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1990/10/17 読売新聞朝刊
[社説]平和協力法案の国会論議で集団的自衛権のカベも見直せ
 
 国連平和協力法案が国会に提出され、審議がスタートした。
 この法案の目的は「わが国が、国連を中心とした国際平和のための努力に、積極的に寄与すること」とされている。
 法案作成の過程では、自衛隊の参加問題などをめぐって、政府・自民党内の調整が難航したが、できあがった法案内容について政府は「現行憲法の枠内で、武力行使をしない」点を強調している。
 これまで、わが国は、要員を海外に派遣して、国際平和のために“汗を流す”協力を実行するうえでは、法整備を欠いていた。その点で、国連平和協力法案は、一歩前進とは言えるだろう。
 しかし、この法案によって、いま国際平和に果たさなければならない日本の役割が十分に実行されることになるのか、という点になると大きな疑問が残る。
 この法案作成にあたっては、イラクの暴挙で生じた湾岸危機をはじめ、今後の地域紛争に対し、日本は、国連との関係を踏まえてどう対応すべきか、という中、長期的テーマが検討課題だったはずだ。
 私たちは、「冷戦後」という憲法が想定していなかった新たな国際情勢の下で、湾岸の石油に死活的に依存する日本としては、憲法の制約によってできないことを列挙するような後ろ向きの姿勢を捨て、国際新秩序形成に向けて、進んで責任を分担するという積極的発想によって、新たな進路を切り開くべきだと主張してきた。
 そのためには、「集団的自衛権の行使は違憲」とする憲法解釈を何らかの形で見直すことは不可避である。
 同法案で定められた平和協力隊の業務の中には、輸送、通信、医療などが含まれている。これらの業務を通じ、いま湾岸地域に配備されている多国籍軍に協力する場合、その態様によっては、集団的自衛権の行使につながる恐れがある、というのがこれまでの政府見解だ。
 これでは、「積極的な寄与」をうたっても、実際の行動は、極めて限定的なものとなってしまう。砂漠の中で汗を流す多国籍軍兵士にとって、日本は依然“平和の傍観者”としか映るまい。
 政府は、この法案が「憲法の枠内」であることを強調するあまりか、新時代が求める新しい憲法解釈を打ち出す姿勢をみせないのはおかしい。
 海部首相は、集団的自衛権の行使と、国連憲章の「集団安全保障措置」とは別の概念だとして、同憲章に基づく国連軍が設置された場合、自衛隊参加に道を開く考えを明らかにしている。法的に正しい措置であり、私たちの主張にも合致する。
 正規の国連軍でなくても、国連決議に支持される多国籍軍への対応については、やはり集団的自衛権のカベを見直すことが必要だ。そのような多国籍軍への支援に限定して、集団的自衛権行使を認めるか、集団的自衛権とは別次元の行動だという判断を新たに打ち出してもよいのではないか。
 政府は、この点での憲法論議を避けるべきではない。
 
 
 
 
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