日本財団 図書館


 弯曲の有る舳の登りについて少し話します。弯曲した形の転写は型板で行わず、現物の計測です。棚板に型受作業で舳の傾斜が決まりますと(振出しも含めて)次図の様に糸を張って、舳の曲りを棚板の方向に合せて計測し、傾斜と曲りを決め、隈への嵌込部を仕上げます。(下図参照)
 
 
 次にこの海具(棚板)の矧合せについて申し上げます。海具は手挽で表面に凹凸のある事は前に申し上げました。鍔ノミで先孔を開けダメを彫って、摺合せが済んだ海具は摺面を叩いてつぶし矧合せ作業となりますが、之は板を立てて行います。通り前を構成する海具が細い場合は2枚目を立て、之に通り前板を乗せ矧合せ、反転し通り前板を下として順次重ね釘止めとします。
 
 
 重ね合せ以前の事ですが、摺合せが終った時点で合せ目の所々にノミ立てを行い、后で合せる場合の合せ目印とします。その上で(A)〜(B)から始められますが、この立て矧合せをする時に始めて、本来の本鎹を打込みます。
 仮鎹はその時に外されます。本鎹は釘四本置きに1ヶ所の割合とします。縫釘の釘打作業は下向の2本づゝ丈で、上向のものは、全ての板を矧合せた后に、盤木上に水平に置いた時に行います。
 
 
 仮止用の鎹は大きいものを使い要所を〃〃とします。(多少無理をして曲げ気味の所も有ります。離れ防止の鎹ではなく寄せ用として使う訳です)その上正規の鎹を打ちます。鍔のみは片鍔のみと云い(道具の項で詳しく書きます)上図の様に先孔の所へ打込み(釘長さの3/5まで)之を抜いて釘を差込み。釘締を使って釘を打込みます。釘締作業は何人も並んで、ロックンロールかサンバの様に調子をとって行いますが、約3秒で1回程の間隔でのハンマー振りですが連続では疲れますから、ドラムのソロの如く大きな音は打込で、小さい音は釘締めの頭をカタカタと調子をとる・・・と云う様に各人それぞれの音の流れが有ります。全てを締め終って、内側を上として盤木上に倒します。この后の作業は
1 上向きで打込んでいなかった釘は倒したまゝの姿で打込を行います。
2 仮鎹を外し、海具に出来た孔は埋木を差し、打込后切断します。
3 本鎹を外し、この部を鎹が上面から4粍程埋める様彫込んで打込む。
4 海具の節などをちょうなを使って凹面に削り取ります。(鉋掛けのために)
5 釘孔にダメを打込みちょうなで削り落す。
6 海具の内面の凹凸を薄い方に合せ削り取ります。
7 鉋がけ 65頁の図の様に斜にして、半分位を削り、他方を上に起し替えて半分を削ります。
8 棚板を裏返して仮止の鎹を外し、埋木を差し、本鎹を外し表面より鎹の上面が3粍程埋る様彫り込んで再び本打込を行う。
9 裏側の鉋がけの様に棚を斜にして鉋がけを行う。(荒、仕上の2通り)
10 棚板を立てる時に使った大きな丸鋼の鎹(つかみ)の孔跡を埋める。
 之等の鉋がけ作業は鉋の良し悪しが自分の能率に大いに影響しますから、職人さんは相当に購入時に吟味します。
 
鎹用埋木(杉)
つかみ用埋木(杉)
何れも海具の端材を利用しバンドソーで造る。
 
矧合せ后の海具の鉋がけ
上方から見た場合
 腕を伸し、全身の力を入れて、弧を画く様にしての動作となり、片側完了后は、反対側を持ち上げて、全面を仕上げます。
 大変重労働です。(今は電動鉋ですからこの作業も、さして苦労ではありませんね)
 
 棚付が全て終った頃は船内のダメ廻りは全て終り、抜棚も終り船梁の取付となります。
 
 見習工時の教本に次の様にあります。(添付資料参照
“E 船梁
(イ)船梁の効用
 船体ノ横圧ニ対シテ必要ニシテ特ニ和型船ニ於テハ横圧力ニ堪ユルベキ主要ナル材料トス。
(ロ)船梁の材料
 楢又は椈ヲ使用ス。
 一般的ニハ耐圧、耐張ニ堪ヘ軽量且つ腐蝕ニ堪ユル材料ヲ良トスルモ、北洋方面ニ使用スル和型船ハ其ノ用途ノ関係ニヨリ強度ニ重度ヲ置キ、楢及び椈材ヲ使用セリ、地方ニ於テハ檜、松、杉、等ノ軽量材ヲ使用スル場合多シ。
という事で堅材を使うことは、この造船所の特殊事情の様でした。
 船梁、船尾から順に説明をと存じます。船梁でない舵床は抜棚を取付ける前に施行されるものですので、之を先に話しましょう。
 
舵床







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION