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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002年5月号 Voice
有事法制より安保基本法を
緊急事態に対処する基本的な枠組みづくりが先決だ
森本 敏(もりもと さとし)(拓殖大学教授)
なぜ、いまごろ有事法制か
 まず最初に、いまごろになってどうして有事法制の話が出てきたのかということについて考えてみたい。
 先月、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」に出演したとき、司会の田原総一朗さんから、「冷戦期にソ連が攻めてくるかもしれないといっていたときには有事法制が必要だったかもしれないが、冷戦が終わってそのおそれがなくなってから、どうしていまごろ有事法制なのか」という質問を受けた。
 たしかに冷戦が終焉して日本が直接、武力攻撃を受けるおそれは減った。したがって、いまごろ、なぜ有事法制問題かという疑問は良い質問である。
 他方、冷戦後の秩序構築が進まないなかで、地域紛争が各地で頻発し、難民・不法移民、人権侵害、民族的迫害やテロが発生し、伝染病や麻薬、国際犯罪が広がり、大量破壊兵器が拡散するなどの問題が顕著になっている。
 国際社会はこうした諸問題を解決しようとして国際的枠組みや統治機構をつくり、国際協力を進めてきた。しかし、そのなかでこうした枠組みが欠落していたのがテロヘの取り組みであったことは、昨年九月に発生した同時多発テロ事件ではっきりした。規範や枠組み、体制が整備されていないと、このような事態が発生しても対応が遅れ、これを処置する法的根拠もないという問題が起こるのである。
 これは国内社会でも同じことで、国家にとって脅威やリスク・危険は国家の内外から及ぶものであり、国家としてはその本来の機能を維持するために一貫した統治機構のもとで活動を行なう必要がある。本来はそのために憲法に国家の基本機能と対応の基準が規定されていなければならない。
 しかるに日本国憲法には、この点に関する規定がいっさい欠如しており、このことがわが国で国家の危機管理体制と法体系の整備を遅らせてきた根本原因の一つでもある。
 したがって、この問題を解決する手段とは、国家としてあらゆる緊急事態に対応するための国家体制と、統治機構について基本的事項を定める国家としての危機管理のための法体系を整備しておくことにほかならない。
 先進国のほとんどは、かかる法体系を整備しているか、あるいは憲法上に非常事態における権限と立法措置が明記されている。これは国家としての基本的な統治機能であり、また義務でもある。
 有事法制問題はそもそも、栗栖元統幕議長の超法規発言を契機に一九七七年(昭和五十二年)から進められてきた有事法制研究から始まった問題である。それ以来、防衛庁を中心にこの研究は、第一分類(防衛庁所管の法令)、第二分類(防衛庁以外の各省庁所管の法令)、第三分類(いずれの省庁の所管か未定の法令)に分類されて行なわれてきた。そのうち結果がまとまったものについては、すでに報告が行なわれている。
 しかし、この分類は有事法制研究の主管官庁であった防衛庁が、法令の主管という観点から研究上の便宜のために分類したにすぎず、有事の実態や対応に即して分類されたものではない。「第一分類」とか「第二分類」とかいわれても、国民には何のことか分からず理解に苦しみ混乱するだけである。
 そこで、わが国が有事に直面した場合に、国家として必要な法制を主体別に分類してみたい。
 第一の分野は「自衛隊が行動する場合に、これを円滑化させるための法制」であって、これがいままで第一分類、第二分類、第三分類として研究されてきた内容の法整備である。このすべてが有事に自衛隊が活動することに係わる法体系である。
