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1998/04/29 毎日新聞朝刊
[その時どうなる]日米防衛新指針/1 周辺事態 「実質的判定は米」
◇日本政府、定義もあいまい
 新たな日米防衛指針(ガイドライン)に伴う関連法案が閣議決定され、国会に提出された。成立すれば日本周辺で武力紛争が起き、米軍が対処する際、日本は官民で後方支援することになる。実際に自衛隊はどんな関与をし、どう関連法が発動されるのか。自衛隊の装備と動きを想定しながら、問題点を探った。
 機体上部に「円盤」を背負った2機の空中警戒管制機(AWACS、エイワックス)E767が今年3月、航空自衛隊浜松基地に配備された。航空機と艦船の情報を解析し、味方戦闘機を管制する「空中指揮所」だ。高高度を飛行すれば、朝鮮半島や中国大陸の沿岸部も視野に入り、収集した情報は随時米軍に提供される。他国の無線交信状況をもチェックでき、コンピューターのオペレーターら計20人が乗り組む。今年度中にはさらに2機が配備される予定だ。
 日本周辺で“異変”が起きた場合、こうした最新鋭装備での情報収集活動と並行する形で、日米間協議が始まる。関連法の発動の条件とされる「周辺事態」の認定には、日米双方で収集する情報が判断材料となる。もっとも重要なものが米軍の偵察衛星の情報。だが、航空機などの航跡情報については、偵察衛星よりE767の方が正確だとされる。
 しかし「正確な情報」を基にした「周辺事態」の認定の仕方そのものは、あいまいに映る。
 防衛庁によると「何らかの事態」を受けて日米の局長クラスによる防衛協力小委員会(SDC)などで情報を交換する。首相が議長を務める安全保障会議で「日本の平和と安全に重要な影響を与えているかどうか」を判断し、閣議で基本計画を決める。国会には報告義務があるだけだ。
 周辺事態の認定について、橋本龍太郎首相は「日本が主体的に判断する」と言う。しかし、制服幹部の一人は「事態に対処するのは米軍。その米国が『対処』が必要だと判断したら、それで決まり」とまで言い切る。
 国会には事後報告だけという規定について、与党の一角を占める社民党からも異論が出ている。政府だけですべてを決めることになってしまうからだ。
 また、具体的にどのような状態を、対処が必要な「周辺事態」と認定するかも不明確だ。軍事評論家の前田哲男・東京国際大学教授は「周辺とはどこをさすのか、事態とは何か、最も重要な部分が定義されていない」と批判する。
 「周辺」について政府は「地理的概念ではない」という統一見解を繰り返すが、柳井俊二外務次官が「極東と同じ概念」と口を滑らせるなど、あいまいさがあることは否定できない。=つづく
(この連載は衛藤親、人羅格が担当します)
 
 
 
 
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