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2003/06/30 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2003]イラク特措法案 復興より「対米支援」
◇国民向け援助、明示できず
 陸上自衛隊は首都バグダッドを拠点に米軍などに給水・給油し、航空自衛隊は周辺国からイラク国内に兵員と物資を空輸する――。イラク復興特別措置法案で、これまで政府が具体的な説明を避けてきた自衛隊の派遣地域や活動内容が、国会審議などを通じて、少しずつ見えてきた。イラク住民への復興支援より米軍支援を優先した内容といえ、法案への賛否を決めていない民主党は「復興ニーズを明確に示せ」と批判を強めている。7月4日の衆院通過を目指す政府・与党と民主党の駆け引きは週明け以降、さらに激しくなりそうだ。
【上野央絵、宮下正己】
◇首都で「貢献」強調−−自衛隊活動
 「(自衛隊派遣が)米軍支援のためではなく、イラク国民にとって必要だという明確な説明がない。これでは正当性が(あるとは)言えない」。民主党の岡田克也幹事長は29日のNHK討論番組で政府の姿勢を批判し、復興ニーズの提示が法案修正協議に応じる前提になるとの考えを示した。
 政府は25日に帰国した与党イラク調査団の報告を受け、(1)兵員と物資の空輸(2)水の補給――を「想定される業務のイメージ」として衆院イラク復興特別委員会に提示している。「人道復興支援としても米軍などに対する支援としても、実施可能」と説明するが、これは、「酷暑の中、20万人を超える多国籍軍への水の配給は1人1日3リットル」と「米軍ニーズ」の現状を伝えた調査団の報告がもとになっており、イラク国民の需要は明らかでない。
 人道復興支援では、韓国軍が行っているような病院や学校などの施設復旧、医療活動が考えられるが、政府は現地のニーズや治安状況を見ながら今後、検討する構え。支援物資の陸上輸送も、フセイン政権の残存勢力から攻撃を受ける危険があるため当面は避け、部隊移動の必要がない定点での補給活動に限定する。治安が回復すれば任務を拡大していくというが、現時点では米軍を中心とした多国籍軍への後方支援ばかりが目立っている。
 具体的に検討されているのは、米軍の警備が手厚いバグダッド国際空港に補給基地を設置する案だ。近くのチグリス川から水を引き、陸自の浄水装置で飲用水に浄化して米軍などに配給し、車両用燃料の提供も考えている。ちらつくのは、復興の中心地バグダッドを拠点に、「少ないリスクで目に見える貢献」ができるという計算だ。
 このほか、空自は7月初旬にも、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき、C130輸送機2〜3機を派遣し、イタリア―ヨルダン間で食料など人道支援物資の空輸を行う。法案成立後は、イラク国内と周辺国の間で多国籍軍の兵員や物資をピストン輸送する。陸自の部隊を輸送するため、海自の「おおすみ型」輸送艦と護衛艦も派遣。陸海空合わせた派遣人員は、1000人規模になる見込みだ。
◇「戦闘」解釈あいまい−−派遣地域
 法案で自衛隊の活動地域としている「非戦闘地域」に関する政府答弁も、バグダッド派遣の結論が先行したつじつま合わせの印象が強い。
 「米軍がフセイン政権残存勢力の掃討作戦を行っている地域」
 石破茂防衛庁長官は27日の衆院特別委で、自衛隊が活動できない「戦闘地域」の具体例を初めて示した。外務省によると、現在、米軍が掃討作戦を展開しているのは、バグダッド北方のバクーバとフセイン元大統領の故郷ティクリートを結ぶ地域。この定義ならバグダッドは除外される。
 しかし、イラク国内では米英軍への攻撃が連日のように起きており、6月に入ってからの米英兵の死者は、政府がこれまで比較的、治安状況がよいとしてきたバグダッド市内や近郊、南部のバスラなどに集中している。これらの攻撃を「戦闘」と解釈すると、「戦闘地域」が限りなく広がる。
 石破長官は委員会審議初日の25日、「(フセイン政権の与党)バース党の残党が攻撃してきたとすれば、戦闘行為との評価を受けることは当然あり得る」と答弁したが、26日には、攻撃が戦闘に当たるかどうかは「組織性、指揮命令系統で判断することになる」と軌道修正した。ラムズフェルド米国防長官は、米軍への攻撃について「軍事的に組織化された抵抗ではない」との見解を示しており、組織性がなければ「夜盗、山賊のたぐい」(石破長官)とみなすというわけだ。
 イラクの治安状況を「主要な戦闘は終わったが、混乱が残っている」と説明した小泉純一郎首相の答弁も、攻撃を単なる「混乱」と限定的に位置づけたものだ。ここにも、攻撃の多発するバグダッドに自衛隊を派遣できなくなる事態を避ける狙いが見て取れる。
 
 
 
 
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