日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2004/03/21 朝日新聞朝刊
広がる舞台、重い任務 幹部教育の最前線を見る 自衛隊50年
 
 イラク、東ティモール、ゴラン高原、そしてインド洋――。活動の舞台が地球規模で広がりつつある中、24万人の自衛隊の各種部隊を指揮する幹部自衛官たちは今、どのように教えられ、育てられているのか。日頃、外部の目に触れることのない陸、海、空それぞれの教育の現場に入った。
◇海 徹底指導の伝統脈々 「艦船は一蓮托生、ミス命取り」
 海上自衛隊の幹部を養成する幹部候補生学校(広島県江田島町)。最長1年の教育課程の締めくくりとして日本近海での練習航海が行われる。今年2月、防大と一般大卒の幹部候補生175人を乗せた海自練習艦隊の4隻のうち旗艦「かしま」に同乗した。練習艦隊を指揮する杉本正彦司令官(52)は、航海の意義をこう語った。「陸の動物を海の動物にする。その入り口です」
 秒速15メートルの風が雪を吹きつける。先を行く全長115メートルの海上自衛隊の練習艦「あきぐも」が、日本海の波に舞う。
 「『あきぐも』のあと(航跡)」「ヨーソロー(了解)」
 この訓練「蛇行運動」では、揺れる艦橋に候補生約20人が集まり、交代で羅針盤をにらみつつ針路を指示した。「一呼吸遅いっ」。指導官がつきっきりだ。周りの候補生にも「他人の操艦を見てイメージトレーニングしろ」と声が飛ぶ。
●厳しい視線
 多くの学生が指導の様子を見つめているが、こまめにメモを取る姿もあれば、立ったまま柱にもたれて眠る姿も。訓練を終えた末弘俊輔候補生(24)は「自分で判断する訓練で面白い。夜中の当直で眠いですが」。艦橋の隅にいる指導官の視線は厳しい。「もうだいぶ差がついています」
 広島・江田島を出港し、22日目。沖縄を含む西日本海域を回る。6時起床、22時消灯、夜は交代で当直につく。射撃や洋上補給からおぼれた人の救助まで、日中は訓練がぎっちり詰まり、その予習復習もある。
 練習航海では、共同生活から実戦の操艦時の意思疎通まで、運命共同体と言える艦内での動作の基礎をたたきこむ。卒業直後の3月下旬から東日本での練習航海、さらに9月まで5カ月間の遠洋航海が待っている。
 将来は操艦を担う幹部候補生たちだが、長期の航海訓練は初めて。まず苦しむのは船酔いだ。
 昼の防火訓練後の「研究会」には、「かしま」乗艦の82人中3人が欠席した。火災状況を艦橋に伝える伝令役を務めた高月聡司候補生(23)は、「酔い止めは普段は船に慣れようと飲みません。でも訓練で責任者の時は飲みます」と話す。
 高月候補生は熊本県出身、東京都立大卒。民間企業への就職を考えていたが、地元の自衛隊地方連絡部の海上自衛官が両親に、幹部候補生学校の受験を熱心に勧めた。「公務員試験の勉強はしなかったけど、受かったんで。自分を鍛える意味もありました」
●見本を示す
 「研究会」では、「かしま」のナンバー2、関川秀樹副長(41)の叱責(しっせき)が響いた。「寝ている者がいた。恥と思え。部下の前で絶対やるな」。他の指導官からも厳しい言葉が続く。「指導を受けて『わかってます』と言う者がいる。わかってないと思うから言うんだ」「メモを取れ」「学習能力がないと人間はダメだ」・・・
 関川副長は「ほかの世界で大学卒業後にこんなに教育する組織はないと思う」。教育に時間をかけるのは、「艦船は一蓮托生(いちれんたくしょう)。バルブ一つ間違えばエンジンが止まり、船が動けず、武器が使えなくなる」。
 「人の育て方」として関川副長は、こう語った。「『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』。自分で見本をみせて、やらせて、ちゃんと評価しないと人は育たない」。旧海軍の連合艦隊司令長官、山本五十六の言葉だ。旧海軍の伝統は教育の場で脈々と生きているようだ。
●領海を実感
 練習航海では、幹部候補生らに「領海を実感させる」(杉本司令官)という仕掛けも盛り込んである。
 1月下旬、沖縄に向かう艦隊は、東シナ海の日中中間線から尖閣諸島を回る航路をとった。艦内では、この海域での領土や資源をめぐる日中関係の現状が講義された。
 「ただの海だけど、日中中間線のあたりではみんな甲板に出て見ました」と、防大卒の中津郁雄候補生(23)。高校時代、防大進学に友人らは「戦争屋になるのか」と反対したが、「平和、平和と言っているだけじゃ平和はこない」と考えた。
 沖縄入港の時は、イラク自衛隊派遣に反対するデモとぶつかった。中津候補生は「自衛隊が、自分から行く行くと言ってるわけじゃないのに」と、釈然としない思いでデモを見つめた。
 練習艦隊の幹部は言った。「幹部候補生たちが、一つの現実を見る機会です」
(藤田直央)
○鬼 常に緊迫感、礼儀教え込む 江田島・候補生学校の2教官
 午前6時半、起床ラッパが冬の暗い朝に響く。広島・江田島の海自幹部候補生学校。ここに「赤鬼」「青鬼」がいた。
 そう呼ばれるのは、幹部候補生たちに対し、厳しい生活指導する2人の教官。「鬼」という通称は、この学校での長年の伝統だ。大卒の幹部候補生らとそう年は変わらないが、階級の差は圧倒的な上下関係を生む。
 授業では「統率」を担当して敬礼動作などを教え、生活面では食事の時の姿勢など「はしの上げ下ろし」まで注意する。問題のある候補生は自室に呼び出し、反省の様子がなければ大声で威圧する。
 指導理念は「プレッシャー」だ。「赤鬼」の小林卓雄2尉(26)はこう説明する。
 「我々の活動の場は、単純に言えば戦場。プレッシャーの中での的確な判断、指導が幹部に必要な資質なんです」
 全寮制での躾(しつけ)に加え、授業は自衛艦に乗るための技術面を中心に、平日に毎日7時限。遠泳や持久走などで基礎体力も養う。
 途中退校する大卒の候補生も毎年10人前後。その理由を、一番身近で指導する30代前半の分隊長は「国際貢献での活躍と、ここの生活にギャップを感じるようだ」と話す。
 「青鬼」を務めるのは、東大から海自に入った古賀丈憲2尉(28)。「自分たちを振り返ると、やったことのない集団生活によるストレスでやめていった者もいました」
 消灯の午後10時が迫り、候補生らが自習から寮に戻ってきた。半分ほどの部屋で、ベッドに畳んだ毛布がはがされ、棚の荷物が床に散らかっていた。整理整頓の不十分さを指摘するため、「鬼」がわざと荒らした跡だった。
(藤田直央)
◇陸 「図上演習」に選抜80人 「敵」は教官、戦略練る 「西より突撃・・・奪取します」
 陸上自衛隊の最上位の教育機関が幹部学校(東京都目黒区)だ。同校の「指揮幕僚課程」は、師団の指揮官や幕僚として必要になる知識や技能を約2年間かけて習得する。3月9日から16日まで、実際の戦闘を地図上でシミュレーションする「図上演習」が行われ、一部の取材が許された。
 この課程で「学生」となるのは、30代前半の3佐から1尉クラスの隊員約80人。倍率約20倍の選考試験を突破して全国の部隊から集まってきた。
 「1545(ひとごよんご)(15時45分)に西方向より東方向に突撃を実施する予定であります。明日(みょうにち)昼までに奪取します」
 13日午後、「作戦幕僚」役の学生が、「師団長」役の学生に作戦を伝えた。図上演習は、指揮官としての状況判断能力を高めるのが目的。敵役は、26人の教官だ。
 
 30平方メートルほどの部屋に学生が詰め、「師団長」以下、G1(人事)、G2(情報)、G3(作戦)、G4(兵站<へいたん>)の持ち場に分かれる。「戦場」となっている別の部屋にいるG2の学生から電話で敵陣の情報が入ってくる。
 戦闘の舞台は、東北地方の丘陵。G2の学生たちが、5万分の1の地図に赤と青のペンで陣形を書き込んでいく。赤色は敵軍、青色は自軍だ。その情報をもとに、G3の学生たちがパソコンで敵の出方を分析し、別の地図に赤と青で書き込み、作戦を練る。G1とG4の学生は、壁に張られた「装備等見積表」と「人員現況表」に状況を記入する。隊員や装備の3割が損耗すると師団としての能力が失われるとされ、その前に敵を撃破しなくてはならない。
 将棋の駒のように部隊の動かし方を考える図上演習は、旧陸軍の時代から実施されていた。冷戦期の旧ソ連の侵攻に備えたシナリオは、現在でもほとんど変わらない。
 その理由を学校幹部の1佐(50)は「PKOや災害派遣などでも、与えられた状況の中で時間、ルート、被害程度を考えながら、どのように部隊を動かせばいいのかという判断能力を高めるのが目的だ」と説明する。
 
 約3600時間の総教育時間のうち、半分以上は戦術や戦略に割かれる。戦略教官の1佐(53)は「私が入校していた10年前、グループで討論したテーマは『北朝鮮は崩壊するか、10年後も生き残るか』だった。今は北朝鮮のミサイルといった脅威にどう対処するかがテーマだ」と説明する。また、この4、5年で、PKOや不測事態対処など、多様な任務についての時間も増え、全体の1割強に達している。
 もう一つの柱が「統率管理」。約300時間を費やし、指揮官像を模索する。担当教官の1佐(54)は「こうしたらいいと教えられる戦術と違って、一番難しい」と言う。戦車連隊長などを歴任し、3カ月前に幹部学校に赴任した。当然ながら「実戦で一発も弾を撃ったことのない世代」だ。「若い部下たちに上司としての自分がどう見られているか。常に不安を抱えてきた」と明かす。
 教育では、戦争経験のあるOBらを招いて、講話してもらう時間も設けている。
(田井中雅人)
◇空 徒弟関係10カ月 「ワザ盗んで強くなれ」
 日本三景の松島に近い航空自衛隊松島基地(宮城県矢本町)。ここに自衛隊の主力の戦闘爆撃機F2のパイロットを育てる教育飛行隊がある。最新鋭戦闘機の訓練は、教官が1人ずつ丁寧に自分のワザを教え込む徒弟制度に近いという。教育飛行隊長、菅野聡2佐(43)は、こう語った。「強くなるには、いかに人のやり方を盗むかにかかっています」
 この基地に、F2教育飛行隊ができたのは2年前。20代の学生14人を、25人の教官がマンツーマンで指導している。
 飛行隊の朝は各種のブリーフィングで始まる。気象、機体状況などを担当官が交代で説明し、教官による飛行前のマンツーマン指導が行われる。
 その日の飛行コース、訓練内容、習得課目について、矢継ぎ早に説明と質疑が交わされる。それが終わると、教官とともに複座型の機体に乗り込み、基地から40キロ離れた訓練空域へ。70分飛んで戻ると、「デブリ」と呼ばれる反省会が行われる。
 教官「ロールとピッチがコーディネートしていなかったな」
 学生「はい。目標の取り方が甘く、間違いやポカミスが目立ち・・・」
 訓練の要点ごとに、学生がどこに問題点があったか詳しく報告し、教官から厳しい指摘を受ける。約40分続いた。
 1人になってからも、操縦席を撮影したビデオを見たり教官を捕まえたりしては、操作のコツを「盗む」。独り立ちするまでの約10カ月間、朝から晩までこんな毎日が続く。
(谷田邦一)
◆防衛大学校長・西原正氏に聞く 科学的思考・合理精神に重き/統率で 「死生観」学ぶ
 幹部自衛官の多くは、防衛大を卒業し、指揮官への道を歩む。今年は約440人が21日の卒業式を迎える。防衛大では何をどのように教えているのか。西原正学校長に聞いた。
 ――防大での教育の狙いは。
 「目的は幹部自衛官となる人間を育てること。52年に保安大学校として創立されたときは東工大がモデルで理工系だけだったが、74年に社会科学系の学科もできた。戦前の帝国陸海軍の精神主義の弊害、犠牲が大きかったという反省から、科学的思考、合理的精神を重視している」
 「戦前の士官学校と違うのは、校長が代々シビリアン(文民)だという点もある。これは(当時の)吉田茂首相の方針。教官も約90%が文民です」
 ――卒業式の式辞では何を。
 「強調したいのは次のようなこと。『自衛隊の国際的役割が拡大した。今後君たちが指揮官となるときには、どういう事態に直面するか分からない。柔軟な思考で対応できる心構えを持ってほしい。そのためには視野を広くする必要がある。いろいろな人と交流し、歴史書や古典を読み、海外旅行もするように』」
 ――ふだんの教育で力点を置いているのは。
 「一般の大学は知育中心だが、防大では知育・徳育・体育の三つを同時にやる。それに国際的な任務を担えるよう、国際感覚を持つようにしなければならない。英語教育にも力を入れてます」
 ――短期留学の制度もありますね。
 「毎年、3年生のなかから約40人が選ばれて、2週間ほど、米国、韓国、タイ、シンガポール、オーストラリア、ドイツ、フランス、英国の士官学校に行く。70年代に米国の士官学校との交流から始まって、冷戦後にぐんと増えた。今は韓国など8カ国から留学生も来ている。これは4年間」
 ―― 一般大学と違う点は。
 「防衛学というのがあって、『統率』を学ぶ。これは3年生の必修です。統率というのはリーダーシップですが、経営者のそれと違うのは、最悪の場合に命をなげうつということ。部下に死を要求しなければいけないかもしれない。そのために『死生観』も扱う。軍人の書き残した遺書などを教材に、部下への思いやり、責任、使命感などについて教える。そういうことを戦時だけでなく、平時から考えておくべきだということ。そして任官するときには『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる』と宣誓するわけです」
(本田優編集委員)
 
 京大卒。国際関係論、安全保障専攻。米ミシガン大で政治学博士。防衛大教授、防衛研究所第一研究部長を経て、00年から現職。
■使命感・技能・体力が柱
<幹部自衛官の教育体系>
 自衛隊員は「事に臨んでは危険を顧みず、責務の完遂に務めること」が義務づけられている(自衛隊法52条)。その教育は(1)使命感の育成(2)装備を扱う技能の習得(3)体力の錬成、が主な柱だ。
 幹部(3尉以上)は、戦車、通信といった「特技」(専門)だけでなく、指揮の能力が求められる。術科学校(陸自は職種学校)の初級課程(5〜39週)で学んだ後、小部隊の指揮官に。その後、中級(陸自は上級)課程(9週〜1年)で部隊運用を学ぶ。大卒幹部は、20代のうちは部隊と学校を往復する。
 1尉前後で受験する幹部学校の指揮幕僚課程(約1〜2年)は、佐官、将官へと昇進してゆく上での登竜門。同課程を終えた自衛官は防衛庁長官のスタッフ組織や上級司令部で、防衛力整備や部隊運用の中枢を担う。さらにその一部は幹部高級課程などに進む。
 これに対し一般隊員は、各地の教育隊で新隊員教育(3〜6カ月)を受ける。全員が隊舎に入り、起床ラッパで一斉に目を覚ます。敬礼、行進や銃の扱い方、防衛法制などの基本を学ぶ。特技を決められ、その扱いを各地の術科学校や部隊で学ぶ。曹(下士官)の候補者として入隊した人も、同様の教育を受けて、曹になる。
(岡野直)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
14位
(28,647成果物中)

成果物アクセス数
431,167

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年3月25日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【憲法改正について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から