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2 三位一体の改革の動向
(1)三位一体の改革の経緯
 平成14年5月21日、片山総務大臣(当時)より経済財政諮問会議に「地方財政の構造改革と税源移譲について(試案)」が提出された。これは、通称として、「片山試案」あるいは「片山プラン」と呼ばれている。(図表2-3-2)。このときに、国庫支出金の見直しと、それによって不要となる国税の税源を地方へ地方税として振り替える、すなわち、税源移譲を行うという基本的な考え方が示された。具体的には、国庫支出金を5.5兆円見直し、所得税から住民税に3兆円、消費税から地方消費税に2.5兆円振り替えることとされている。また、地方交付税についても、景気の回復を待って、地方税への振替を行うことが示されている。以前から、税源移譲の考え方、案、ないしシミュレーションのようなものは示されていたが、政府の機関において示されたのはこの試案が史上初めてである。
 
図表2-3-2 「地方財政の構造改革と税源移譲について」
地方財政の構造改革と税源移譲について(試案)(抄)
総務大臣 片山 虎之助
 
 これをふまえ、経済財政諮問会議において地方財政の構造改革に関する議論が進められ、平成14年6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(図表2-3-3)においては、「・・・国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、今後一年以内を目途にとりまとめる」とされた。
 
図表2-3-3 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」
 
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002(抄)
 
第4部 歳出の主要分野における構造改革
3. 国と地方
(1) 地方行財政改革については、これを強力かつ一体的に推進する必要がある。先ず、国の関与を縮小し、地方の権限と責任を大幅に拡大する。地方分権改革推進会議の調査審議も踏まえつつ、福祉、教育、社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導の下、各大臣が責任を持って検討し、年内を目途に結論を出す。
 
(2) これを踏まえ、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、今後一年以内を目途にとりまとめる。
 この改革案においては、国庫補助負担金について、「改革と展望」の期間中に、数兆円規模の削減を目指す。同時に地方交付税の改革を行う。9割以上の自治体が交付団体となっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、「改革と展望」の期間中に縮小していく。他方、地方公共団体間の財政力格差を是正することはなお必要であり、それをどの程度、また、どのように行うかについて議論を進め、上記の改革案に盛り込む。これらの改革とともに、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、移譲の所要額を精査の上、地方の自主財源として移譲する。
 現在、地方においては約14兆円の財源不足が生じている。歳出削減や地方税の充実など様々な努力により、できるだけ早期にこれを解消し、その後は、交付税による財源保障への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す。
 
(3) 改革の受け皿となる自治体の行財政基盤の強化が不可欠であり、市町村合併へのさらに積極的な取組みを促進する。
 また、今後の地方行政体制のあり方について、地方分権や市町村合併の進展に応じた都道府県や市町村のあり方、団体規模等に応じた事務や責任の配分(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし都道府県などが肩代わり等)など、地方制度調査会における調査審議を踏まえ、幅広く検討する。
 また、今後は国の関与に代わり、住民自ら地方行財政を監視できるよう、バランスシート等の作成や情報公開、電子自治体の実現など、地方行財政の透明性向上と説明責任の徹底が必要である。
 
 この閣議決定を受けて、平成14年8月28日の経済財政諮問会議において「総務省制度・政策改革ビジョン」が片山総務大臣から報告され、地方財政制度改革に関し、三位一体の改革の進め方について提案された。一方、小泉総理からも、同日の諮問会議において、三位一体の改革は、「改革と展望」の期間中において実施されるものではあるが、平成15年度予算においても、その「芽を出してほしい」との発言があった。
 平成14年12月24日に、三位一体の改革の「芽出し」も含めた平成15年度予算案が閣議決定され、同日、「国と地方に係る経済財政運営と構造改革に関する基本方針」が閣議口頭報告された。同方針は、「基本方針2002」において国庫補助負担事業の廃止・縮減を中心に地方交付税の改革、税源移譲を含む税源配分の見直しに係る基本方針及び平成15年度予算における「芽出し」の措置をとりまとめたものである。
 年が改まり、具体的な議論自体が再び展開され、平成15年4月1日の経済財政諮問会議において、片山総務大臣から「三位一体改革の進め方について」が提出された。
 また、同日に塩川財務大臣(当時)、民間議員からもそれぞれ、三位一体の改革の進め方について資料が提出された。(図表2-3-4)
 この3つの資料においては「基本的な考え方」から違いがある。片山大臣提出資料においては「三位一体の改革」の柱を地方分権の推進に位置づけているが、一方、財務大臣提出資料においては行財政の効率化あるいは行政体制の見直し、財政の健全化、いわゆる行財政改革色が強く示されている。民間議員提出資料においても、行財政改革色が色濃く出されている。
 総務省としては、地方財源の問題は、分権改革の中で、機関委任事務の廃止を中心とした分権一括法の時に残された課題という認識であり、三位一体の改革においては、地方分権の推進を柱に据えるというのが基本的な考え方である。
 その他、「税源移譲を含む税財源配分の見直し」部分に大きな違いがある。片山大臣提出資料においては、地方の自主財源である地方税を充実するべきだという考え方の下、国庫補助負担金の廃止を受けて、基幹税の税源移譲を行うべきとしている。一方、塩川財務大臣提出資料では課税自主権の発揮、裁量権の拡大等、国から地方への税源移譲を行う以前に、地方で課税自主権を発揮して、自ら必要とする財源は稼ぐべきであるという趣旨になっている。
 「地方交付税の改革」の部分については、片山総務大臣提出資料では、地方歳出の抑制、交付税総額の見直しを掲げている。しかしながら、交付税の持つ基本的な機能、すなわち財源保障機能と財源調整機能は一体不可分であり、基本的なフレームは維持すべきであるとしている。それに対し、塩川財務大臣提出資料では、財源保障機能が地方の歳出の肥大化を招いたのであり、財源保障機能は廃止、縮減していくとされている。
 
