳細不明)
(4)トラッキングとして使用する場合、インマルCを使う。情報は、発信者から衛星を介し直接契約者に届くもので、秘匿性も十分である。これだと、インストールに6000ポンドかかる。情報入手料は同様に1日50米ドル。
2-1-4 商船への搭載
 ロイズレジスター主催の船舶保安職員の研修に参加した新造中の豪船籍調査船一等航海士から聴取したところ次の通り。
(1)Pole Star Space Appications社製の「パープル・ファインダー」を採用している。
(2)船舶の位置情報はインマルサットを介してサービス提供会社のホストPCで管理され、右を通して船主に情報が流れる仕組み。
(3)バックアップシステムとしてV-SATを採用。
 
2-2 船舶保安警報装置
2-2-1 商船への搭載
 前述豪船籍調査船一等航海士から聴取したところ次のとおり。
(1)セキュリティ専門会社のシステムを導入予定。本システムについては、船長と、自分を含む2名の士官、合計3名しか知らない。取り付けについても私自身が立会い作業を行う予定。
(2)本件警報は会社に送信されることとなっている。会社に加え警察機関等への連絡を同時にすることは考えていない。発信後の情報のハンドリングは会社の責務との認識。
(3)通信方法はインマルサットがメインで、他の手段によるバックアップを含め全部で3系統。
(4)発信方法等の詳細についてはお答えできない。
2-2-2 TRANSAS社製商品
 前述システムで船舶保安警報の送信は可能。その場合、アラームボタンは、いわゆるボタン式からレバー式などどのようなものでもok。要望に応じ作れる。
 
2-3 AISシステム
 MSC77出席中のUSCG担当官から聴取したところ次のとおり。
2-3-1 USCGの大型船には、既にAISを搭載済み。今後は沿岸をカバーする小型船への搭載を検討・準備中。海軍も既に一部の船には同じ型式のAISを搭載している。
2-3-2 このAISは周波数も一般のものと同じ。実施する業務によってスイッチオフできる。例えばSARの時はスイッチオン。
2-3-3 AIS陸上局の整備は、今後数年間を見越して行っていくが、まずはVTSから整備して行く。
 
別添1
 
船舶の長距離識別追尾システム(MSC77/WP.15)
3 MSWGは、長距離識別追尾システムの機能要件と運用の原則について検討し、システムのスウィッチ・オフとレンジについての勧告を作成した。
 
4 MSWGは、長距離識別追尾システムが、受信する者全てに開かれたシステムであるAISとは、基本的に違うシステムであり、衛星経由で通信プロトコールを通して運用されるものであると理解した。このシステムは秘匿性を維持でき、かつ24時間毎日機能する必要がある。
 
5 このシステムは、AISが2002年のSOLAS会議で改正されたSOLAS5章第19規則でその運用に関し規定されたのと同様、システムをスイッチオフする事態があり得ることが認められた。本システムがスイッチオフされる具体的な場合としては、
.1 航海に関する情報の保護に関し、国際的な取極め、規則、標準がある場合(SOLAS5章第19規則)
.2 船長の裁量により、本システムの運用が船の安全・保安を脅かすと考える場合であって、船長がこのスイッチオフ措置が取られていることを主管庁に対し通報している場合
.3 沿岸国による情報の受信が船の安全・保安を脅かすものとして旗国から連絡を受けた場合
 
6 長距離識別追尾システムに必用とされるレンジは、その活用如何で異なり、次のようにまとめられた。
.1 旗国は自国の船を世界規模で追尾する可能性を有すべき。
.2 寄港国は、入港を希望する旨意思表示した船舶を追尾できる可能性を有すべき
.3 システムは、捜索救助と連携した任意の通報制度に使用するに十分なレンジを有すべき
.4 沿岸国は、自国の沿岸(100海里)のレンジ内を航行する船舶を追尾できる可能性を有すべき(上記5の. 3により、旗国は船舶に対し通航しないよう指示することができる)
 
7 MSWGは、英国提案MSC77/6/11を長距離識別追尾システムの機能要件案に盛り込んだ。
 
8 米国提案MSC77/6/16について、MSWGは機能要件の修正提案を考慮するとともに、SOLAS11章の2の新たな規則に関する提案については、未だNAV49とCOMSAR8での検討及びMSC78への報告が行われていないことから、MSCとして本件を考慮し右新規則の追加を承認するには時期尚早であり、また、手続き面からも改正SOLASが発効した後に改正作業を行う方が望ましいという点で合意した。更にMSWGはMSCに対し、
.1 NAVに対し、修正された機能要件及びSOLAS改正案を検討しCOMSAR8に報告するよう指示する
.2 COMSARに対し、修正機能要件を実施する最善の方法を検討し、修正機能要件を考慮した上でSOLAS改正案を最終化し、
 適当であれば、適切な衛星システムを承認する方法を勧告し、更に適当であれば衛星事業提供者間の識別・追尾機能を調整できる適当な機関を勧告し、
 MSC79での採択を視野に入れ、長距離識別追尾システムに関する適切なSOLAS改正案をMSC78が承認できるようCOMSARの勧告として提案する。
 更に、本件検討のため米国が調整者となったコレスポンデンス・グループを立ち上げ、検討結果をCOMSAR8に提出する。
 
9 委員会は、アネックス1のガイダンスを支持し、COMSAR8、NAV49にそれぞれ指示することを要請されている。
 
別添2
 
トランサス社製ロングレンジトラッキングキット
 
ブースの様子
 
SHIP GUARD
豪州RCCが使用している
トランサス社製船舶保安警報装置
 
警報ボタン(レバー式等任意のスイッチに変更可)
 
左上:Terminal with battery back-up
右上:Antenna concealment unit







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION