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 一般には、主要寸法を決める位置が定められており、舳と付根と戸建の付根の長さを四等分し、表金場、中金場、・金場と称しており、敷の巾、下棚、上棚の開き、同口巾、深さなどを決めております。建造時の敷の盤木や支柱の位置も大体この位置の脇に立てます。柱は木製のくさびを以て堅く締め、上部は例え柱がゆるんでも倒れない様に釘止としておきます。上棚や下棚は取付后の名称で単材としては海具が一般の呼名です。矧合せは海具矧ぎ、船体への取付けは海具付け(又は棚付け)と申しておりました。
 之等の取付(海具)の最中に、ダメ廻りと称するコーキング工事を別の大工さん(専門)が行いますが、例の漆を用いますし未乾燥のため、手足や衣服に付着し、ウルシカブレに悩まされ続けます。陰部は勿論、顔も熱でハレ上り、関節の裏、体の皮膚の柔らかい所全てが猛烈なカユミと弱い人は水泡まで発生します。油を手足に塗ったりしますが免疫となるには相当の年月が必要となります。
 下棚の取付は堅いぶな材の敷と柔らかいすぎ材の海具との摺合せがあり、上棚の取付は杉材同士の柔かい材料の摺合せとなりますが、鋸に依る摺合せは、鋸の進み方がどうしても柔らかい所 〃 〃 へと摺り進みます。下棚の取付では鋸目は柔かい海具を主に削りますし、節などがあれば鋸目は節の無い相手方の柔かい所へ進み勝ちとなります。それと、まだ見習工の頃は技能が未熟ですから、只々力の限り鋸を引きますから、力の掛る方へと摺目が曲る事があります。『コラーッ、しぶいちを作っているんでネェドー・・・』と職人に叱られる現象を説明しましょう。(四分一とは桟木の事を云い厚4分×巾1寸位のものを云います。)
 
敷と下棚
下棚と上棚
 
 ○−−−○が正規の合せ目方向ですが、ひとの運動(鋸を引く動作)は、どうしても、仕易い×−−−×の方向へ動くものですから、鋸先は自然と引く力と同じ方向へ進み○−−−○と×−−−×の交互する角度のさしばが出来る事があります。之が余りに大きな場合は、数度の摺合せによる削り量では無くなりませんから、この出来て終ったさしば≒四分一に漆を塗付して、差込み張り付ける訳です。船大工さんで和船の弟子奉公をした人は、一度ならず経験をする事です。荒鋸(大)では全体が平均に密着する様に削り落し中刃(中)では、之を更に細い目で仕上げ(2度)仕上鋸(小)では極く細い目で1回の仕上げを行って摺合せを終ります。片側一面を2人で2日程を要したと記憶しますが職人では、1日位の工程であったかも知れません。摺合せは中央から首尾へと進め、戸建と舳の所は最終とします。釘で止める場合も中央辺から首尾に向けて順々に止めます。襖張りや障子張りの如く、厚い板でもや・から同時に中央に向けて固定すれば中央辺に袋が出来る訳です。そのためにも釘止の前に、中央から順次寄せつかせの締直しを行い接面を良く密着させながらの釘止となります。下棚も上棚も合せ目が常に高さが合っているかに気を配る事になります。下棚の通り前も上棚の通り前も事前にそれぞれ、先孔をツバノミで穿っておきます。上記の釘止は外面から相手側の先孔を探りながらツバノミを差し通り釘を打ち込みます。こゝで少し和船に使われる和釘を申し上げますが、内地と北海道とは釘の形がやゝ違うのではないかと思います。之等を説明致します。
 
ツバノミで探りをいれる の補記
 
 棚板の釘孔と敷の釘孔が合っているかどうかをツバノミを軽く打込んで(釘長の1/2程度)見る事を云う。
 
 和船の釘は落釘(オトシクギ)、海折釘(カイオレクギ)、通釘(トオリクギ)、鎹(カスガイ)、函金(ハコガネ)などが有ります。この内、函金は肋骨と海具を継ぐ釘で当時他の造船所では使っておりましたが、私の居た造船所は船を使用する立場から函金は弱いと云うので之をやめ、専ら、ボルトでの固着としており、鎹も、他では木製のつきりという形の鎹を使用している所も有りましたが、こちらは全て鋼製の平鎹としておりました。(使用途に依って生鉄と亜鉛メッキが有る)
 
落釘
 (矧釘、縫釘とも云う)殆んどが矧合せが多く(中には川崎船の如く角付(チャイン材)の上下の外板との接合に用う事もあり)他には屋根、水槽などにも使われました。
 
 長さは3寸〜6寸5分まであり、平鋼から鎹造で造られ、先端まで、やゝ集めである事が特徴で頭部の折り曲げの巾は厚さの2倍強・・・と少いのは、板厚の関係と、金槌で直接に打込む事は無く専ら釘締を用うるからと考えます。
 
海折釘
 材料の取付に一般の釘と同じ様に用いられ、先端部を通り釘の様に尾を返す事も有るので薄く出来てます。頭部も折曲げ部の深さも大きく、角を落して打込み易く出来ております。
 
 長さは2寸5分〜6寸5分まで平鋼より鍛造されます。







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