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1994/12/15 産経新聞朝刊
【主張】自衛隊派遣は国益に沿って
 
 ゴラン高原への自衛隊PKO(国連平和維持活動)参加で、閣内の意見が分かれている。報道されている閣僚の反対論は「外務省は国連から要請があれば派遣が当然と考えている」「中東へ武器を売っている国が知らん顔して、日本が行くのは国民感情として納得いかない」「近代兵器を駆使する危険な地域への派遣は出口のない派遣になる」「派遣が長期になる可能性がある」などである。賛成論は「日本は中東で手が汚れていない。積極的に考えるべき」といったところだろうか。
 カンボジアPKO派遣をめぐって論議が交わされたころ、論争の焦点は、もっぱら憲法・法律論と、安全論だった。その結果、自衛隊派遣は「危険のないところ」ばかりを選択し、諸外国と違って携行武器も最小限、危険が差し迫っても発砲基準があいまい、などの問題点が露出していた。なぜ、自衛隊を派遣するのか、といった基本的な論議が不足していたからである。
 PKOのために軍隊を派遣してくる国々は、明確なポリシーの下に軍隊を動かしている。カナダは、国連からPKOの要請があれば、原則としてすべて引き受ける方針だし、カンボジアに来ていた各国は将来の権益確保が派遣の主目的だったといわれている。そうした国々の共通項は「国益のための派遣」なのである。
 なぜ「国益」が必要か。最初のころは、勢いに押されて何となく派遣論が盛り上がっても、国益を欠いた派遣はいずれ国民のコンセンサスを得られなくなるだろう。また、多少とも危険がある(危険ゼロなら自衛隊を派遣する意味が少ない)地域へ派遣される人たちの身になって考えると、国家・国民のため、という大義名分のあるなしで、気合の入りかたが違ってくる。
 わが国も、自衛隊を海外へ派遣するに当たっては、ただ「国際貢献」という曖昧な言葉だけでなく、より具体的な国益と派遣との関係を国民にまず納得させなければなるまい。
 ゴラン高原についていえば、国際的に注目される地域への派遣は、それだけ自衛隊の活動を通じて日本をアピールするチャンスであり、わが国の中東政策にも沿っているという点を重視するなら「GO」である。しかし、その場合でも、国益を根拠にするならなおさら、外務省はかくのごとく国益にマッチしていると国民に派遣理由を提示して同意を求める。また、派遣する自衛隊の任務を法的に明確にする(いまは自衛隊の本来任務ではない)方向に向かわねばならないのである。
 
 
 
 
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