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2000/05/09 毎日新聞朝刊
[ニュースキー2000]次期防策定 冷戦後、役割見えず
◇“働く自衛隊”目指し奔走
 東京・六本木から新宿区市谷本村町の新庁舎へ、大がかりな引っ越しを8日終えた防衛庁。当面最大の課題は、2001年度から5年間を対象とする次の中期防衛力整備計画(次期防)の策定作業だ。多様化する脅威への対処が国際社会共通の課題となる中、次期防では「サイバー戦争」やゲリラ、テロへの対策も焦点となる。自衛隊の前身である警察予備隊発足から数えて今年で50年。国民の自衛隊アレルギーは薄らいだとみる現場には「張り子の虎(とら)から実際に働ける自衛隊へ」(統合幕僚会議幹部)と期待感も高まる。節目を迎えた防衛庁・自衛隊はこれから何を目指すのか。
【中村篤志】
●米国との協議重視
 防衛庁は9日、庁内に次期防策定に向けた幹部による検討会を正式に設置、作業を本格化させる。
 佐藤謙事務次官は8日の会見で「(日米両国が)お互いにどういう問題意識をもって安全保障問題に取り組むのか、日米間で協議するのは有意義ではないか」と強調。ある幹部は「日米協議は最近、米軍厚木基地のダイオキシンなど後向きの問題に追われてきた。今後は中長期的な視点で進めたい」と話した。
 ただ、日米協力で焦点となる戦域ミサイル防衛(TMD)は、前提となる米本土ミサイル防衛(NMD)にロシア、中国が強く反発。共同研究を進める日本側にとって、次期防でTMDをどう位置付けるかは、対中関係へのはね返りもあって難しい問題となる。
 また、防衛庁が導入を強く求めてきた空中給油機については、昨年12月の安全保障会議で「次期防で速やかに整備を行う」とされており、いつ何機を導入するか具体的に詰める。
●対ゲリラ、テロ研究
 米国では、湾岸戦争を契機に「RMA(軍事技術革命)」が進行している。次期防でも、コンピューターによる作戦情報の共有化など指揮通信機能強化を進める一方、システム全体の防御体制を強化。外部からコンピューターに侵入して指揮通信機能を混乱させる「サイバー戦争」の研究にも取り組み、新たな部隊編成を検討する。
 昨年3月の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の不審船事件後、防衛庁は平時でも自衛隊が出動して治安維持にあたる「領域警備」の研究を始めた。これに加えて、次期防では武装ゲリラに対処する部隊や、ゲリラやテロで使われる可能性のある生物兵器対策の専任部隊を陸上自衛隊に新設することを検討する。
 さらに、医療関係者や細菌学研究者などによる生物兵器対処懇談会(仮称)も近く設置される。
●カギ握る財政状況
 国の財政状況悪化は、かつて聖域と言われた防衛費にも厳しく見直しを迫っている。現行中期防は当初は総額25兆1500億円と見積もられたが、財政構造改革に伴い、1997年12月に正面装備などを中心に9200億円を削減。次期防では少なくとも現行中期防並みの予算規模を確保したい防衛庁だが、財政再建が急がれる中で、思惑通りに進むかどうかは不透明だ。
 また、例年なら政府の安全保障会議(議長・森喜朗首相)による協議が6月から始まるが、今年は総選挙とかち合うと見込まれるため、庁内には作業の遅れに懸念も聞かれる。
 1日からシンガポール、ベトナムを訪問した瓦力長官は、自衛隊の海外派遣で使うことを想定した中型輸送機導入など、次期防に向け積極発言を繰り返した。次期防策定作業では、冷戦後の自衛隊の役割を納税者である国民に十分説明し、理解を得ることが欠かせない課題となりそうだ。
◇中期防
 防衛計画大綱を達成するため、自衛隊の装備や部隊編成、所要経費などを具体的に示した政府の5カ年計画。中曽根内閣時代の1985年から現在のような政府計画となり、今回の策定作業は4回目。86〜90年度はシーレーン(海上交通路)防衛の一環として洋上防空能力向上を目指し、91〜95年度は低空侵入対処のため空中警戒管制機(AWACS)を導入。現行中期防(96〜2000年度)は「防衛力の質的向上」などを掲げた。
■これまでの中期防策定年と期間中の主な出来事■
(1)1985(86〜90年度)
 当初見積もり総額18兆4000億円
▽防衛費の国民総生産(GNP)比1%枠撤廃(87年)
▽天安門事件(89年)
▽ベルリンの壁崩壊(89年)
(2)1990(91〜95年度)
 同22兆7500億円
▽湾岸戦争(91年)
▽ソ連邦消滅(91年)
▽国連平和維持活動(PKO)協力法成立(92年)
▽阪神大震災、地下鉄サリン事件(95年)
(3)1995(96〜2000年度)
 同25兆1500億円
▽日米が米軍普天間飛行場返還合意(96年)
▽戦域ミサイル防衛(TMD)構想の日米共同技術研究着手決定(98年)
▽日米防衛指針(ガイドライン)関連法成立(99年)
▽インド、パキスタンが地下核実験(99年)
 
 
 
 
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