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1991/04/26 読売新聞朝刊
[社説]不可解な野党の掃海艇論議
 
 自衛隊の掃海艇が二十六日、ペルシャ湾へ向け出航する。小艦艇での長い航海を経て困難な作業に携わることになる。無事に任務を果たすよう祈りたい。
 掃海艇の派遣には社会、公明、共産の各党が反対した。理由は党により異なるが、社会党が、自衛隊違憲という党の基本政策に触れないで、「現行自衛隊法による派遣には反対」との言い方をしているのは、まことに不可解である。
 自衛隊法を改正したうえでの派遣なら賛成するのだろうか。それならば自ら法改正案を提示すべきだが、社会党にそれができるのか極めて疑問だ。
 確かに社会党内には、右派を中心に、特別立法や自衛隊法改正で将来の「派兵」に歯止めをかけたうえで、今回の掃海艇派遣は容認しようという動きがあった。だが、自衛隊そのものを「違憲」としたままで、自衛隊法の改正を論じるというのは、明らかに自己矛盾である。
 右派の中には、条件付きにせよ「派遣容認」に踏み切ることにより、自衛隊合憲論への転換の足掛かりにしたいという思惑もあったのかもしれないが、やはり手順が逆というべきだろう。
 こうした右派の動きを見て、左派は「自衛隊違憲という党の基本政策との矛盾が説明できない」として、いかなる形の海外派遣も認められないと反発した。
 自衛隊違憲論に立つ限りでは、その方が論理的に整合性があるといえるが、社会党が、わが国が国際的責任としてやるべきことも議論の入り口から拒否する、という姿勢を続ける限り、いつまでたっても政権を獲得するに足る国民多数の支持は得られないだろう。
 その意味では、自衛隊違憲論を固守する左派の論理は万年野党主義そのものだ。
 社会党内では、統一地方選の大敗を受けて、党再建論議が巻き起こっている。論議の目的は、「政権を担える党」への脱皮にあるはずだ。一時しのぎの柔軟対応ポーズではなく、抜本的な政策転換が必要だ。
 一方、自衛隊合憲の立場の公明党の派遣反対論もわかりにくい。つづめて言えば、もっと時間をかけて議論せよ、ということのようだ。だが、肝心なことは、公明党自身が派遣を必要なことと考えるかどうか、ということである。
 公明党執行部は、湾岸支援のための九十億ドル支出に関しては、法案を通すため、党内の反対論を説得するだけの指導力をみせたが、今回の派遣論議については、執行部がそうした熱意を込めて党内とりまとめに動いたようには見えない。
 法案なら、成否のキャスチングボートをにぎっている立場として、責任を問われるが、今回は政府の決断だけで実施できる問題なので、安心して反対したという面はなかったか。
 時間不足をいうにしても、きちんとした方向性を打ち出してから議論を呼び掛けるのが政党としての責任だろう。
 今後に備えて、早急に党内論議を煮詰めることを望みたい。
 
 
 
 
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