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 残っている和船の資料を見ますと昭和初期と思われるものと、同じく16年頃のものとは、構造に色々の違いが見られます。之は木材の入手関係、価格関係、強度上の関係などと考えられます。例えば天然曲材が少ないのでボルト接合式の肋骨になったとか、肋骨の凾金での取付は弱いから、ボルト固着にしたとかの類でしょう。洋型の曳船は規則に有るものを忠実に使用し、例えば樫の木ボルトなども使っておりましたが、和形の方は、縦通材の接手までもボルトとし全般に、ボルト(ナット締め)と亜鉛渡製品も多く使われております。漁場への搬送のための、母船でのクレーンに依る積卸しは丈夫でなければならないだろうし、現地でシケますと母船上から海中へ和形船などを突落す事が有ると聞きました。之等の積重ねで、色々と改良を加えたものか・・・と存じます。話は少し外れますがS-29年頃、函館の個人に依る函館戦争時の木造洋型帆船であった「朝陽丸」を引揚げた際(船底の一部)鋼ボトルよりむしろ、木ボトルが相当に使われていたと記憶しています。外板用の釘は眞鍮製の鋳物釘でした。当時の和釘は殆ど地元での制作でしたが、S-18年頃より関西方面から機械鍛造の和釘が入って来て、尾を返すなどが出来ず、使い勝手が悪く大工さんには不評でした。(之は現在 全て本州の釘です。)
 
 
 すぎ材 三伴船は厚1寸8分、起、胴海船は厚1寸6分と記憶します。この材料は長さ30尺以上の長材で且つ手挽で製材したものです。造船所の海岸の砂浜から海路入荷した板材は艀から海へ→砂浜へと引揚げられ、海岸の土場の木材置場で何百枚もの板材が自然乾燥されます。砂浜へ引揚げる際、この板材へ砂がささり后々の作業(特に鉋がけ)には苦労させられたものです。木挽鋸で挽いた板面は必ずしも直では無く結構凹凸が有ります。海具の矧合せ作業は運搬から始まりますが細工場までは役300m近くあり暖い時季は良いのですが冬は膝までの雪の中を1枚100kg以上の板をエッサ、〃 〃 と4人で運びますが長いのでフラリ〃 〃 です。上棚や下棚は大要の型は職人の頭の中にあり、寸法も決まっておりますので、まづ盤木の上に、両舷分が並べられます。(始めは上棚より)之に依って、どの板をどこに置くのか・・・などを決めるのです。
 
 
 上図を説明すれば、右がとなります。点線と実線は並べた時の重なりです。この上側の実線の所を、板のゆるやかな曲がりに従って直角に仕上げます。后に再び重ね、この仕上げた面を、下板に墨差しで写し仕上げます。(木裏を上にする)再び全てを組合せて、釘の位置、鎹の位置を付け、落釘のダメを彫り鍔ノミで釘孔をあけ、摺合せ作業となります。摺合せ作業はこの盤木上で平面として行い、通し鋸は荒、中、仕上の三種類を用います。盤木の上には、鋸の通り道として杉材の材木を置き、鋸で盤木を傷つけない様考慮します。この桟木は海具の挽き落し材などを使います。その為に板厚以上の巾を落す場合極力、バンドソーか、手挽で挽落し、桟木や支柱とする様心がけます。色々の材料の挽落しは利用材として一ヶ所に積まれ、他の工作物に使用出来る様にしておりました。三伴船の様に長さが70尺を越えるものは全長が1枚では、間に合いませんから巾の3〜3・5倍の継手を設けます。この摺合せは1つの棚板でも80m以上の長さとなり(三伴船では150m以上)何日もの作業となり中腰の鋸摺合せ作業は腰が痛く、なかなかツライ仕事です。その上未熟な者は、摺合せの鋸が合せ目以外の所へ反れて終う事も再三あり、やれ漆だ、何だと・・・大騒ぎも起きます。
 板取りの要領を又少し申します。板材は皆同じ曲りでは有りませんから多少の要領がいります。長さ30尺(巾は1尺〜1尺3寸位)以上になりますと中央を固定しても、端部では50m/mや60m/mは引張りますと曲りますので多少の不揃いは、この様にして修正します。海具は船材として山で伐採する際家具用材と違い根元の方から切断されてますから、板は根元の広い形となります。船は全体に反ったり、膨らんだりの曲線ですから、之を有効に利用します。
 
 合ば摺りは1週間も10日も中腰の姿勢で大変辛い仕事です。従って腰が痛いからと、立ってばかりも居られません。それで鋸を引く姿勢を色々と変える事になります。合せ目を袴いだり、右利きは左側に寄り、左利きは右へ寄ったりします。之で引き方が多少片寄る事になります。
 
 
 やはり、右利きは合せ目の左側、左利きの人は合せ目り右側が鋸を充分に引っ張る事が出来、力を入れ易いのです。釣りと同じ様に鋸の柄に伝わる感じで節が有るから曲らぬ様気を付けるとか 片方の板丈が赤身となったので曲らぬ様に・・・とかを、熟練に依って手加減が出来る様にはなります。通し鋸は比較的長い柄を用い、500cm〜600cmです。
 
摺り矢
 合せ目と鋸のアサリ関係は(隙間)を加減し、多く削る場合は少くし、少し削る時は拡げて、削りしろ代(しろ)(摺しろ代(しろ))を調整します。合せ目の隙間を固定するには、丸鋼製の鎹か、平鎹を使用します。
 







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