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はじめに
 
 低迷が続く経済情勢に加え、地方分権、構造改革の進行など、近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化し、厳しさを増してきている。したがって、都道府県、市区町村、広域市町村圏などは、新たな施策づくりにおいてはアウトソーシングや広域的共同処理などを従来以上に追求せざるをえなくなっており、既存の施策についてもたえず見直し、行財政のスリム化に努めることを求められている。また、ここ数年、全国各地で、合併への模索がなされているところであるが、市町村合併特例法の期限切れまで一年を残すだけとなっている。以上のような状況のもと、自治体は、個性豊かで活力あふれる地域形成に向け、地域資源の活用や住民とのパートナーシップを基本理念とし、地域づくり・まちづくりに懸命に取り組んでいるところである。
 当機構では、自治体が直面している諸課題の解決に資するため、全国的な視点と個々の地域の実情に即した視点の双方から、できるだけ多角的・総合的に課題を取り上げ、研究を実施している。本年度は、7つのテーマを具体的に設定し、取り組んだ。本報告書は、このうちの一つの成果を取りまとめたものである。
 本研究は、中期的には平成14年6月策定の「豊中市交通バリアフリー化の基本方針」に基づいたバリアフリーマップをWWW経由で維持利用するシステム上で、行政と住民が共同して常に最新の状態に、あるいはいっそう利用者の求めるものに近い状態にするしくみを実現することを目指すものであるが、今年度はプロトタイプシステムを用いた実証実験を通じて実施上の問題点や課題を把握し、今後の対応策や利用普及・活動展開のあり方について検討・提案を行ったものである。
 本研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員及び幹事各位をはじめ、関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
 また、本研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて、豊中市と当機構とが共同で行ったものである。ここに謝意を表する次第である。
 本報告書がひろく自治体及び国の施策展開の一助となれば幸いである。
 
平成16年3月
 
財団法人 地方自治研究機構
理事長 石原 信雄
 
(1)豊中市における地域情報化の流れ
 
 豊中市(以下、「本市」)は、昭和38年の電算機導入以来、住民基本台帳をはじめとする行政情報のシステム化を図るとともに、平成6年度に策定した「豊中市地域情報化計画」に基づき、「市民本位の情報化」「地域特性を活かした情報化」「人にやさしい情報化」の3点を基本的な考え方とし、各種情報機器や庁内LANなどの情報基盤整備を行い、情報化施策を体系的、計画的に進めることにより、事務処理の効率化・迅速化と市民サービスの向上に努めてきた。
 最近では、インターネットをはじめとする情報通信技術が飛躍的に進展し、また、電子政府・電子自治体実現に向けての取り組みが本格化するなど、市民生活も大きく変化している。このような中、情報化時代に対応できる人材を育成することや、IT(情報技術)を活用した情報公開や市民活動情報の提供を行い、行政=住民間及び住民=住民間の合意形成、パートナーシップ、コラボレーションなどによる「まちづくり」を行うことがこれまで以上に重要になると考えられる。
 本市はこうした「まちづくり」に向けて、本市ホームページを充実し、IT講習会やITリーダー育成講習会などで市民の情報リテラシー向上を図り、地域イントラネット基盤整備などの環境整備を行っているところである。
 また、ITを活用した行政・市民間のコミュニケーションとしては、現在、電子メールによる意見募集やパブリックコメントが行われている。
 
(2)豊中市における地理情報システムの開発と利用
 
(1)これまでの開発と利用
 本市は、平成3年度に「地図情報部会」を設け地図の研究を開始して以来現在に至るまで、地図情報の共通利用による経費削減や業務効率化、市民サービスの向上等を目ざして、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を整備・充実させ、国内でも先進的な活用を行ってきた。
 具体的には、平成9年度に基本図データベースの構築を完了し、これを基本地図として共有化した。平成11年度には、全庁的展開を図り、庁内情報共有化の第一歩として、庁内LANを活用した豊中市地図情報提供システム(WebGIS)の運用を開始した。これは、クライアント側に新たなアプリケーションを導入することなく、地図情報を市役所全体で利用できるようにしたものである。
 平成12年12月には、市民サービスとして、本市ホームページのコンテンツとして地図情報提供サービス「とよなかわがまち」を始め、本市が保有し市民に役立つ情報を地図形式で提供している。
 また、平成12年度・13年度にはGIS実証実験モデル地区の指定を受け、国土交通省国土計画局のGIS整備・普及支援モデル事業「地域空間データの共有化手法に関する研究」、総務省自治行政局「統合GIS普及に向けた空間データ更新手法に関する調査研究」で実証実験を行った。
 平成14年度には、ID・パスワードを持った利用者がWWW経由で、情報を地図上のデータとして登録し、その更新や削除などの編集が行えるシステムを開発した(「とよなかわがまち」中高生のためのまちづくり講座2002対応版)。
 
図表序−1 地理情報システム(GIS)導入経過
平成3年度 「地図情報部会」を設け地図の研究を開始
平成6年度 「豊中市地域情報化計画」において「都市情報システム」を位置づける
平成7年度 基本図データベース構築着手
平成9年度 基本図データベース構築完了
基本図データベースを本市の基本地図とする
平成10年度 地図情報の全庁的展開を図る
平成11年度 豊中市地図情報システム(WebGIS)運用開始
平成12年度 豊中市地図情報インターネット提供システム運用開始(サービス名「とよなかわがまち」)
GIS実証実験モデル地区指定
平成13年度 GIS実証実験モデル地区指定
平成14年度 「とよなかわがまち」中高生のためのまちづくり講座2002対応版開発
 
 
(2)将来の行政=住民間・住民=住民間利用イメージ
 平成14年度に開発された「とよなかわがまち」中高生のためのまちづくり講座2002対応版をベースに、「まちづくり協議会マップ」が運用されている。これは、現在のところ、まちづくり協議会が、まちづくりの成果やイベント、保存建築物などの紹介を行うものである。なお、まちづくり協議会とは、本市の「まちづくり条例」に基づいて認定された市民主体のまちづくり組織であり、本市から活動内容にあった技術的あるいは財政的な支援を受けているもので、現在、豊中駅前、岡町、曽根の3地区に存在する。
 この「まちづくり協議会マップ」のような活動が発展してゆけば、WWW経由でGISを活用するシステムにより、まちの情報を行政と住民とで自律・分散・協調しながら、維持管理・共有し、行政=住民間および住民=住民間の合意形成、パートナーシップ、コラボレーションなどによる「まちづくり」に結びついてゆくと考えられる。
 イメージとしては、図表序−2および3のように、本市は本市が保有し市民に役立つ情報を提供し、住民は住民の視点から必要な情報を提供し、相互に補い合って、これら情報を住民が求めるような形で利用できるようにするものである。
 
図表序−2 分散・協調の体制イメージ
■連絡協議会には、全体連絡協議会、テーマ別連絡協議会の他に、地区別のまちづくり協議会や関連するテーマ別連絡協議会の連絡協議会などが考えられる。
■各連絡協議会と、関進する豊中市部署とは、相互に連携を図りあう
■全体連絡協議会は、全テーマに関わる内容を協議・調整する。
■テーマ別連絡協議会は、各テーマの中で共通の内容を協議・調整する。
■例えば、登録対象とする情報や分類の基準づくり、アイコンデザインなどである。
■地区別の分担体制。
■各地区のグループにはリーダー層とメンバー層がある。
■中間支援組織とは、市民、NPO、企業、行政等の中間にあって、資金、人材、情報、ノウハウ、活動機会の提供や各主体間の橋渡しを行う組織である。
 
図表序−3 住民団体等による自律的な地図情報維持管理イメージ
注)住民団体のメンバー層が情報を、入力し、最初の確認「公開申請確認」を行う。
リーダー層が2回目の確認「公開確認」を行う。
 
 
(3)豊中市における交通バリアフリー化に向けた取り組み
 
 本市では、平成12年11月の交通バリアフリー法の施行を受け、「豊中市交通バリアフリー基本構想検討委員会」(新田保次(大阪大学大学院助教授)委員長を含む26人の委員で構成)を設置した。4回の委員会とのべ441名が参加した6回のワークショップ(1回の現地点検調査を含む)を通じた議論、アンケート調査及びパブリックコメントなどをへて、平成14年6月28日には「豊中市交通バリアフリー化の基本方針」と「緑地公園駅地区交通バリアフリー基本構想」をとりまとめた。
 この基本方針に基づき、本市は平成22年(2010年)までに市内11駅地区から抽出した、重点整備地区のバリアフリー化を進め、概ね平成32年(2020年)までに市内全域のバリアフリー化をめざしている。
 
図表序−4
 
豊中市交通バリアフリー基本構想の構成
(拡大画面:48KB)
注)
平成14年7月の第5回委員会において、重点整備地区としては、緑地公園、千里中央、庄内、岡町の4駅とすることが決まった。
 
 平成15年度に千里中央駅地区の基本構想を策定した。また、基本構想が策定された緑地公園駅地区では、推進協議会が設置され、各事業者間の調整、進捗状況の把握など、具体的な推進に向けた取り組みが行われている。
 
 一方、住民の自発的な活動としては、独自にバリアフリーマップを発行している団体やサークルもいくつか存在する。
 
 
(4)位置づけと目的
 
 本研究は、中期的には平成14年6月策定の「豊中市交通バリアフリー化の基本方針」に基づいたバリアフリーマップをWWW経由で維持利用するシステム(地図情報インターネット協働システム(仮称))上で、行政と住民が共同して常に最新の状態に、あるいはいっそう利用者の求めるものに近い状態にするしくみを実現することを目指すものである。本市は、平成16年度以降の本格運用を目標としている。また、長期的にはこのシステムを応用して、さまざまなテーマでまちの情報を行政と住民とで自律・分散・協調しながら、維持管理・共有し、行政=住民間および住民=住民間の合意形成、パートナーシップ、コラボレーションなどによる「まちづくり」の実現を目指すものである。
 しかしながら、現在上記のようなしくみ(図表序−2及び3)は仮説の域を出ない。そこでこの平成15年度は、ツールであるところの地図情報インターネット協働システム(仮称)のプロトタイプを構築し、実証実験として「まちづくり協議会 そね21 の会」「原田校区福祉委員会」を中心とする原田校区小地域ネットワークの協力を得てバリアフリーマップの予備的作成作業を行い、地域住民が主体となってバリアフリーマップ等地域コミュニティマップを作成していく過程において発生する問題点や課題を把握し、今後、地域住民が地域コミュニティマップを作成するにあたってのポイントや行政の支援のあり方を検討することを目的としている。







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