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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/12/10 朝日新聞朝刊
自衛隊イラク派遣 戦闘継続地域へ初 基本計画決定
 
 政府は9日夕の臨時閣議で、イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣の概要を定めた基本計画を決定した。小泉首相は直後の記者会見で「イラク復興支援に主体的な支援をする。自衛隊を含めた人的支援が必要と判断した」と説明したが、具体的な派遣時期については言及を避けた。米英軍など他国の武器・弾薬の輸送業務については「行わない」と明言した。政府は、まず航空自衛隊の輸送機を早ければ1月中旬にも派遣し、危険度が高い陸上自衛隊部隊の派遣時期については、慎重に判断する構えだ。
 ブッシュ米大統領が5月に主要な戦闘作戦の終結を宣言した後も、戦闘状態が続いている。日本がそうした地域に武装部隊を派遣するのは初めてで、日本の安全保障政策の転換点ともなる。
 イラクの人道復興支援などに米英軍とともに軍隊を派遣・常駐している国は、外務省のまとめ(12月8日)では36カ国。日本が陸自600人、空自150人を派遣すれば、米英以外ではポーランドやイタリアなどに続き7番目の規模の派遣国となる。
 G8(主要8カ国)で軍隊を派遣している国は米英以外ではイタリアのみ。カナダはクウェートを拠点とする輸送機をイラクにも派遣した実績があるだけだ。仏、独、ロシアは派遣していない。逆にポーランドやルーマニアなどの旧東欧圏や中米などの小国の参加が目立っている。
 首相は記者会見で「武力行使はしない。戦闘行為には参加しない」と強調。イラクの治安情勢は「必ずしも安全とはいえないことを十分認識している」と認めながらも、「自衛隊であれば危険を回避する努力も、危険を防止する装備も持っている」と述べた。
 派遣の意義について首相は、日米同盟と国際協調という日本外交の基本や、国際協調主義をうたった憲法前文の理念などを列挙。「米国が大きな犠牲を払いながら努力している。日本も米国にとって信頼に足る同盟国でなければならない」と語った。また「日本国の理念、国家としての意思が問われている。日本国民の精神が試されている」と国民に理解を求めた。
 一方、首相は派遣時期については「防衛庁長官が今後、具体的な実施要項を定める。それを見て判断したい」と述べ、実施要項にも具体的な派遣時期は明記しない方針を示した。その後、防衛庁長官の派遣命令によって、派遣時期が確定することになる。
 首相はまた、他国の武器・弾薬の輸送をしない方針については実施要項に盛り込む考えを示した。
○唯一残った自衛隊 外交官殺害、首相の選択肢奪う
 「決して安全でない土地に、危険な任務に赴こうとしている自衛隊を敬意と感謝の念をもって送り出して頂きたい」。小泉首相は9日の記者会見で、そう語った。
 その9日前の早朝、首相はイラクで殺害されたのが奥克彦参事官と井ノ上正盛書記官と聞かされ、数秒、声を失った。
 首相は、バグダッドの日本大使館で復興支援に奔走する2人の活躍ぶりを、岡本行夫首相補佐官から聞かされていた。
 非武装の文民の派遣はこれで不可能になった。首相にとって、人的貢献の残る選択肢は、自衛隊派遣だけになった。
 
 翌1日夜、国会近くのホテルに自民党の中川秀直国対委員長と福田官房長官、石破防衛庁長官が集まった。
 2人の合同葬が6日にあり、中旬以降は予算編成作業で多忙になる。米国が求める「年内派遣」は既に不可能だが、せめて年内に閣議決定し、日本の意志を示したい――ぎりぎりの日程として、3人が確認したのが「9日閣議決定」だった。
 「基本計画には陸海空の三つを書かざるを得ない。しかし、より安全な空自を先に出すことはあり得ます」。こう説く石破長官の言葉に、福田長官は黙って聴き入った。
 
 首相はイラク戦争開戦時、いち早く米国支持を表明した。内閣支持率の低下を覚悟した決断だったが、予想以上に早い戦闘作戦の終結もあって、杞憂(きゆう)に終わった。
 今回はどうか。イラクの治安悪化を受けて、政府の方針は「年内派遣」と「先送り」の間で迷走を重ねた。だが、首相は「状況を見極めて判断する」と繰り返し続けた。そんな首相にいま与党からも、要員派遣の当事者の防衛庁からも「説明不足だ」と批判が広がる。
 8日夜。首相は執務室に残り、翌日の記者会見の原稿を書いた。「自分の言葉で」とのこだわりからだと周辺は言う。
 だが、官邸内にも疑問の声がある。「首相は我々に何も指示を出さなかった。周囲がセットした段取りに乗っかるだけなんだろう、最後まで」
 
 自衛隊のイラク派遣をめぐり政府の方針は二転三転した。日本人外交官殺害事件発生直後の最悪のタイミングで、首相はなぜ決断に踏み切ったのか。舞台裏を検証する。
○迷走の果て、重い決断 自衛隊イラク派遣決定の舞台裏検証 考え示さぬトップ 政府内の思惑バラバラ
 福田官房長官が記者会見で「年内派遣」を明言した数時間後だった。
 11月12日、陸自派遣候補地のサマワに近いナーシリヤで、イタリア警察軍駐屯地が自爆テロに遭い、19人が死亡した。16日にはアルカイダを名乗る組織が「自衛隊をイラクに送れば東京を攻撃する」との声明を英国のアラビア語紙誌に出した。
 福田長官が周囲に漏らした。「これでテロは、遠い国の、違う世界の話ではなくなった」
 政府が「年内派遣」を最終的に断念し、基本計画の「年内閣議決定」を優先する方針に転換したのはこの直後だった。
 
 8月にバグダッドの国連現地本部で自爆テロが起きると、政府は7月の法制定時に想定していた「年内派遣」をいったん断念した。だが、官邸は米国の視線を気にした。
 ブッシュ大統領が来日する予定が固まった9月中旬。古川貞二郎官房副長官(当時)が福田長官に判断を求めた。「年内派遣を前提とした調査団の派遣に踏み切るかどうか。決断すべき時です」
 大統領訪日3日前の10月14日。福田長官は官邸に石破防衛庁長官を呼び、調査団の派遣を準備するよう指示した。政府が再び「年内派遣」に動き始めた。
 
 自民党総裁選、総選挙の対応に追われた首相はイラク問題の対応を福田長官にゆだねていた。
 福田長官は従来の国連平和維持活動(PKO)では欠かさなかった閣議での「準備指示」を出さなかった。「正式な指示を」と求める石破長官に、福田長官は「防衛庁長官の指示でできることをやれ」と突き放した。
 「官房長官は逃げた」――。防衛庁内にそんな受け止めが広がった。
 福田長官は二橋正弘官房副長官−大森敬治官房副長官補のラインで基本計画策定を進め、詳しい内容は閣議決定前まで防衛庁にも伝えなかった。
 
 防衛庁・自衛隊も一枚岩とは言えなかった。
 官邸の方針が伝わらないことに、庁内には「長官は官邸にはえらく平身低頭だ。防衛庁の意向が官邸に伝わっていないんじゃないか」との不満が募った。
 制服組も疑心暗鬼となった。イラクへの派遣には慎重になる一方、防弾チョッキなど新規装備を次々と要求する陸自に、海自や空自の幹部から「何を尻込みしてるんだ」との声が漏れた。
 
 ナーシリヤでの自爆テロ後、空自先行か、陸海空とセットかで政府の判断はもつれた。石破長官は「陸は危険」と空自先行を進言したが、福田長官は陸自派遣にこだわった。米軍支援の色彩が濃い空自による物資輸送より、陸自の給水支援などの方が人道支援を印象づけられるからだ。
 石破長官「人道支援にこだわるなら、米軍に武器・弾薬は運ばないと言うことはできます」
 福田長官「本当にそんなことができるのか」
 石破長官「米軍との連携とはそういうことです」
 この時期になっても、首相自身の考えが、官邸のスタッフにも示される場面はなかった。
○公明に配慮する自民 冷ややか、動かぬ与党
 「基本計画に反対すれば連立は壊れる。いま壊すわけにはいかない」
 公明党執行部が「9日閣議決定」を最終的に容認したのは、全国代表者会議を3日後に控えた今月3日だった。
 直前、神崎代表、冬柴鉄三幹事長らごく限られた幹部が東京都内に集まった。自衛隊派遣には支持母体の創価学会に反対論が根強い。幹部協議は重い雰囲気に包まれた。
 「閣外協力という選択肢もあるのでは」。複数の幹部がそう漏らした。だが、政権に深く組み込まれた公明党にとって、連立離脱は現実の選択肢ではなかった。
 9日、首相官邸での自公党首会談は神崎代表が口火を切った。「陸上自衛隊の運用は慎重の上にも慎重にお願いしたい」
 閣議決定前の党首会談の開催と、「与党との緊密な協議」を盛り込んだ覚書への首相と神崎代表の調印。ともに「公明党の立場に配慮」(首相周辺)した政府・自民党の仕掛けだった。
 
