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はじめに
 低迷が続く経済情勢に加え、地方分権、構造改革の進行など、近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化し、厳しさを増してきている。したがって、都道府県、市区町村、広域市町村圏などは、新たな施策づくりにおいてはアウトソーシングや広域的共同処理などを従来以上に追求せざるをえなくなっており、既存の施策についてもたえず見直し、行財政のスリム化に努めることを求められている。また、ここ数年、全国各地で、合併への模索がなされているところであるが、市町村合併特例法の期限切れまで一年を残すだけとなっている。以上のような状況のもと、自治体は、個性豊かで活力あふれる地域形成に向け、地域資源の活用や住民とのパートナーシップを基本理念とし、地域づくり・まちづくりに懸命に取り組んでいるところである。
 当機構では、自治体が直面している諸課題の解決に資するため、全国的な視点と個々の地域の実情に即した視点の双方から、できるだけ多角的・総合的に課題を取り上げ、研究を実施している。本年度は、7つのテーマを具体的に設定し、取り組んだ。本報告書は、このうちの一つの成果を取りまとめたものである。
 本研究は、JR甲府駅を中心とした「まちなか区域」の土地利用や建物の動向の把握、まちづくり上の課題抽出の上、地域の将来像にふさわしく、かつ地域の活性化に資するための用途地域、建築形態規制の指定見直しのあり方について検討し、その素案の提案を行ったものである。
 本研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員及び幹事各位をはじめ、関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
 また、本研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて、甲府市と当機構とが共同で行ったものである。ここに謝意を表する次第である。
 本報告書がひろく自治体及び国の施策展開の一助となれば幸いである。
 
 平成16年3月
財団法人 地方自治研究機構
理事長 石原信雄
  わが国は、社会経済状況の変化や少子・高齢社会の到来、自動車社会の進展によりこれまでの都市化社会から成熟した都市型社会の時代を迎えようとしている。
 このような、都市化社会から都市型社会に対応するため平成12年5月に都市計画法が改正され、地域の個性を活かしつつ、「活力ある中心市街地の再生」と「郊外部の豊かな田園環境のもとでゆとりある居住」を実現するための街づくりが進めやすいものとなった。
 このような背景を踏まえ、甲府市(以下、本市という)では、都市計画法第6条に基づく都市計画基礎調査を平成12年度に実施し、土地利用、宅地化動向の把握、さらには今後の本市のまちづくりを進める上での基礎資料として活用してきた。
 また、平成11年度に甲府市中心市街地活性化基本計画を策定し、平成13年度には甲府市都市計画マスタープランを策定するなど、順次、まちづくりに取り組んでいる。
 特に、まちなか区域においては人口の流出、活力の低下が顕著であり、本市の重要課題として位置付けられている。
 以上の社会的背景とまちづくりの取り組み過程を踏まえ、本研究では、JR甲府駅を中心とした「まちなか区域」の土地利用や建物の動向を把握し、まちづくり上の課題を抽出し、地域の将来像にふさわしく、かつ地域の活性化に資するための用途地域、建築形態規制の指定について見直し、まちづくりの整備手法を検討することを目的とする。
 
  本研究を進める上で、次の視点に配慮し進める。
 
(1)上位関連計画に整合した、まちなか区域のまちづくりの方向性を検討する。
(2)まちなか区域の活性化に資する用途地域等の法規制について見直しを検討する。
(3)まちなか区域の活性化に資する市街地整備の手法について検討する。
 
  本研究は、以下のフローに基づいて進めた。
 
図表序−1 分析・検討のフロー
 
 本研究の対象地域は、山梨県甲府市の中心市街地区域を含む、以下の図に示す「まちなか区域」とする。
 
図表序−2 まちなか区域
(拡大画面:565KB)
 
まちなか区域設定の考え方
 「中心市街地活性化基本計画」の範囲は、県庁、市役所を中心として、容積率600%の商業地域を主体として設定している。そして「まちなか区域」は、居住再生を目的としていることから、中心市街地の区域(約110ha)を核として、そこに歩いて行ける範囲を、周辺地区として加え、約300haの区域を設定した。
 自治会単位でいうと、新甲府市総合計画の中に「中央部地区(富士川、相生、春日、新紺屋、朝日の5地区)として位置づけられている区域と、これらと生活圏を共にすると考えられる「穴切地区」を加えた区域となっている。
 区域境については、幹線道路や都市河川など現有する「地形・地物」を対象とする事が、明確性の観点から適切であるため、北側は山の手通りを、西側は相川を、南側は荒川及び青沼通りとした。
 東側については、適切な「地形、地物」が見受けられないため、「中央部地域」内にある「富士川小学校と相生小学校」の学区境が適切な範囲と判断した。なお、富士川小学校の学区に含まれる愛宕山の斜面(傾斜地)については、一般的に「居住施設」の誘導・支援の対象区域には適さないとの考えから、そこに指定されている第1種住居専用地域を対象区域から除外している。
 
