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1994/12/20 毎日新聞朝刊
[社説]防衛費 大綱見直しで軍縮を進めよ
 
 来年度防衛予算は、前年度比〇・八五五%の伸び率で決着した。
 概算要求(シーリング)時の〇・九%だけでなく、連立与党防衛調整会議での合意ラインであった〇・八七%をも下回った。正面装備の新規契約額も、今年度より六・五%減に抑制されることになった。
 冷戦が終わり、先進各国は率先して軍縮を進めている。日本の周辺情勢も大きく変化した。旧ソ連の崩壊と、それに伴う旧極東ソ連軍の大幅な戦力ダウンはだれが見ても明らかだ。今回の防衛費抑制は当然の措置であり、ほんのわずかだが、軍縮に向けてステップを踏み出したと位置づけられよう。
 今回、連立与党内の調整では、シーリング程度の伸び率は確保すべきだとする自民党・防衛庁などと、村山政権発足の意義を示すために、さらに圧縮すべきだとする社会党が対立した。
 社会党内には、自社さ連立政権に首相を出し、自衛隊合憲まで踏み切ったのに、これまでは自民党に譲歩するばかりで独自色を出し得ていないという不満が渦巻いていた。不発に終わったとはいえ、「新民主連合」の離党騒ぎも、こうした不満が背景にあったとされる。
 村山富市首相が十八日の同党全国都道府県代表者会議で「可能な限り防衛費は減額してもらう。正面装備は五、六%削り込んで軍縮への足掛かりをつけたい」と述べたのも、防衛費圧縮で、党内の求心力を復元したいとの思いがあったのだろう。
 とはいえ、残念なことだが、今回の決着を手放しで評価することはできない。
 というのも、軍縮に向けての中長期的で、明確な将来ビジョンが現在、政府・与党内にあるわけではなく、結局はコンマ以下の数字をどうするかの駆け引きに終始した面は否定できないからだ。
 ポスト冷戦時代の自衛隊像はどうあるべきか、具体的な装備購入はどうするのか、日米安保を含む日本の安全保障体制をどう考えるのかなどの方向、方針はいまになっても何も示されていない。
 その一端が現れたのが次期多用途支援機(UX)の選定問題である。政府は結局、米国製ジェット機二機を購入することにした。
 しかし、ここまで迷走したのは、選定過程に不明朗なところがあるとのクレームがついたほか、今後の防衛力整備の在り方に関連し、これほど高価な大型ビジネスジェット機が必要なのかという疑問が根強くあったからだ。
 現在の防衛力整備は、一九七六年に策定された「防衛計画の大綱」と、それを受けた中期防衛力整備五カ年計画に基づいて進められている。
 細川政権時代に、「大綱」はポスト冷戦時代にそぐわないとして見直しが叫ばれ、そのために首相の諮問機関として「防衛問題懇談会」が発足、同懇談会は今年夏、一応の答申を村山首相に提出している。
 来年は中期防の最終年度であり、次をどうするかが課題になる。その意味では、もうあまり時間はない。首相は防衛庁内の検討を急がせ、早期に大綱見直しを完結させ、ポスト冷戦時代に対応できる新しい安保・防衛政策を確立すべきだ。
 それと並行して、ロシアなど周辺各国と安全保障のための信頼譲成措置を高める努力を忘れてはならない。そうすることが軍縮への足取りを、より確実なものにすることができると考えるからだ。
 
 
 
 
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