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第1章 衣川村の概況・地域特性
 
 現在、全国の小規模自治体の多くは、人口の減少、高齢化、住民の生活圏の拡大に対する対応の遅れなど、将来に向けて、自治を維持するための不安要因を抱えている。一方で、小規模自治体、とくにその多くを構成する中山間地の農山漁村は、国土の保全、環境の維持、食糧生産、そして国民のレクリェーションの場の提供などの面で大きな役割を担ってきたことも忘れてはならない。
 また、小規模自治体は現在、地方分権を進める上で、中核となるべき基礎自治体としての行政能力を強化し、同時に財政効率を高めるために、合併による規模拡大を求められている。
 そこで、本章ではまず、第1節で小規模自治体の将来を大きく左右する可能性のある時代の潮流について概観し、第2節で町村合併に関する動向をまとめ、第3節で本村の現況をデータから概観する。
 
(1)高齢化・少子化と人口減少の進行
 わが国の人口高齢化の進み方は、世界的にも類を見ない速度で進んでいる。およそ30年前の昭和50年(1975年)にわずか10%だった高齢化率が、現在は20%になろうとしており、さらに平成42年(2030年)には25%になろうとしている。小規模自治体では、その傾向がさらに強く、すでに高齢化率が30%を超えている自治体が少なくない。平成42年(2030年)には40%になる予測される町村も多い。
 このような人口の高齢化は、一方では生活水準や医療システムの向上による長寿の達成という喜ばしい原因をもつ。しかし他方で、若年層の流出や出生率の低下に伴う少子化が高齢化率の上昇に大きく作用しているのである。現代の高齢者は、その多くが健康で、教育水準が高く、行動範囲が広く、多様な趣味をもつなど、30年前の高齢者とは様を異にしており、高齢化がそのまま、社会の活力低下につながるわけではない。しかし、医療や介護に関する費用の増大、防災や消防、地域環境維持のための若年労働力の不足など、地域自治の維持を困難にする要因になることは否めない。
 
(2)住民の生活圏の広がり
 都市、農山漁村を問わず、住民の日常生活圏が拡大していることは間違いない。通勤、通学、買い物、通院、レクリェーションなど、日常的な人の移動は、行政界に関わらず広がっている。とくに小規模自治体においては、高等教育機関、就労の場、ショッピングセンター、高度の医療機関などがない場合も多く、他市町村への移動は多くならざるをえない。
 このような移動は、車社会によって可能になっている。都会では駐車場の制約などによって困難なマイカーの複数所有も農山漁村ではごく当たり前で、ひとり1台の車で通勤や買い物に出かけるという家庭が少なくない。しかし、マイカーの利用が多くなった反面、公共交通機関を利用することが少なくなり、路線の維持が困難になっている。ローカル鉄道やバス路線は廃止や便数の削減が行われ、移動の足を公共交通機関に頼らざるをえない子どもや高齢者の生活に影を投げかけている。そこで共交通機関の維持のために自治体財源を投入するなどの措置が必要になり、それが自治体財政に対する圧迫要因の一つになっている。
 生活圏の拡大は、農山漁村からの人口流出にも結びついている。村内に住んでいた住民が、日常的な生活の利便性を求めて、周辺の町や都市に移住するというケースである。結婚や子育てを機に、とくに若年層が地域外に移住するケースが目立っている。移住した若年層が、親の面倒をみるためや、時には農林漁業を行うために農山漁村に通うという例も多く見られるようになっている。そしてこうした若年層の中には役場職員も含まれる。地域自治が、実は内部的に広域化しているという状況があるのである。
 
(3)小規模自治体の価値の認識
 小規模自治体、とくにその多くを構成する中山間地の農山漁村は、国土の保全、環境の維持、食糧生産、そして国民のレクリェーションの場の提供という大きな役割を担ってきた。全国町村会は平成15年(2003年)2月に、「町村の訴え―町村の自治の確立と地域の想像力の発揮」を出して、町村の存在価値の再認識を訴えている。その中では、再認識すべき農山漁村の多面的価値として、次の4点を掲げている。
 
(1)生存を支える価値
 農山漁村は多様な農産物や海産物を産み出すとともに、居住環境をつくる上でも大きな役割を果たしている
(2)国土を支える価値
 多くの農山漁村は、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全といった機能を果たしており、それは日本の文化そのものである。
(3)文化の基層を支える価値
 農山漁村はその営みを通して日本文化の基層を形成してきた。それは日本再生にとって、何ものにも代え難い貴重な存在である。
(4)新しい産業を創る価値
 農山漁村は新しい産業を展開する場でもある。たくさんの企業が、豊かな自然環境の中で新しい技術開発に取り組んでいる。
 
