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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2004/01/01 朝日新聞朝刊
「軍隊」を欲する愚を思う 節目の年明けに(社説)
 
 1904年2月。日本軍は朝鮮の仁川と中国の旅順沖でロシア軍艦を攻撃し、宣戦布告した。日露戦争の始まりである。
 それより50年ほど前、ペリーが率いる米艦隊の来航にあわてふためいた東洋の島国が、近代的な軍隊を育て、欧州の大国と戦火を交えるまでになっていた。今年、それからちょうど100年を迎える。
 1954年7月。日本に陸海空の自衛隊が生まれた。太平洋戦争で打ちのめされた日本が軍隊の存在に別れを告げてから、9年後のことだった。今年は、それからちょうど50年でもある。
 ○日露戦争と自衛隊と
 そんな日本の2004年は、とりわけ重苦しい気分の中で明けた。間もなく政府はイラクへ自衛隊を送る。人道支援が主眼だとはいえ、初めて戦火のやまぬ国へ、危険を覚悟の派遣である。折しも小泉首相は自衛隊を名実ともに軍隊にしたいと言い、自民党は改憲案づくりを始めた。
 日本人の多くは長いこと自衛隊や軍隊に強い関心をもたずにきた。しかし、今年ばかりはそうも行くまい。節目の年明けに、そのことを考えたい。
 まず、100年前に戻ろう。
 小説『坂の上の雲』で、日露戦争を勝利に導いた明治の群像に光を当てた司馬遼太郎さんも、この勝利がその後の日本を誤らせたことを深く嘆いて亡くなった。
 おびただしい戦死者を出し、何とか勝つには勝ったが、余力を残すロシアとはもはや続けられぬ戦いだった。だが次第に冷静な分析を失って自らの力を過信し、軍の支配と対外膨張の道を歩む。韓国併合、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、太平洋戦争・・・。坂の上から転げ落ちるようなものだった。
 二つの原爆投下とともに軍の時代は終わり、行き着いたのは新憲法による軍隊との決別だった。だが、理想にも限界がある。やがて現実とのはざまで生まれた自衛隊は、海外に出ず、自国の防衛に徹することで、戦争放棄の憲法9条と共存してきた。
 ○「日本外交の過誤」に学ぶ
 日本の防衛を補ってきたのは日米安保条約だが、戦後60年近く、日本が一切の戦争に加わらずにすんだのは、やはり憲法のお陰が大きかろう。朝鮮戦争もベトナム戦争も、日本は米軍の重要な後方基地であれ、兵員派遣など思いも寄らなかった。
 しかし、それだけでいいのか、と日本に問いかけたのが91年の湾岸戦争だった。以後、自衛隊を国際貢献に生かそうと、国連のPKO(平和維持活動)に派遣を続けてきたが、01年の9・11を境にさらに大きな協力を求められるようになった。
 テロや核の拡散が世界や日本を脅かすという「地球の変化」があるのは間違いない。一方で、自らの正義と力を過信し、「民主主義の帝国」になろうという「米国の変化」も大きい。敵と味方を峻別(しゅんべつ)するブッシュ流に日本は気押されている。
 いまの米国はおかしい。イラク戦争は性急すぎた。内心はそう思いつつ、しかし「米国を支持しながら、陰で忠告していくしかない」とは、政府内から聞こえ続けた声だ。北朝鮮の脅威もある、いざというとき頼れるのは米国だけだ、米国を怒らせるのは得策でない、という発想である。
 戦後、吉田茂首相に命じられて若手外交官らが作った報告書『日本外交の過誤』が昨春、外務省から公開された。軍部の独走をなぜ抑えられなかったのか、外交関係者の聞き取り調査でまとめたものだ。
 これをもとに『吉田茂の自問』を出版した前仏大使の小倉和夫さんは、近衛文麿首相や広田弘毅外相の頭には「軍部に真っ向反対していたのでは全く相手にされなくなる、むしろ軍の機先を制す位の態度をとりつつ必要に応じて軍の暴走を抑制してゆこう」という考えがあったと指摘した。
 そのため日中戦争の引き金となった盧溝橋事件の時でさえ軍の暴走に抵抗せず、政府も強硬姿勢を表明する。それが裏目に出て逆に言質をとられたというのである。
 当時の日本軍と一緒にするつもりは毛頭ないが、いま米国に対し、日本政府は似た過ちを犯していないだろうか。「イラク戦争は正しい」とひたすら弁護しつつ、「忠告」の実をあげぬまま、ずるずると深みにはまっていく図である。
 ○「専守防衛」に誇り持て
 こうして日本も自衛隊の派遣が避けられなくなったのだが、それでもまだ憲法の壁がある。このうえ、もし自衛隊が普通の軍隊だったなら、米国から「同盟軍」の役割を課せられ、開戦のときから派兵を求められていたのではないか。ベトナム戦争で4千人近い戦死者を出した韓国が、イラク戦争にも派兵を迫られたように。
 首相は国会で自衛隊について「いずれ憲法でも軍隊と認め、しかるべき名誉と地位を与えるべき時期がくる」と語った。しかし、軍隊になることがそんなに名誉なのか。自衛隊では名誉がないのだろうか。
 実力だけを見れば、すでに立派な軍といえる自衛隊だ。ここは過去の苦い体験に基づく「専守防衛」の精神に自負を持ち、「普通の軍隊でない」ことに誇りをもつのがいい。PKOには積極的に加わるが、国際協調の整わない海外派遣は断る。もとより外国での戦闘には一切加わらない。そういう哲学を堂々と語る。それで安心し、評価もするアジアの国は多いはずだ。
 米国には今後とも最も大切な友人であってほしい。同時に我々は米国の危うさも直視し、時に腹を据えて直言したい。
 米国だけを頼みとするのでなく、アジアの平和づくりにしたたかな外交を展開していく。過去を振り返り、未来を思いつつ、それが日本のとるべき道だと考える。
 
 
 
 
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