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1996/04/16 読売新聞朝刊
[社説]安保協力は新しい段階に入った
 
 自衛隊と米軍との協力や役割分担のあり方を定める「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直し作業を開始することが合意された。国際情勢の変化に対応した適切な協力を、幅広い観点から共同研究しようというものだ。
 平時の共同訓練や国連平和維持活動(PKO)などで、自衛隊と米軍が燃料や武器部品を融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」も調印された。
 「ガイドライン」見直しやACSA締結は、ともに「日米安保の再確認」を補強する具体策だ。
 沖縄・普天間飛行場などの返還とともに合意された「緊急時に米軍が民間空港や自衛隊基地など日本側施設を利用できるようにするための共同研究」への着手と合わせて、日米首脳会談で発表される「安保共同宣言」に盛り込まれる。
 日米の安保協力を一段と緊密化させると同時に、日米関係重視の姿勢を内外に示すものとして歓迎したい。
 「ガイドライン」は、わが国が攻撃を受ける「日本有事」の場合や、周辺地域での紛争で日本の安全にも影響を及ぼす「極東有事」の事態などについて共同作戦を研究するために、七八年に設けられた。
 ところが、「日本有事」に関する研究は進んでいるものの、「極東有事」の方はほとんど進展を見せていないのが現状だ。朝鮮半島で万一の事態が発生した際の日米間の具体的な協力方法すら、公式には話し合われていない。
 五五年体制下の安保論議が、憲法との関係から集団的自衛権の問題を意図的に避けてきた経緯が背景にあるからだ。野党の反発を恐れて、この問題に消極姿勢を続けてきた歴代政権の責任も重い。
 今回の見直しは従来、主として朝鮮半島での紛争を念頭に置いていた「極東有事」研究に、アジア・太平洋を視野に入れた内容も加えようというものだ。この地域の平和のために日米安保の果たすべき役割を考えれば、うなずける方向だ。
 「ガイドライン」が有事の際を想定しているのに対し、ACSAは「平時」における防衛協力の柱と言える。
 八八年の日米安保事務レベル協議で米側が提案して以来の懸案だが、先送りが続いたのは、ここでも日本側が集団的自衛権の論議に絡むのを嫌ったからだ。
 適用対象は、食料、宿舎、燃料、輸送、衣服、通信、医療など十五項目にのぼる。これまで基地の提供に限られていた対米軍支援を、後方支援にまで拡大した点が特徴だ。日米は同盟関係にあるのだから、本来ならもっと早く締結すべきだった。
 日米安保条約の精神は、米軍が日本と極東を守る義務を負い、日本は自らを守りながら米軍を支援することにある。
 その意味でも、こうした安保協力は、今後とも充実を図って行くべきだ。それが冷戦後のわが国やアジア・太平洋地域の安全と繁栄だけでなく、世界の平和と安定にも日米両国が手を携えて積極的に貢献していこうというメッセージにもなる。
 
 
 
 
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