図表序−3 研究対象地区の都市計画総括図
(拡大画面:344KB)
 
(1)地域の現況把握
1)人口動向
 庁内関係資料や国勢調査の結果を活用し、区域全体及び地域別などを単位に、人口及び人口密度の動向を整理したところ、郊外部での人口集積と中心市街地での人口の空洞化が進んでいることなどがわかった。
 
2)土地利用・建築物調査
 平成13年度に行われた都市計画基礎調査の結果を活用し、まちなか区域を現行の用途地域及び建築形態規制の区分を概ね街区単位でブロック化し、土地利用特性、建物用途特性を把握し、建物用途別延床面積比率による特化・混合解析を行った。その結果、土地利用特性からは商業地域は用途地域によって誘導しようとする土地利用と現況とにかい離が見られること、建物用途特性からは住宅系用途に特化したブロックがモザイク状に分布していることなどがわかった。
 また、建ぺい率・容積率、建物階数、不燃化率についても現況を把握した。その結果、建ぺい率・容積率は充足率が全体的に低いこと、中心部以外の区域に立地する建物は2階建て以下が大半を占めること、延焼危険性が高いブロックが一部に見られることなどがわかった。
 
3)都市計画等の指定状況
 調査対象地区における地域地区・建築形態規制等の指定状況を整理した。
 
(2)将来土地利用の方向性の整理
1)上位・関連計画の整理
 「新甲府市総合計画後期基本計画」や「やまなし21世紀都市ビジョン(山梨県都市計画区域マスタープラン(案))」「甲府市都市計画マスタープラン」など、まちづくりに関わる上位・関連計画を整理した。
 
2)用途地域指定方針・指定基準の検討
 1)で整理した上位・関連計画から、用途地域等指定の基本方針、用途地域等の設定方針、用途地域等の指定基準、その他用途地域等の変更・決定にあたって留意すべき事項など、地区の将来土地利用方針を明確にした。
 
(3)現行用途地域指定等の問題点の把握
1)問題箇所の整理
 現行用途地域と、土地利用・建築物立地現状との比較、及び上位・関連計画の将来土地利用方針との比較から、問題箇所を抽出した。これら、問題箇所は、用途地域等見直しの検討にかかる基礎データとして整理した。
 
2)用途地域見直しに際しての課題
 以上の整理・分析を踏まえ、用途地域等の見直しに際して留意すべき課題をまとめ、見直し検討にあたっての視点を設定した。
 
・都心拠点制を高める視点から、商業業務等の都市機能の集積密度を高める。
・都心居住のメリットを高めるため、都心型集合住宅による画一的な市街地形成ではなく、多様な属性を有する居住者の定住を可能とする住環境を確保する。
 
(4)用途地域等見直し素案の検討
1)見直しの基本方針
 以上を踏まえ、見直しの基本方針として、次の3方針を設定した。
・良好な環境の確保を条件とした制限の緩和
・メリハリのある土地利用・機能配置
・需要に応じた供給を可能にする制度の導入
 
2)用途地域等見直しメニューの設定
 3方針にあわせた用途地域見直しメニューを設定した。
 
3)用途地域等見直し一次素案
 土地利用方針や土地・建物の現状等を踏まえつつ、設定したメニューの活用による用途地域等見直し一次素案として「緩和型見直し案」と「現状+追加指定案」の2案を設定・検討した。
 
4)用途地域等見直し二次素案
 3)の2案について、メリット・デメリット等を比較検討した結果、以下のような用途地域等見直し二次素案を策定した。
・建築確認型総合設計制度の活用(商業地域600/80の区域)
・同区域を除く区域における建築確認型総合設計制度の適用除外区域の指定
(用途地域及びその他付帯する事項(建築形態制限等)は見直しを行わない。)
 
(5)まちなか区域の土地利用に関するまちづくり手法の検討
 まちなか区域の活性化に向けて検討を進めた用途地域等見直し二次素案を踏まえ、その土地利用に関するまちづくり手法として適用可能な3つの手法「特例容積率適用区域」「上層階住居系用途誘導特別用途地区」「建築確認型総合設計制度」について、その制度の概要や適用上の問題課題の整理を行った。
 
図表序−4 用途地域等見直し二次素案
 
(1)実施主体
 本研究は、甲府市と財団法人地方自治研究機構との共同研究とする。
 
(2)実施体制
 本研究にあたり、有識者による研究委員会を設置する。研究委員会は、本研究の企画書案ならびに、事務局が報告する本研究の内容・結果について、その妥当性について審議・検討を行い、かつ、まちなか区域における用途地域・建築形態規制のあり方について助言・提案するものとする。
 また、研究委員会の下に事務局を設け、本研究の具体的な推進に必要な事務及び調査を行うものとする。
 
図表序−5 実施体制







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