 第二の分野は「日本の有事に際して米軍が日米安保条約に基づき行動する場合に、これを円滑化させるための法制」であり、これは「米軍がわが国の領域内で自由かつ円滑に活動することを確保するとともに、国民の権利、自由をいかにして確保し、調和させるかという点を念頭においた法体系」である。
 軍隊とは本来、任務遂行のためにはいかなる行動をもとることが許される。許されない行動と内容は国際法によって禁止されている。すなわち、軍隊は国際法に基づく規定以外のすべての行動について法的自由を有しているのである。
 そこで有事の場合に、日本に駐留する米軍が自由な行動をとり、それによって被害を受けるかもしれない国民の権利・義務関係をどのように国内法のなかで調和させ、あるいは保護する一方で米軍に適用除外を認めるかという問題がこの法令の内容である。
 さらに、この分野の法整備は、わが国が有事の際、日米防衛協力を行なうに必要な法体系、すなわち有事防衛協力ガイドラインと有事ACSA(有事における物品役務相互融通協定)を含むものである。これには周辺事態法の日本有事版となる国内法令と、日米関係で締結される協力協定、および協定の実施を確保するに必要な国内法令が含まれ、これができるとガイドライン関係法が完結することになる。その多くは、日米間における施設・区域、財産・土地、資産・資源の融通や広範な後方支援の内容になるであろう。
 第三の分野は、「これらのいずれでもないが、主として国民の安全を確保することに係わる法制」であり、これも広範多岐にわたる内容が含まれる。
 とくに国内治安、出入国管理、医療・衛生・救難・救助、避難・民間防衛、資産・貿易・金融の管理・統制、資源・食料の統制など、国民の生活・安全のための活動全体が含まれており、既存の法体系の修正で扱えるもの以外は個別法の体系を整備せざるをえないであろう。とりわけ、有事に国民の安全を確保するためには民間防衛と補償措置が整備される必要がある。
 以上の分類はあくまで活動する主体を中心に法体制を分類した場合であるが、有事に際して、国家として行なう基本的な機能に立脚して法体系を整備するという考え方もある。これはたとえば、民間防衛、運輸・交通、国土建設、経済・金融活動、通信・郵政・情報、食料・エネルギー、治安などの分野に分けて、国家活動のすべてを法体系にするやり方である。しかし、そのためには国家としての基本事項を規定した基本法がなければならず、個別法だけでは十分対処できない。
有事法制か、安全保障基本法か
 今次国会において有事法制を審議し成立させることは政府にとって基本的な責務であり、いままで有事法制なくして過ごしてきたこと自体が怠慢である。
 他方、この審議を通じて、(1)有事法制第一分類、第二分類は有事法制のごく一部にすぎず、有事法制の全体像が見えないではないか、(2)しかも政府が起案した「武力攻撃事態対処法案」では、有事に国家・政府や国民がいかなる基本的な権限と責任を有するかについては不明確ではないか、(3)現在、法整備が急がれるのは「有事」だけでなく、テロ、災害、不審船などを含めた広義の「緊急事態」に対応する法制ではないのか、という問題が出てくるであろう。
 いうまでもなく、冷戦終焉以来、国際社会における安全保障環境はいっそう不透明になり、国内を見ても、火山噴火や大規模地震などの自然災害、地下鉄サリン事件や北朝鮮によるミサイル発射や不審船侵入事件、あるいは不法入国者など外国人による犯罪など、国民の多くが周りに不安を感じている。有事というより、こうした各種の緊急事態に対応する包括的な法体系が整備されるべきだという認識は共有されつつある。
 それでは日本は従来、どのように国家の内外に起こる問題に対応してきたかを振り返ってみよう。
 一九九一年の湾岸戦争では、湾岸地域にエネルギーのほとんどを依存していた日本としては多国籍軍に参加するなどの実質的貢献をすべきであったが、憲法上の制約を乗り越えることができず、結局一一〇億ドルという資金援助を行なって切り抜けた。しかし、その資金援助もほとんど評価されず、わが国としてはなんとか実質的な国際貢献をしたいと思い、一九九二年にPKO法を成立させ、このPKO法に基づき初めて自衛隊をカンボジアに派遣した。
