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2001/09/19 読売新聞朝刊
自衛隊後方支援へ日米調整開始 新規立法を米も期待(解説)
◆「湾岸」の轍、踏まぬよう
 日米両政府は同時多発テロ事件に対する米国の報復攻撃をめぐり、自衛隊による米軍や多国籍軍への後方支援の実施へ向けて調整を開始した。
(ワシントン支局 柴田岳)
 日本政府が米軍に対する自衛隊の後方支援について、新規立法を前提に、燃料や物資の補給・輸送業務と医療業務を中心に実施することにしたのはほかでもない。報復攻撃が長期化し、米国世論が日本の貢献姿勢に目を向ける前に、日本が主体的に支援策を打ち出しておかなければ、同盟関係の信頼が損なわれるとの危機感からだ。
 アーミテージ米国務副長官は先週、柳井俊二駐米大使に、自衛隊による後方支援を日本が自主的に決断することが望ましいとの考えを伝えてきた。「日の丸を見せてくれ」というアーミテージ氏の言葉には、米政府の政策責任者として、具体的な支援の効用もさることながら、日本の貢献を目に見える形で示してほしいとの期待が込められている。
 日本政府も、現在、大森敬治内閣官房副長官補を中心に新規立法の検討作業に着手しており、二十七日に召集される臨時国会に向け、与党三党などの調整の行方が焦点となっている。
 自衛隊の後方支援は、戦闘地域から離れて武力行使と一体化しない範囲なら可能だが、法的根拠は、九九年施行の周辺事態法しかない。しかし、アフガニスタン周辺が想定される今回の報復攻撃に、同法を適用するのは困難との見方が政府・与党内の大勢で、新規立法が求められている。
 それを前提に検討されている後方支援の内容は、インド洋の米軍補給拠点であるディエゴ・ガルシア基地に自衛隊の大型輸送艦や警護の護衛艦、哨戒機P3Cを派遣。輸送艦がアラビア海に展開する米空母部隊(艦載機を含む)に対し、燃料や食糧、生活必需品などの物資補給・輸送を行う。「武器・弾薬」の補給・輸送は武力行使との一体化につながるために行わない方向だ。また、自衛隊医官を中心とした医療チームを戦闘地域から離れた米軍や多国籍軍の拠点に派遣し、将兵の治療や精神的ケアに当たることも検討されている。
 一九九〇―九一年の湾岸危機・戦争の際にも、米国から自衛隊の輸送機や輸送艦の派遣要請があった。自衛隊による後方支援を可能にする国連平和協力法案が審議されたが、野党の反対などで廃案になり、日本政府は自衛隊抜きで物資、輸送、医療、資金面の協力を検討した。物資協力は、米軍の要望リストを基に、四輪駆動車など総額八億ドル近くの物資を提供したが、輸送協力のための民間船舶の確保は難航し、空路は米国の航空会社に頼んだ。医師や看護婦の派遣も実現しなかった。
 在米日本政府高官は十七日、「オーストラリアが多国籍軍参加の可能性に言及し、中国でさえテロ根絶に向けて米国との連携姿勢を示している。(日本の対応が出遅れた)湾岸戦争の轍(てつ)を踏んではならない。テロ根絶は日本の自衛でもある」と強調し、新規立法に期待を示した。
 米政府高官と接触している外務・防衛当局者らはこう説明している。「サンフランシスコで日米同盟五十年を祝った直後に米国がテロ攻撃を受けた。米国は日本がどう行動するかをじっと見ている」
 
 
 
 
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