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2 衣川村の問題点
(1)人口と減少と少子・高齢化
 第1章で見たように、現在5,200人余りの村人口が、平成42年(2030年)には4,000人を割ると予測されている。また、高齢化率も25.7%から38.4%へ、15歳未満の若年人口比率は15.7%から10.7%へと一層の少子・高齢化が進むことも予測されている。人口減少と少子・高齢化の動向は厳しいものになることが予想される。
 これら人口減少、少子・高齢化は、本村に次のような問題・影響をもたらすものと考えられる。
 
ア 活力の低下
 アンケートによるとマイナス評価の項目の中に、次の3項目が入っている。
 
図表2-12 アンケート結果−活力の低下
  項目 ポイント(5点満点)
1 地域行事の参加機会 2.49
2 新しい文化の吸収 2.92
3 新しい文化の吸収 2.95
 
 これは、人口減少によって、地域の環境や祭りなどの伝統文化を守るための人手が不足するとともに、高齢化により体力を要する活動が維持できなくなるということを通して、地域の伝統的な行事やむらづくりの活動が次第に廃れて行くという状況が生まれてきていることを物語っていると見ることができる。同時に、地域のリーダーたちが高齢化することで、新しい文化を吸収し、活かすという若い感性が不足してくるという地域の実情をも物語るものであろう。
 このままでは、地域は衰退の悪循環に陥ってしまうおそれがある。
 
イ 就学人口の減少
 少子化により、就学人口は減少してきており、学校などの集団活動が成り立たなくなってきた。このため、すでに中学校の統合が終わり、次いで小学校の統廃合を考える状況にいたっている。
 住民ヒアリングによれば、この問題に対する村民の支配的な意見は「子どもの社会性を育み、活動を活発にするため、統合を進める方が良いのではないか」というものである。
 しかし、学校は地区住民の心の拠り所という意味をも持つものであり、何らかの意味でその機能を地区に残すことを考えることが必要であろう。
 
ウ 財政負担
 高齢化の影響で大きいのは、国保会計や介護保険の支出増大である。現在でさえ厳しい村財政がますます厳しさを増すものと予想される。
 なお、高齢化は地域に悪い影響ばかりをもたらすものではない。高齢者が培ってきた経験や知恵が、地域の資源を活かした地域振興を考える場合、重要かつ有用だからである。
 
(2)低い生活利便性
ア 買い物の不便さ
 住民アンケートでも村の生活環境の評価の中で、マイナスの評価が最も強かったのが「村内における買い物の便」である。これを反映して、村民の地元購買率がわずか1.3%と極端に低い10
 全国的に見ても最低水準の地元購買率の数値は、村内での買い物の不便さと品揃えなどの魅力に欠けることを示している。
 
 同時に、村外での買い物の便利さを示しているものと見ることができる。周辺の都市と隔絶した交通不便な山村であれば、いかに村内の商店が少なくてもある程度は村内での購買をせざるを得ないからである。
 村外における買い物の便が良いからといって、村内における買い物の便を無視してよいわけではない。とくに日常的に買い物をする機会が多いと思われる30代から50代の世代による買い物の便に対する評価が低いことは問題である。急に必要なものができた場合に周辺の市町まで車を飛ばして買い物に行くという状況への不満が出たものと思われる。
 
イ 公共交通利用の不便さ
 アンケートによると「乗合バスなど公共交通機関の利便」と「通勤通学の便」が、それぞれマイナス評価の3番目と5番目に入っている。交通の便に関する評価がとくに低いのは、10代と30代、40代の村民であり、通学のために親による送り迎えが必要だという、厳しい状況が反映されていると考えられる。
 本村の自家用車保有率は極めて高く、また利用交通機関の87%が自家用車かオートバイであり、通勤通学に限ればその数値は93%にのぼる。
 自家用車交通が発達すれば、それに応じて便数の減少、運賃の値上げなど公共交通の利便性は低くなるという裏腹の関係にある。現に、JR駅とつながるバスは本数が減少しており、北股、南股では、1本のバスに乗り遅れたら、もう自家用車以外に交通手段がないという状況である。
 車の運転ができない子ども、運転が難しくなるお年寄りを考えると、公共交通の利便性が失われることは大きな問題である。
 