 以来、わが国はこのような国際社会における事案や国内における緊急事態に対応するため、憲法上の枠組みのなかで自衛隊を活用するための法的整備につとめ、事態が発生するたびに、そのつど既存法体系の一部改正と新規立法の整備を積み重ねてきた。国際緊急援助隊派遣法、国際平和維持活動協力法、周辺事態法、船舶検査法、テロ対策特別措置法などがそれである。
 しかし、このような法体系の積み上げ方式はもはや限界に来ている。今日の紛争や事態は単一の様相では終始せず、複雑な様相に対して複合された国家の対応が要求される。派遣された指揮官も、事態によって法体系と手続きが異なるのでは効率的に対応することは困難である。すなわち、このような問題を解決することが今日の急務となってきたのである。
 二〇〇一年に発生した米国の同時多発テロ事件や北朝鮮の不審船侵入事件は、こうした積み上げ式の法整備ではもはややっていけないことを証明するかたちになった。
 いずれにしても、緊急事態に対応する国家としての基本事項が憲法のなかに規定されていないことは憲法の欠陥である。したがって、このような法制を整備する際に、国家として有事や緊急事態をどのように定義し、また宣言するかということが問題になる。
 さらに、宣言したときの内閣総理大臣の責任や権限をどうするのか、地方公共団体の長や国以外の者との権利義務関係をどのように規定するか、ということを考えると、結局のところ国家としての基本的な安全保障体制を法的に整備することが先決である。
 有事法制と安全保障基本法の違いは、有事法制が主として国家内において有事に対応すべき法体系を規定するものだとすれば、安全保障基本法は平時、緊急時、有事のすべてにわたり国家の安全保障に係わる基本的な機能や役割の基準を示すものだということにある。すなわち安全保障基本法は、安全保障についてのガイドライン法である。
 国家の安全保障の基本機能は抑止、対応、予防にあり、この機能を果たすために、手段としては防衛力、同盟関係、国際協力という三つの側面からなる政策が総合的に機能する必要がある。したがって、安全保障基本法は国家の防衛力のあり方のみならず、緊急事態に際して行なうべき国連など国際機関への参加・協力や、同盟国である米国との協力活動についても基本的なあり方を示すものでなければならない。
 このように安全保障基本法は、国家の安全保障に係わる基本的事項を規定することによって、憲法と既存の個別法との中間に位置して双方の間隙を埋めるものとなるであろう。
 国家とは国家の緊急事態に対する対応のあり方を憲法や国内法のなかで整備しておくべき義務を有しており、米国、フランス、ドイツをはじめとする先進国では、こうした緊急事態に対応する憲法上の規定もしくは包括法が整備されている。国家として緊急事態に対応するための包括法を整備しておくことは憲法の趣旨を具現するものであり、また国民の安全を確保するために不可欠である。
 有事法制を整備することは国家の責務であるが、この法整備を円滑に行なうためにも、まず安全保障基本法の整備が急がれるのであり、結局これは日本が戦後半世紀のなかで初めて直面する安全保障面での改革にほかならない。
私の安全保障基本法試案
 それでは、安全保障基本法なるものはいかなるものか。いままでこの法律の内容を誰も示すことなく、各人が勝手な憶測で議論を進めることは適当でないのでモデルを示すこととしたい。
 要するに、この法制はまず国の安全保障の定義を明確にして、そのうえで国および内閣総理大臣の責務と権限を明示する。さらに、安全保障について目的および基本方針を示して、国と国民が一貫した方針のもとに活動ができるようにするため、内閣総理大臣に緊急事態を宣言できる権限を与え、事態に応じた責任・権限と国民の権利・自由の基準を明示するものである。