図表2-3-4 
4月1日の経済財政諮問会議における片山大臣・塩川大臣・民間議員の提出資料の概要
区分 片山大臣提出資料 塩川大臣提出資料 民間議員提出資料
基本的な
考え方
・地方分権の推進
・地方税中心の歳入構造の構築
・税源移譲
・地方財源保障は必要
・国民の視点
・地方行財政の効率化
・ナショナルミニマムやシビルミニマムの見直し
・地方行政体制の整備
・地方財政の健全化
・効率的で小さな政府の実現
・国・地方を通じた財政の健全化
・地方が歳出効率化や歳入増の努力をする仕組みの確立
・「自助と自律」の実現
国庫補助
負担金の廃止、縮減
・数兆円規模の削減を税源移譲につなげる
・経常費に係る国庫負担金は真に必要な分野に限定
・公共投資関係費に係る国庫負担金は根幹的な事業等に限定
・奨励的補助金は原則廃止、縮減
・同化、定型、定着化しているものは平成16年度に一般財源化
・実行ある削減計画の策定
・国の関与縮小と地方の裁量拡大
・国、地方を通じた行政のスリム化
・社会保障の給付抑制
・奨励的補助金の原則廃止
・国庫負担金はナショナルミニマムの見直しにより、水準、範囲を根本から見直し
税源移譲を含む
税財源配分の見直し
・国庫補助負担金の廃止を受け、基幹税の税源移譲
・安定的で偏在性の少ない地方税体系の構築
・個人住民税の拡充、比例税率化
・地方消費税の拡充
・国税・地方税=1:1を目指す
・課税自主権の拡充は重要課題だが、確保出来る税収には限界
・課税の自主権発揮、裁量権拡大
・交付税の財源保障機能の廃止縮減等と一体的に推進
・国、地方ともに必要な公共サービスを支える安定的な歳入構造を構築
・国、地方の財政事情、税収偏在、国債の信認、国、地方の債務配分の調整を考慮
・廃止する国庫補助負担金の対象事業につき、所要額精査の上地方の自主財源として移譲
地方交付税の
改革
・地方歳出の抑制と交付税総額の見直し
・地方財源不足の縮小と借入金依存からの早期脱却
・財源保障機能と財源調整機能は一体不可分
・地方団体に対して行政任務に見合った財源が確保されない限り地方交付税は必要
・地方団体の自主的、自立的な財政運営を目指す方向で算定の仕組みを見直し
・財源保障機能により地方歳出が肥大化
・膨張した交付税が国の財政を圧迫
・財源保障機能の廃止、縮減
・不交付団体数の増加
・配分の仕組みも地方の自主的、効率的財政運営を促す方向で見直し、簡素化、透明化
・財源保障範囲の縮小
・地方単独事業を保障の対象外
・財政力格差の是正については透明性の高い調整メカニズムを確立
・不交付団体の割合を高める
・2010年代初頭に地方財政対策からの脱却
その他 ・地方債は平成18年度から許可制廃止し、原則自由化
・公的資金の在り方は財投制度等の在り方の中で扱うべき
  ・地方債に関する国の関与を抜本的に見直し
・市場が評価することを通じて地方の財政規律を強化
・改革案の検討に当たっては、地方の声を把握し反映
・市町村合併等の促進
・道州制を含め都道府県の在り方について検討
 
 このように、平成15年4月1日の時点では三者三様、各々の見解の相違は大きかった。
 平成15年5月8日の経済財政諮問会議においては、6月下旬を目途に改革案をとりまとめるため、関係省庁の事務次官クラスを構成員とする「検討の場」を設けて、強力に検討を進めることが確認された。また、5月9日の閣僚懇談会においては、小泉総理から、「三位一体の改革に向けて」とする発言もあり、同日には第一回目の「検討の場」も開かれ、政府部内において本格的な議論がスタートすることとなった。
 この間、経済財政諮問会議や「検討の場」のみならず、政府の諮問機関である地方制度調査会、地方分権改革推進会議においても「三位一体の改革」を巡る議論が活発に展開され、それぞれの立場から意見等がとりまとめられた。5月23日に地方制度調査会が「地方税財政のあり方についての意見」(図表2-3-5)を、6月6日には地方分権推進会議が「三位一体の改革についての意見」(図表2-3-6)をとりまとめている。「地方税財政のあり方についての意見」については、「三位一体の改革」というものを地方分権推進の立場からとらえて議論していることがポイントである。「三位一体の改革についての意見」については、行政改革の観点が色濃く出ている。
 このように、経済財政諮問会議の議論及びその周辺においても三位一体の改革に関する骨太の方針に盛り込むべき内容の議論が相当に深まっていった。
 こうしたことを踏まえ、6月10日、11日には四大臣協議(官房長官、総務大臣、財務大臣、経済財政政策担当大臣)が持たれた。関係大臣間の議論・検討も受け、6月18日の経済財政諮問会議には小泉総理から総理指示が示され、三位一体の改革に関係する部分は「6.『国と地方』の改革」として一つにまとめられ、基本方針としての原案が形をなすに至った。その後、政府・与党間の調整が行われたうえで、6月26日に経済財政諮問会議において「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」として了解され、翌27日には閣議決定されるに至った。







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