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1999/03/23 毎日新聞朝刊
[社説]空中給油機 いま必要だとは思えない
 
 防衛庁の野呂田芳成長官や江間清二事務次官らが最近、国会答弁や講演などで空中給油機を導入したいと発言している。
 空中給油機とは、飛行中の戦闘機や空中警戒管制機(AWACS)などに上空で燃料を補給する飛行機のことを指す。機内に燃料タンクを備え、「プローブ」あるいは「フライングブーム」と呼ばれる給油装置を伸ばして給油する。
 しかし、どうだろう。いま本当に必要なのだろうか。
 空中給油機を持つということは、航空戦用の要撃戦闘機であるF15や対地攻撃用の支援戦闘機F2の飛行距離を大幅に伸ばすことを意味する。距離の面だけを見れば、周辺国の基地を攻撃することが可能になる。
 日本の防衛構想は、専守防衛を基本にしている。にもかかわらず、いま空中給油機の導入を打ち出せば、周辺諸国は「日本は専守防衛の枠から踏み出すつもりではないか」と、反発や警戒感を強めるだろう。どんな角度から見ても、いま導入する必要性はないと考える。
 空中給油機能を持つかどうかについては、1960年代後半から何度も国会で議論されてきた。
 とくにF4戦闘機の導入に際して野党は「F4には対地攻撃機能と空中給油装置がついている。これは他国に侵略的、攻撃的脅威を与えるものだ」と批判した。
 この時は、防衛庁が空中給油装置を地上給油用に改修したうえ、対地攻撃機能もつけない、と釈明して落着した。その後、F15が導入されたが、この時は大きな問題にはならず、F15は空中給油機能をつけたまま配備された。しかし、空中給油機の方は導入されずに現在に至っている。
 防衛庁がここにきて空中給油機の導入に積極的なのは、自衛隊の装備調達計画である中期防衛力整備計画(中期防)と関係している。
 現在の中期防(96〜2000年度)では、空中給油機について性能や運用など空中給油機能に関する検討を行い、結論を得て対処する、となっている。これを受け、防衛庁としては次期中期防(2001〜05年度)での本格的導入に向け道筋をつけたいと考えているわけだ。
 導入理由について防衛庁は、防空能力が高まるだけでなく、戦闘機の訓練時にも有効だからだと主張している。
 防空能力に関しては、敵機が攻め込んで来る場合、戦闘機が空中で〓戒・待機する空中警戒体制(CAP)を取っておけば、迎撃効果が上がる。空中給油機があれば、戦闘機の滞空時間が長くなり、十分なCAPがとれる――と説明している。
 とはいえ、旧ソ連の崩壊後、日本本土を直接攻撃する国は周辺には見当たらない。CAP自体、本当に必要なのだろうか。
 導入論には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核・ミサイル開発問題や日米防衛指針(ガイドライン)関連法案と絡んでキナ臭さが漂う。現に自民党などからは相手基地攻撃も可能といった勇ましい意見が出ている。
 しかし、この問題は慎重の上にも慎重を期した方がいい。装備・軍事技術面を優先するのではなく、導入した場合の政治的、外交的なマイナス作用の方を重視すべきだ、と考えるからだ。
 
 
 
 
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