日本財団 図書館


1995/04/02 毎日新聞朝刊
[社説]情報公開 防衛秘密は多すぎないか
 
 開かれた行政、国民の「知る権利」を確保するための情報公開条例を独自に制定した自治体は全国で、すでに二百五十団体を超えている。
 地方にせっつかれる形で、これまで腰の重かった国も「行政改革委員会」の行政情報公開部会での審議を三月中旬にようやくスタートさせた。
 情報公開制度で、大きな壁になりそうなのは防衛や外交上の秘密をどこまで公開するかという点だ。その防衛秘密と情報公開の在り方との関係を考えるうえで重要な意味を持った行政訴訟の判決が三月二十八日、那覇地裁で出された。
 訴訟の対象になったのは、P3C対潜哨戒機に対する戦術支援や指揮管制を主要任務とした海上自衛隊那覇基地内の対潜水艦戦作戦センター(ASWOC)である。
 自衛隊は現在、那覇を含め全国五カ所にASWOCを持ち、日本の周辺海域を行動する極東ロシア軍などの潜水艦をP3Cで捜索し、その艦名や動向などを調べている。
 那覇防衛施設局は一九八八年、建築基準法に基づいて、同センターの建築工事計画通知書を那覇市に提出した。これに対して同市民らが、市の情報公開条例に基づいて建築計画通知書などの公開を請求。市はこれに応じ、八九年九月、全資料四十四点の公開を決定した。
 国はその後、このうち二十三点の公開は「やむを得ない」と認めたものの、主に電子機器などを置いてある地下部分の資料二十一点については「ASWOCはシーレーン(海上交通路)防衛のための中枢基地であり、公開されると国防や警備上、重大な支障が生じる」などと主張、決定の取り消しなどを要求して争ってきた。
 裁判では、国が市に対して行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟を起こすことは可能かなどのほか、情報公開条例で防衛秘密をどこまで公開できるのかが最大の争点になった。
 判決は、抗告訴訟についての国側の主張を門前払いにしたうえで、二十一点についても「秘密として保護に値する内容ではない」と公開を求めた。知る権利を優先させ、防衛上の秘密といえどもすべてが聖域ではないとの判断を示したわけだ。
 防衛上の秘密には「防衛秘密」と「庁秘」の二種類があるが、合計すると件数で十四万件、書類点数で百八十万点もある(九三年時点)という。それぞれ十一万件、百二十三万点だった十年前と比べると、かなりの増え方である。防衛庁の訓令だけを根拠に恣意的(しいてき)に水ぶくれさせているとの批判もある。
 確かに防衛上の秘密の中には、公開されれば国民の生命、身体、財産を害し、防衛の目的を失うことが明らかなものもあるだろう。だから、一概にすべてを公開すればいいというものではない。
 防衛庁も、かつては秘密だったが、今はそうではなくなったものは公開しているというが、それだけで十分かどうか。防衛政策に不可欠なのは国民的合意であり、可能な限り防衛情報を開示することによって国民の理解を高める努力が必要だ。
 社会状況や周辺の軍事情勢の変化に合わせて、本当に秘密にしなければならない情報と、そうでない情報を明確に区別した、国民に分かる形の基準を作っていくべきではないだろうか。今回の那覇地裁判決はそのことを迫っている。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION