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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/06/27 毎日新聞朝刊
[記者の目]自衛隊の3つの悩み 「海外派遣」に追い風だが
 
 今、自衛隊は転換期を迎え、そして戸惑っている。社会党が「容認論」を打ち出し、湾岸戦争を契機に国民世論は「自衛隊よ海外に出ろ」といわんばかりに変化した。一方、東西冷戦の終結で軍縮は避けて通れなくなった。また、きつい仕事を敬遠しがちな若者にとって自衛隊員はこれまで以上に魅力のない職業になりつつある。自衛隊の在り方について国民的な議論を巻き起こす時期に来ているのは確かだが、その議論の材料として防衛庁・自衛隊が今、何を考え、悩んでいるのか三つの視点から報告してみたい。
<小菅洋人・政治部>
◇法律論キチンと
 「日本の世論は何かきっかけがあると、一つの方向に音を立てて突き進むね。歓迎すべきことでもあるが、戦前を思い出すと怖くなる」。これは自衛隊の某幹部が各種世論調査で自衛隊の海外派遣容認論が急増している点について、漏らした感想だ。
 毎日新聞の世論調査では自衛隊の国連平和維持活動(PKO)参加について、八三年調査では反対が七〇%だったが、今年六月調査ではわずか一三%。昨秋の国連平和協力法審議の際に議論になった身分問題も、今回調査では現職隊員の参加容認が四一%に達し、「休職・出向」一四%、「退職自衛官、予備自衛官」七%を大きく上回った。湾岸戦争を契機にした世論の急変に、派遣される側は戸惑っている。
 さらに、この調査に意を強くしてか、政府内では国連平和維持軍本体へ参加する案が固まり、カンボジア和平後のPKOに千人の部隊を参加させるという意見も出ている。これに対して防衛庁・自衛隊内では慎重論が強い。むしろ災害に限った海外派遣または、PKOでも小人数の停戦監視に限るべきだという意見が支配的だ。
 それは軍事のプロとして平和維持軍が危険性を伴い、さらに後方支援といっても危険性の面では変わりはないことを熟知しているからだ。国民の中に「自衛隊は組織の権威を高めるためにどこでも行きたがっている」という思い込みがあるのなら、明らかに間違いだ。
 戦後発足した自衛隊は「専守防衛」思想をたたき込まれ、他国と一度も武器を戦わせたことのない平時の集団だ。PKOに参加して仮に攻撃を受けた場合に応戦は可能なのか、その範囲はどこまでかという運用の問題は自衛隊自身訓練されていない。もし挑発にのって武力行使に巻き込まれたら、これまで野党や世論にたたかれながらも苦労して獲得してきた自衛隊に対する「認知」が、一夜にして崩れはしないかという不安もある。
 自衛隊の名誉のために言えば、最高指揮官である首相が「行け」と言えばどこまでも行く「士気」はあり、その慎重論は「怖いから」ではない。憲法上、法律上、きちんとクリアした形で、国民の熱い期待の下で任務につきたいという思いが強いのだ。
 だから、問題は国民の側に法律改正をして武装集団を海外に出すだけの覚悟があるのか、だろう。その点に派遣される側の懐疑がある。
◇差し入れドッと
 陸上自衛隊には雲仙の救援活動に対し各地からかつてない激励が寄せられている。また現場の本部にも一般市民からの差し入れが殺到しているという。一方、ペルシャ湾では掃海部隊が厳しい環境下で危険な作業を行っており、毎日新聞の世論調査でも六一%がその派遣を支持。災害救援に限った海外派遣なら社会党でさえ反対しない状況だ。
 総理府の世論調査(今年一―二月実施)によれば自衛隊が今後力を入れるべき点として三九・二%が「災害派遣」を挙げ、「国の安全確保」の三三・三%を上回った。国の安全確保は十年前の調査より一二・一ポイントも下がっている。
 数字の上から見れば東西冷戦の終結後、国民は自衛隊に身の回りに事故や災害が起こった時にいつでも助けに来てくれるサンダーバード(ひと昔前の人気テレビ映画)の役割を期待している。これに対し幹部たちは「災害派遣などはあくまで余技であり、主任務は国防だ」と繰り返し発言し予防線を張っている。
 ただ「地域社会でも警察、消防並みの社会的評価がほしい」(幹部)は自衛隊の悲願であり、そのためには国民に役立つ自衛隊をアピールする必要がある。主任務を規定した自衛隊法三条に災害派遣や国際貢献を明記した場合、災害復旧などに応じた装備の充実、部隊編成さらに隊員の教育体系の見直しなどさまざまな問題が出てくる。
 その分、国防任務は軽減すべきだという意見も出てくるだろう。自衛隊にとって「身も心もサンダーバードになるのか」は、まだまだふっ切れないテーマなのだ。
◇独自募集は限界
 今一番頭が痛いことは?の質問に幹部たちは異口同音に「募集問題」と答える。日本一の“リクルート集団”と言われる全国に五十ある地方連絡部の職員が、中学、高校卒業予定者に「食費はかからないし、資格もとれる。戦争なんか起きっこない」と声をかけ、保険外交員並みの粘りで隊員募集をしてきた。
 それでもこの好景気に若者は容易に首をたてに振らなくなった。幹部養成の防衛大でさえ今年度卒業者四百九十四人のうち、実に九十四人が自衛隊員になることを拒んだ。
 今年度の定員に対する隊員充足率は陸八四・五%、海と空が九四・五%と一〇〇%には遠く及ばない。特に自衛隊が深刻に受け止めているのが総理府の世論調査。「身近な人が自衛隊に入る場合の賛否」を聞いたところ賛成は二九・四%とここ二十年間で最低の数字だった。池田防衛庁長官は「災害派遣などで自衛隊の仕事の厳しさが分かったのだろう」と分析しているが、災害派遣や国際貢献をアピールすればするほど「危険を伴わない、教育訓練機関」という自衛隊の最大のセールスポイントが薄れる。
 「まず国が重い腰をあげてくれないと……」(幹部)。自衛隊独自の募集は限界に近づいている。
◇選択、国民にあるが
 自衛隊も他の官庁と同様、国民のために存在するものだから、その在り方は国民が決めるのが当然だ。自衛隊論議で「自衛隊の都合」を優先させることがあってはならないだろう。しかし以上に書いたような自衛隊内部の声を無視した論議が、不毛な論議に終わるのも事実だと思う。
 
◇「記者の目を読んで」にご投稿を。住所、氏名、職業、年齢を明記して、〒100―51東京都千代田区一ツ橋一の一の一、毎日新聞社記者の目担当へ。
 
 
 
 
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