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1993/02/23 産経新聞朝刊
【アングル】集団自衛権容認が先決 派遣論議に「カンボジアの教訓」を
 
 モザンビークでの国連平和維持活動(PKO)に自衛隊を派遣する論議が高まっている。だが、集団自衛権の問題やPKO自体についての概念をあいまいにしたままで、自衛隊を派遣することが適当かどうか。目先の国際協力を強調するあまり、根本的な問題をないがしろにしたのでは、国家百年の計を危うくする結果になりかねない。
 周知のように、わが国は自衛隊を派遣しているものの、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)軍事部門の司令部に正式の幕僚を一人も出していない。幕僚を出せば(1)他国の軍隊の運用にも関与することになり、集団安全保障は認められていないとする憲法解釈に触れる恐れがある(2)平和維持隊(PKF)やこれに類する業務への凍結を決めている政府の方針に反する可能性がある−というのが、その理由だ。
 同じ理由から、わが国は国連本部のPKO局にも自衛官を一人も派遣していない。同局はPKOに関する編成、装備、運用のすべてを決める機関であり、派遣先の司令部もその指揮下にある。したがって、ここに人を出していないと、まず国連がどういう部隊を派遣し、何をやろうとしているのかといった基本的情報すら容易につかめないし、自国の立場を主張することもできない。
 国連活動といっても究極のところは各国の利益のせめぎ合いだから、「金も出します。人も出します。しかし、口は出しません」などという国があれば、他の国にとっては“もっけの幸い”ということになるが、当事国にしてみれば“生殺与奪の権”を全面的に他人に握られてしまうに等しいのだから、こんな不安な話はない。
 自分で勝手に思い込んでいるほど各国は日本の国内事情などに配慮してくれないから、肝心な相談から逃げてばかりいたのでは、無責任極まりないという批判を招くことにもなる。
 PKOに自衛隊を派遣するなら、まず集団自衛権が合憲であることを国としてはっきり認めることが大前提だ。その上で、必要な場所に人を配置する態勢を取って初めて自国の権益を守ることができるのであり、またそれをしなければ、国際貢献どころかかえって逆効果にすらなりかねない。
 PKOはやるが、PKFにはかかわらないなどという理屈も日本国内以外では通用しない。この二つを画然と区別することなど到底できないからだ。現に、カンボジアに派遣されている施設部隊は各国工兵部隊と同様、司令部工兵課の指揮下に入っているし、司令部側には自衛隊を特別扱いする意向は全くない。
 モザンビークでは輸送統制の業務をやってほしいとの要望が国連からきているというが、それを引き受ければ必然的に武器・弾薬の輸送や、各国歩兵部隊への補給にたずさわることになる。
 国連がPKOに自衛隊の参加を求めてくるケースは、これから間違いなく増えるだろう。それに積極的にこたえていくことを、わが国は今後の安全保障政策の柱の一つにすべきだが、その前に明確にしておかなければならない根本的課題があるのである。
(牛場昭彦編集委員)
 
 
 
 
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