ウ 不十分な子育て環境
 子育て支援体制については、村民全体の評価では3.09ポイントと中庸であるが、20代から40代の子育て世代の評価が2.7ポイント前後と低い。
 住民ヒアリング調査でも、「幼稚園の授業時間が短いためにまとまった就業の時間が取れない」、「保育園も預かってくれる時間を延長して欲しい」、「子どもの発熱などで保育園に預けられない日や、急な仕事などで迎えが間に合わない時にサポートしてもらえる体制が欲しい」、「毎日の子どもの送迎が大変」などの切実な問題が聞かれた。
 幼稚園の教育費用が無料であるなど有利な環境もあるが、子育て環境が十分整っているとはいえない状況にある。
 この子育て環境に関連する施策・事業は、少子化対策につながるとともに、主婦の就業、家計を直撃する問題であり、定住を左右する大きな要素ともなりえる問題でもある。確かに少子化で対象年齢の子どもが減るなど、サービスを提供する側にとっても厳しい面があるが、地域福祉の体制作りを含めて、官民双方の工夫と努力が必要な分野であると考えられる。
 
(3)就業の場の不足
 アンケート調査でマイナス評価の2番目に挙げられたのは「働く場に恵まれている」という項目で「そうは思わない」というものであった。
 1章の就業状況をみると、半数近くが村外で働いている。また、村の基幹的な産業は「兼業」と「高齢者」が主体の農林業である。つまり「買い物の便」と同様に、村内に働く場は少ないが、農業との兼業を基礎として周辺市町への通勤により経済が成り立っているということを示していると考えられる。
 
(4)行政運営上の問題
ア 弱い財政基盤
 本村の自主財源比率は16.8%(平成15年度)に過ぎず、歳出のうち投資的経費に充てられる部分は平成13年度以降年々2〜3%も低下して、17.9%にまで落ち込んできている。
  従来は国の地方交付税交付金や補助金、県支出金などによって、財政規模が維持されてきた。しかし平成13年度から、村の歳入のほぼ半分を占めてきた地方交付税交付金の段階補正分が縮減され始め、毎年約1億2千万円のペースで減額が続いている。今後もこの地方交付税削減を続け、最終的には廃止する一方、代わりに税源の委譲を進め、地方財政の独立性を高めるというのが、国の地方分権の方針である。
 税源移譲はなかなか進まない状況にある。税源移譲が進んだとしても、課税客体の少ない村にとっては大きな税収増は考えにくい。つまり財政基盤が弱いことは、将来に向けての大きな懸念材料であるといえよう。
 
イ 若干の問題を抱える行政運営
 村民アンケートでは、「役場や議会はおおむね良くやっている」という設問に対し、評価ポイント2.65と否定的な答えが見られた(図表2-1項目19「役場や議会は住民ニーズにあった取組をしている」)。
 一方、役場職員に対するアンケート・ヒアリングでは、「むらづくりのビジョン、ポリシーが明確でない」という意見が出されている。
 このように、行政運営で若干の問題があると考えられる。
 なお、この原因は、住民アンケート「関心事の職業別集計」による公務員の回答にヒントがあると考えられる(図表2-9参照)。
 すなわち公務員の回答の特徴は、他の職業の村民に比べ「少子化高齢化・人口の減少」、「市町村合併」、「農林業の振興」など、いわば全国的な社会問題の本村への影響と言える問題に強い関心を寄せている。一方、「働く場づくり」、「福祉施策の充実」、「生活環境・自然環境」、「買い物の便」、「交通問題」といった村民の生活に密着した問題については目だって関心が低い。
 こうした感覚のずれが、村民の行政に対する不満に結びついているということができないであろうか。
 
図表2-9(再掲) アンケート結果−職業別「近い将来の関心事」
 

10村民の地元購買率は、すでに平成10年の時点で10%を下回っていた。水沢市や一関市に車なら30分で行くことができ、新幹線を用いれば1時間で盛岡や仙台に着くことができる。さらに隣接する前沢町に大型ショッピングセンターが開業した後の平成15年には地元購買率はさらに急落して、1.3%になったと考えられる。







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