 森前首相、亀井静香元政調会長、平沼赳夫前経産相、笹川尭衆院予算委員長の4人が8日昼、東京都内で会談した。
 「首相以下、説明責任を果たし、最後は自分自身が責任を負いますという形でことを進めるべきだ」。会談後、笹川氏はこう語った。特に陸自派遣を積極的に支持する空気は党内には乏しい。
 イラク特措法成立の推進力だった山崎拓前副総裁が総選挙で落選したことも、小泉首相にとっては痛手だ。9月の党総裁選で首相を支えた幹部の一人は「もう首相が決断するしかない。それが1年後、10年後にどう評価されるかだけだ」と突き放した。
 与党内の冷ややかな空気の中で「孤独な決断」(首相周辺)に踏み切った首相。仮に自衛隊が不測の事態に巻き込まれれば、責任は首相一人にのしかかることになる。
○米大統領が求めたもの 「同盟のシンボル」期待
 首脳レベルで信頼関係を築き、本音は知日派が伝える。米ブッシュ政権の対日アプローチは一貫していた。「ガイアツ」批判を避けつつ、日本への要望を効果的に実現するためだ。
 ブッシュ大統領 イラクの復興に目に見える協力が役に立つ。
 小泉首相 復興でも日本は積極的役割を果たす。
 5月の首相訪米時の首脳会談。イラク復興支援についてはごく短いやりとりだけだった。
 しかし、米政府高官によると、大統領は「stand by you」(支持する)と言い続ける首相を信頼しており、「目に見える協力」とさえ言えば、期待に応じてくれると思っていた。
 
 米国はイラクでの復興支援体制をほぼ固め、自衛隊の参入する余地はほとんどなかった。だが、アーミテージ国務副長官をはじめ日米関係を重視するグループは「同盟のシンボル」として自衛隊派遣を求めた。中長期的には「集団的自衛権を行使しない」という制約を取り払い、日米同盟を強化するステップになるという思惑があった。
 8月のバグダッドでの国連事務所爆破事件後、政府が自衛隊派遣に二の足を踏むと、アーミテージ副長官は「逃げるな」と、有馬龍夫政府代表に不快感を伝えた。
 
 アーミテージ氏はその後も次々に米政府の「本音」を伝えた。
 大統領訪日を約3週間後に控えた9月25日、加藤良三駐米大使が一時帰国した。直前、加藤大使はアーミテージ氏と会談していた。アーミテージ氏は「billions(数十億ドル)」という復興支援額の希望を伝えたが、自衛隊派遣については「Get it right(うまくやってくれ)」と言うにとどめた。
 だが、「アーミテージの言葉より重いものはない」と外務省筋。ブッシュ政権の知日派の代表格であるアーミテージ氏の政権内での立場を弱くすることは、日本の立場も弱めかねない――。米戦略に組み込まれた日本政府が、年内の閣議決定にこだわり続けた大きな理由はそこにあった。
◇基本計画のポイント
 ●人道復興支援活動
 ○自衛隊
 <陸自>
 医療、給水、公共施設の復旧・整備、輸送。600人以内。軽装甲機動車など車両200以内。無反動砲、個人携帯対戦車弾を携行
 <海自>
 陸自部隊、人道物資の輸送。輸送艦など輸送用艦艇、護衛艦各2隻以内
 <空自>
 人道関連物資、陸自部隊の輸送・補給。輸送機など輸送用航空機8機以内
 ○復興支援職員(文民)
 医療、施設の復旧・整備、浄水・給水設備の設置
 ●安全確保支援活動
 ○自衛隊
 医療、輸送、保管、通信、建設、修理、整備、補給、消毒(国連加盟国の安全・安定回復活動の支援のため、人道復興支援活動に支障を及ぼさない範囲で実施)
 (派遣期間はいずれも03年12月15日から04年12月14日)
 
 
 
 
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