 基本法のなかで最も重要な部分は、国連の諸活動に参加・協力の途を開き、その是非・程度・内容・期間・規模などについて内閣総理大臣が基本計画を作成し、事前に国会の承認を得て行なうとともに、同盟国に対する支援・協力についても上記の基準を準用することにある。したがって、これにより集団的自衛権問題に解答を出すことになる。
 こうした問題を考慮してみた場合、基本法とは以下のようなかたちになるであろう。
 第一条【法律の目的】この法律は国の安全保障に関する国の責務、内閣総理大臣の責任と権限、国民の権利義務など、安全保障の基本的なあり方や方針を明らかにすることにより、国として一貫した方針のもとに統合された活動を行ない、もって国の独立・主権・領域や国民の権利・自由・生命・財産などの安全を確保することを目的とする。
 第二条【用語の定義】この法律に使用される用語の定義を以下のとおりとする。
 1 安全保障:安全保障とは国の主権・独立・繁栄および領域、ならびに国民の生命・財産・権利・自由などを含むあらゆる国益を守るため、国としての政治、外交、防衛、経済、産業、科学・技術など国力を総合的に発揮させて目的を達成すること、あるいはそのための機能・役割および活動を総称したものをいう。
 2 国益:国益とは国の政治、外交、防衛、経済などあらゆる面から捉えた総合的な利益を総称したものであり、一般的に国益は国の目的や目標から導かれる。国の政策方針とは国益を効率的に追求するための指針と要領を示したものである。
 3 有事と緊急事態:イ 緊急事態:緊急事態とは国が他から受ける攻撃や妨害・被害や、大規模な自然災害、環境破壊、伝染病蔓延、テロ、犯罪、騒擾(そうじょう)・動乱などにより国益がいちじるしく損なわれ、あるいは、そのおそれがあるため国として緊急に対応措置をとる必要があるような事態をいう。
 ロ 有事:有事とは緊急事態のなかで国が他から武力攻撃や威嚇を受け、あるいはそのおそれが高いため国として緊急に対応措置をとり、個別的自衛権を発動する必要があるような事態をいう。
 第三条【国の責務】国の安全保障は国としての基本的かつ最も重要な機能であり、責務の一つである。内閣総理大臣は国の安全保障について平時および有事を含む緊急時の各々における基本的な方針と要領を明示し、国の安全を危うくするあらゆる脅威や危険を排除して国益を守る責任を有する。国は内閣総理大臣のもとに国の機能と諸活動が一貫性のある方針に基づき有機的に統合されていなければならない。
 第四条【安全保障の目的と基本方針】1 安全保障の目的は、国の基本的な構成要素である国の主権、独立、自由、安全、繁栄と領域(領土、領海および領空)、ならびに国民の生命・財産などを、これを阻害あるいは妨害しようとする内外の脅威・危険から守ることによって国益を最も効果的に追求することを目的とする。
 2 安全保障の基本方針は、国として守るべき対象に対する内外の脅威・危険を未然に防止し、あるいは抑止し、これが顕在化した場合には阻止・排除して、もってその目的を効率的に達成することにある。そのために、内閣総理大臣は情報機能を強化し、諸外国との外交関係を緊密にして国をできるかぎり良好な安全保障環境におくことに努める。内閣総理大臣はまた、同盟国との安全保障体制の信頼性を強化し、効率的な防衛力整備をすすめることにより、抑止と対応に必要な体制を確立することにつとめる。
 第五条【内閣総理大臣の責任と権限】1 内閣総理大臣は内閣を代表して国の安全保障に関する最高の指揮監督の責任と権限を有する。
 2 内閣総理大臣は国の安全保障に関する最終的な責任を国会に対して負う。
 3 内閣総理大臣は内閣を代表して国会に対し国の安全保障に関する基本方針と要領を示すとともに、その実施について定期的に報告を行なう。
 4 内閣総理大臣は国の安全保障に関する基本方針に基づき国際社会や関係諸国と緊密に協議し、協力することに努めるものとする。
 第六条【緊急事態の認定と宣言】1 内閣総理大臣は安全保障会議を経て国の緊急事態を宣言することができる。宣言を取り消す場合も同様である。緊急事態は地域、期間、対象などを限定して宣言することもできる。
 2 各緊急事態が宣言された場合の対処方針はこの法律によるほか、細部については別に法令で定めるところによる。
 3 内閣総理大臣は国の緊急事態を宣言した場合は、事後速やかに国会に報告を行なうとともに宣言後一〇日以内に、緊急事態の宣言について国会の承認を得なければならない。内閣総理大臣は、国の緊急事態宣言について国会の承認が得られなかった場合には、ただちに宣言の取り消しを行なわなければならない。
 第七条 国家の緊急事態および対応の方針を以下のとおりとする。
 1 緊急事態1(有事):国の安全保障上、最も重大な事態であり、国家が武力攻撃を受け個別的自衛権を発動しなければならないような事態。内閣総理大臣は政府機関のすべての機能を直接統括し、国の諸活動を指揮監督する。地方公共団体の長および国以外の者は、定めるところに従い内閣総理大臣の指揮監督に従う。
 2 緊急事態2(重大緊急事態):国家の周辺に紛争等が発生し、わが国が安全保障上深刻な影響を受けるような事態、国内における大規模な動乱、騒擾等により治安出動が発令される事態、あるいはわが国が武力攻撃や大規模なテロ攻撃などを受けるおそれがあるため所要の準備態勢をとる必要がある事態。内閣総理大臣は、定めるところにより各大臣に権限と任務を委任するが、必要に応じ各大臣の権限、機能を直接統括する。地方公共団体の長および国以外の者は、定めに従い、内閣総理大臣および各大臣の統制に従う。
 3 緊急事態3(その他の緊急事態):大規模な自然災害、テロ、犯罪、不法侵入などが発生し、国家として活動を抑制する必要がある事態。内閣総理大臣は特定の大臣に事態に対応するため全般的な統制の権限を付与する。国以外の者は政府の要請に基づいて必要な協力に応じることができる。
 第八条【地方公共団体および国民の協力と支援】1 地方公共団体:内閣総理大臣は各事態に応じて国の活動に関し、地方公共団体の長を統制し、あるいは必要な協力と支援を求めることができる。
 2 内閣総理大臣は各事態に応じて国の活動に関し、国以外の者の権利・自由を必要最小限度に限って規制あるいは抑制し、また必要な協力と支援を要請することができる。
 3 地方公共団体および国以外の者が内閣総理大臣から依頼された協力と支援に応じて国の活動に従事する場合の身分保障および損害補償については十分配慮される。細部については法律の定めるところによる。
 第九条【国際機関等への参加・協力】1 わが国は国連安保理決議に基づき国際の平和と安定のために行なわれる諸活動に関し国連事務総長の要請がある場合、必要に応じてこれらの諸活動に参加し、協力することができる。参加・協力の内容、規模、期間など必要な事項については内閣総理大臣が基本計画を策定し、安全保障会議を経て国会の承認を得なければならない。
 2 ただし、そのいとまがない場合、内閣総理大臣がこれらの活動に自衛隊を派遣することができるが、その場合は自衛隊を領域外に派遣したあと二週間以内に基本計画について国会の承認を得なければならない。国会がこれを承認しない場合には自衛隊は速やかに活動を停止し、撤退しなければならない。
 第十条【同盟国への協力と支援】1 わが国は国家の安全保障を確保するため米国との安全保障体制の信頼性を向上することにつとめ、日米安保条約および同条約に基づく法律の定めるところに従い、米国への協力・支援を行なう。緊急事態が宣言されている場合に、わが国が領域外において米国に対して行なう協力・支援については、内閣総理大臣が基本計画を策定し、安全保障会議を経て国会の承認を得なければならない。
 2 ただし、そのいとまがない場合、内閣総理大臣が基本計画に基づき自衛隊を領域外に派遣することができるが、その場合には自衛隊を領域外に派遣したのち、二週間以内に基本計画について国会の承認を得なければならない。国会がこれを承認しない場合には自衛隊は速やかに活動を停止し、撤退しなければならない。
