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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/09/13 産経新聞朝刊
【オピニオンアップ】岡芳輝(論説委員)PKO派遣成功の条件は
 
 わが国のPKO(国連平和維持活動)は、派遣される施設部隊がきょう十三日に、兵庫県の陸上自衛隊伊丹駐屯地で部隊編成完結式を行い、いよいよ派遣に踏み出す。カンボジアへ向かう部隊は、最大時の総勢が一千八百三人もの大きな組織になるが、期待される役目を果たし、全員が無事帰国してもらいたい。
 不順な気候、外来者には過酷な衛生状態、最近までタマが飛び交った紛争地という緊張感、激しい作業・・・うんざりするようなこうした環境のなかで、活動を成功させるのは、一に健康、二に支援、三、四がなくて五に大和魂、とでもいおうか。
 こんなところで、古めかしい大和魂を引っ張り出すのは、精神論を強調しようというのではない。むしろその逆、大掛かりな組織的活動では、精神力だけでなんとかなる部分は少ない、というたとえである。まっとうな士気は、十分な支援があってこそ生まれる。健康とさまざまな形の支援態勢が、わが国はじめてのPKO派遣のかぎを握っているのだと思う。
腹減って戦はできぬ
 その支援は二種類に分けられる。(1)手段的サポート(2)情緒的サポート、である。(1)と(2)は密接につながっているが、(1)の手段的サポートとはモノ、つまり「食う寝るところに住むところ」である。食うものがないのに、ただ働けといっても馬力は出ないが、食事のほうはまず心配ないだろう。
 寝るところ、住むところは天幕である。年に一、二度、キャンプ場でテントを張って、野外生活を楽しむ分には気分転換になるだろう。だが、そんな生活を半年間続けたらどうなるか。それでなくても蒸し暑い毎日、天幕のなかはエアコンがきいているわけではない。ふつうの人なら十日かそこらでへばってしまう。
 自衛隊なんだから頑張れるだろう、などと考えるのは無責任である。自衛官だってスーパーマンではない。生活条件が劣悪だと参ってしまう。人間イライラして作業の効率が落ちるのは序の口、悪性のストレスや激しい労働が続くと、免疫力が低下して、病気にかかりやすくなる。内地の演習場で訓練が長引いただけで、歯痛やカゼの隊員が増えるという。慣れないカンボジアだと、ストレスの強さも跳ね上がることだろう。
実情知らない“評論家”
 そこで、ストレスを解消し、精神的安定を図る情緒的サポートが必要になってくる。自衛隊は、宿営地のなかにプレハブの厚生センターを設け、ここにゲーム機やテレビ、自動販売機を置き、簡単なバーやアスレチック・ジムを開くことも計画している。所属部隊の駐屯地とそう違わない設備で、隊員のリフレッシュを図ろうというのである。
 ところが、厚生センターなど設けて、カンボジアに小さな「日本」をつくろうとすれば、外国の部隊や現地の人々との間であつれきを生むかもしれない、と心配する軍事ジャーナリストがいた。この人は、疲れて帰った自衛官は、そのまま寝てしまうのがいちばん、というのか。あるいはまた、ほかの国の隊員と同じように、夜の町へ繰り出せと勧めるのだろうか。
 カンボジアPKOには、荒廃したカンボジアに一日もはやく平和で豊かな生活が戻るように、お手伝いする、という明確な目的がある。その目的を達成するためには、実動部隊がもっとも働きやすい環境を整えて、部隊の力を引き出さなければならない。厚生センターはそのひとつの方法論なのである。なにが大事かを考え、実動部隊の実情を理解してやるのは、過酷な任務をかれらに託したわれわれの務めでもあるだろう。
首相に励ましてほしい
 国民性の違いで、情緒的サポートのやりかたはさまざまである。米軍は湾岸戦争中に、酷暑にあぶられながら、隊員にバレーボールをやらせていた。また、チャプレン(従軍牧師)が隊員の悩み事を聞いてくれた。今回のカンボジアPKOでいえば、ドイツはカウンセラーとして精神科の医師を伴っているという。厚生センターは、日本流のストレス解消手段なのである。
 そして、何よりも隊員を励まし、士気をたかめる情緒的サポートは、隊員に対する期待感なのである。人は、キミだけが頼りなんだといわれると、ファイトがわき起こる。ペルシャ湾の機雷掃海、雲仙岳、九州の風倒木処理などでの自衛隊の活躍をみれば、国民の期待とかれらの活躍との因果関係は明らかだろう。
 その意味では、自衛隊の最高指揮官である宮沢首相は、伊丹駐屯地での部隊編成完結式に駆けつけて、隊員を激励してほしかった。首相自身は、首相官邸で行われた自衛隊、警察幹部ら百人の激励式に出席したからいいとお考えのようだが、最高指揮官に直接励ましてほしいのは、現地でブルドーザーを操り、架橋にハンマーをふるう一般隊員だったからである。
 隊員には、自分たちがカンボジア復興に力を貸すことによって、国際社会で日本が責任を果たしているのだという高い誇りを持ってもらいたい。そして、一方では国民が、自分たちの代わりに、自衛官が物情いまだ安定しない紛争直後のカンボジアへ赴いてくれるのだ、という感謝の気持ちを失わないでもらいたいのである。
 
 
 
 
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