2003/06/25 朝日新聞朝刊
米追随と独自性の間で(イラクと自衛隊 特措法案は問う:上)
キーワードは、やはり「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上に部隊を)」だった。
外務省幹部が明かす。
「最初に言ったのはウォルフォウィッツ国防副長官でしょう。その後、部下が一斉に言い出した。3月のイラク開戦前ですよ。彼はアフガニスタンの戦後でも『国際治安支援部隊に自衛隊を派遣できないか』と言ったが、日本はインド洋に補給艦などを出しているので断った。だから、『イラクでは地上に』という意味だったのでしょう」
昨年夏から、日本政府は米国に、イラク戦争への対応について、こう示唆し続けてきた。
「支持はしたいが、参加はできない。戦後復興はする」
国防副長官はそれを踏まえて、「今度こそ」とクギを刺したわけだ。
5月の日米首脳会談。自衛隊派遣の「要請」はなかったが、「以心伝心」(政府高官)だった。
首相は帰国後、イラク復興支援特別措置法案を作った。だが――。
「戦後復興というが、今は本当に『戦後』なのか。ブッシュ大統領が5月に作戦終了を宣言してから、米兵が約50人死んでいる。私はまだ戦争は終わってないと思う」
日米同盟強化論者として知られるサミュエルズ米マサチューセッツ工科大教授は、首をかしげる。
「米国が当初5月に予定していたイラク人による暫定統治機構作りは、大幅に遅れている。1年以上先になる可能性がある」(在米外交筋)
戦争の大義が疑われ、米兵がテロの標的となるなかで、自衛隊や文民を送り出そうというのだ。
独仏は「不支持」によって米との関係悪化という苦汁を飲んだが、日本はいま「支持」の代償に直面している。
この課題にどう取り組むべきか。向こう1カ月の特措法案をめぐる国会審議は、日本のありようを考える好機だ。政府はイラク戦争の支持をめぐって、「同盟維持」の打算から十分議論もせずに、米国の動きを追認してきたからだ。
論点は多い。
▽戦争と戦後が混然となっているイラクの現状をどうとらえるか。
▽「戦闘行為の行われない地域」という特措法案の想定は、戦闘に巻き込まれたときにパニックを引き起こさないか。
▽ブッシュ政権の新保守派(ネオコン)の狙いは「親米・親イスラエル政権」の樹立にある。日本の米軍支援は、それへの「支持」というメッセージを中東諸国に発信することにならないか。
▽戦争の大義はともかく、イラク国民は安定と復興支援を求めている。それにどう応えるか。
根本で問われているのは、国際安全保障に参加する日本の基本姿勢だ。
最近、日米政府高官がこんな会話を交わした。
日本「特措法案成立後は、事案ごとの協力ではない平和協力法を作ることが課題だ」
米国「大きなチャレンジだ」
政府が将来の恒久法を視野に入れているのなら、この特措法案の持つ意味はなおさら重い。
世界に展開する米軍の単なる後方支援部隊としての道を突き進むか、米国と国連を結びつけながら日本の主体性をより生かす道を模索するか。特措法案の審議は、その道筋を左右する責任を負っている。
(編集委員・本田優)
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