 第十一条【関連法規の整備】1 内閣総理大臣は、国家の安全保障体制を確立するため国内法および国内体制を整備する。とくに情報機能と科学技術分野における向上につとめるとともに、効率的で即応性と対応力の優れた防衛力を整備する。
 2 内閣総理大臣は民間防衛の措置を講じ、必要に応じてそのための国民教育を行なうものとする。
 3 内閣総理大臣は、この法律を施行するために必要な予算措置と罰則規定に関する法律を別に定めるものとする。
 第十二条【文民統制】1 国の安全保障に係わる責任、権限および指揮監督はすべて法律の定めるところに従う。内閣総理大臣は自衛隊に対する最高の指揮監督権を効果的に行使するほか、国の安全保障についてすべての活動を統括することができる。
 2 自衛隊のあらゆる活動は文民統制の原則に従う。ただし、部隊活動の細部については権限を委任した指揮官に責任と権限を委譲する。
 3 内閣総理大臣は緊急事態に応じて国会に対し、法律案を提出し、できるだけ速やかに法律を成立するよう国会に要請することができる。
 第十三条【憲法との関係】憲法で認められた個人の自由、権利はできうるかぎり尊重されなければならない。緊急事態に際し、国の安全保障と公共の福祉のため個人の自由、権利の一部が制約される場合にも、同様である。国民は緊急事態に際しては法律の定めるところに従い、内閣総理大臣の指揮監督に従わなければならない。
有事より緊急事態を優先せよ
 今次国会で有事法制が議論され、その一部が成立することは、日本にとって悪いことではない。国民への教育効果も大いに期待される。しかし、国家として有事に際した法制を整備するなら、最も基本的な枠組みをつくることが先決である。その際、日本の安全保障にとって、従来憲法の枠内でしか捉えることのできなかった旧弊を取り除くことが最重要課題である。
 与党の一部には、安全保障基本法は集団的自衛権問題に発展するおそれがあるので適当ではないという観点から消極論が強いが、それはおかしい議論である。基本法は集団的自衛権問題を解決するためにつくるのではなく、国家として安全保障にどのように取り組むかという基本事項を設定するためのものである。
 有事法制第一分類・第二分類は有事法制全体のごく一部でしかなく、有事法制という法制の全体像を示しつつ、今後に向けた法整備のモメンタムを失墜しないようにしなければならない。
 さらには、有事法制を整備しても国民の関心である緊急事態の法制は整備されないままになるおそれがあり、有事法制より緊急事態のほうを優先させるべきなのは明らかである。
 そこで、各種の緊急事態に国家として対応する場合の基本的あり方を法制にして整備する必要が生じるが、基本法はいくつも整備できない。したがって、基本法を一つ選択するとすれば、それは緊急事態を含むあらゆる事態に対して国家の対応に関する方針、すなわち国家としての安全保障に関する基本事項を定める安全保障基本法でなければならない。
 もちろん、基本法の内容については注意して選択する必要があり、憲法に代わるような「第二憲法」をつくってはならず、また既存の基本法、たとえば災害対策基本法のようなものとの整合性がとれたものでなければならない。
 以上の諸点に鑑みれば、前項に記述した試案のように、安全保障基本法を平時から有事にいたるあらゆる緊急事態に対応できる基本理念と法整備の枠組みと方向を示したものとして位置づけ、さらにこの基本法に基づいて有事法制が段階的に整備されることが望ましい。
 いずれにしても日本が近代国家としてあらゆる国家の危機に対応できる体制を整備することは不可欠であり、その法整備の作業は真に国益にかなったものでなければならないのである。
◇森本敏(もりもと さとし)
1941年生まれ。
防衛大学校卒業。
外務省・安全保障政策室長、野村総合研究所主任研究員を経て、現在、拓殖大学教授。
 
 
 
 
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