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1998/05/05 産経新聞朝刊
【主張】周辺事態法 「国の安全」視点に論ぜよ
 
 周辺事態措置法案が閣議決定され、法案をめぐる論議が活発になっている。論議は、(1)周辺の範囲(2)武器使用(3)協力要請(4)承認手続き(5)有事法制−などに集中しているが、こうした議論がなされる場合、一定の前提を設けると、複雑なテーマが交通整理されてくる。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直しにともなう周辺事態措置法案などを考えるときの前提、視点は「わが国の安全をどう保っていくか」、言い換えれば、最大多数の国民が安全でいるためにはどうすればいいのか、だろう。
 一部のマスコミは、ガイドラインやそれを実効あらしめるための法案が、対米協力を強める、とこの部分を強調、批判している。確かに、ガイドラインは周辺事態での日米の役割分担を明確にし、法律や協定によって対米協力を強めようとしているが、それはわが国の安全を脅かす事態が生じ、米軍がそれに対処するときにわが国が協力するのである。助けに来てくれた人たちへの協力の仕方を、法や取り決めで定めておこうというのである。
 これまでの法体系では、助けに来てくれた人への協力ができなかった。日本の安全を維持するために、米国の青年の血が流されても、周辺事態では日本は何もできなかった。その不都合を正そう、世界の常識に近づこうというのがガイドラインであり、それを支える法律、協定である。それでも対米協力は非難されるべきなのだろうか。
 この視点からガイドラインの法制を見れば、台湾海峡の紛争は周辺ではない、と周辺の範囲を明確にすることが、日本の安全につながるとは思えない。周辺事態は千差万別、事態のケースによって判断されなければならないだろう。在外邦人が危機にさらされたときに、助けに行くのは国家の義務であり、そのさい、自衛隊員や邦人が危険に陥れば、武器を使ってでも切り抜けるのはこれまた当然の行為である。
 また、自治体が国からの協力要請に「それは義務か」などと聞くのはナンセンスだろう。国家や国民がピンチに陥ろうというときに、協力を渋る自治体がどこの世界にあろうか。ただ、周辺事態の認定から基本計画作成、国会への報告に至る手続きがあいまいである。かえって敏速な反応を妨げるのではないかと心配する。
 周辺事態から日本有事へ瞬間的に変化する可能性が多分にある。ふたつは一体と見るべきで、そのためにも今回は見送られている有事法制を一刻も早く整えなければならない。でなければ、周辺事態での協力まで滞ってしまうからである。
 
 
 
 
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