 また、小規模自治体の中には、その多様な地域性、地域の現場からの豊かな発想、柔軟で迅速な意思決定などの長所を生かして、他の自治体や国の政策転換につながるような創造的な取組を行ってきたものも少なくない。たとえば、集落の自治を生かした住民参画、身近な場所での介護サービスの提供といった福祉・健康の実現、地域資源や農産物を多面的に活用した農業振興、都市住民とともに自然との共生を考えるグリーンツーリズムの推進などである。
 以上のような、小規模自治体が本来果たしてきた役割の価値の再認識と、小規模自治体ならではの想像力は、今後の自治を考えるに当たって忘れてはならない問題である。
 
(1)地方分権と市町村合併
 地方分権と同時に、その受け皿としての体制強化のため、市町村合併を促進すべしという機運が強まっている。全国の市町村、とくに小規模自治体は、まさにその大きな潮流の中にある。すなわち、
(1)国、県のもつ権限を市町村に移管するに際しては、受け皿としての地方自治体がしかるべき能力を保持していることが前提である。
(2)その能力をもつためには、一定規模をもつことが必要である。
 という論理から、分権の前提条件として合併による地方自治体の規模拡大を求めるという国の意向が表面化してきたのである。平成7年(1995年)、地方分権推進委員会が設置されるのと機を一にして、市町村合併特例法の改正が行われた。そこでは、議員の任期特例や財政措置とともに、住民の発議により市町村合併に取り組む手続き(有権者の50分の1の署名をもって合併協議会の設置を請求できる)が法制化された。さらに、平成11年(1999年)の地方分権一括法の制定に合わせて、地方交付税合算特例期間の延長(合併後10年間は、合併前の市町村の交付税額の合計額を保障する。)や、合併特例債など、財政的優遇措置が盛り込まれた。また合併前の市町村単位に地域審議会(現在、地方制度調査会では「地域自治組織」が検討されている)の設置などの条項が追加されている。
 
(2)合併機運の高まり
 このように合併の決定は、「自己決定、自主合併」の原則の下に、選択は市町村および住民に委ねられている。しかし、全国の市町村は、昭和の大合併(昭和30年から数年の間に、新制中学校の校区人口8千人を目途に合併が行われ、9,868市町村が、3,472市町村に整理された。)のしこりがようやく取れたところに、また合併かという思いもあって、合併には積極的でなかった。
 ところが、平成13年度から地方交付税交付金の減額が始まり、とくに小規模自治体に対する段階補正を徐々に廃止するという方針が出されたことから、財政難に悩む小規模自治体は、大きく合併の方向へ舵をとり始めた。合併特例法の期限が切れる平成17年(2005年)3月までに合併を行う方針を明らかにすることによって、財政特例措置の恩恵にあずかろうと、西日本を中心に多くの市町村が動き始めたのである。この方向をさらに決定付けたのは、平成14年(2002年)11月の第27次地方制度調査会で「西尾試案」として打ち出された、合併を行わない小規模自治体の自治権を制限し、窓口事務などを除いて県または近隣の基礎自治体(合併が行われた市)の管理下に置くという考え方である。この考えを推し進める形で、平成15年(2003年)11月、地方制度調査会は最終報告を行った。その中で、現行の合併特例法が失効する平成17年(2005年)4月以降は、新法を制定し、一定期間、更なる自主的な合併を促す方策を維持することが提案されている。その骨子は以下のようなものである。
 
(1)概ね人口1万人を目安として、それに満たない小規模町村には合併を期待する。
(2)都道府県が市町村合併に関する構想を策定し、これに基づき知事は市町村に対して合併の勧告、斡旋を行う。
(3)なお小規模なままとどまる町村については、特例的団体として、窓口サービスなどの一部を行うものとし、それ以外の事務処理は都道府県が行う。
(4)合併後の市町村(基礎自治体という)内の住民自治を強化する観点から、基礎自治体内の一定の区域を範囲として、地域自治組織をおくことができる。地域自治組織としては、法人格を有しない行政区的なタイプと、法人格を有する特別地方公共団体タイプの2タイプを考える。
(5)現行法の財政特例措置は新法には引き継がない。
 
 このように、合併をしなければ財政的な困難を覚悟しなければならないのみならず、地方自治体として存続できない可能性が示されたことで、事態は大きく変わり、全国的に市町村合併の動きが一気に高まったのである。
 
(3)市町村合併の動向
 平成15年(2003年)3月以降12月までに、すでに全国で57市町村の合併による14の新市と5つの町が誕生し、さらに本年中には38市町村の合併により、6市と2町が誕生する予定である。さらに現在、6割を越える市町村が合併への準備段階(法定協議会もしくは任意協議会の設置)に入っている。







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