2001/10/18 朝日新聞朝刊
難民支援、活動内容は(Q&A テロ特措法案)
Q 新法はまだ、成立していないけれど、自衛隊はすでに難民支援をしていたね。
A 航空自衛隊のC130輸送機が、アフガニスタン難民向けにテントや毛布などをパキスタンに運んだ。国連平和維持活動(PKO)協力法に人道支援についての定めがあり、それに基づいた活動だ。
Q それなら、なぜ、わざわざ新法に難民支援を盛り込んだのかな。
A 支援が想定されているのは周辺国に逃れたアフガン難民だ。PKO法には「紛争当事者間の停戦合意」といった参加5原則があって、これを満たさないと自衛隊を出せない。パキスタンは紛争当事国ではないから派遣できたけど、将来、紛争状態に陥るかもしれない。たとえ紛争状態が収まったとしても、一方の当事者がイスラム過激派の武装組織の場合、停戦合意は考えにくく、PKO法を適用できない可能性が強い。
Q PKO法の改正は考えなかったのかな。
A 政府や与党は、法改正で5原則を緩和することも検討したが、あわてて法改正することには与党内に異論もあって断念した。新法に人道援助を入れれば米軍支援の色合いが薄まるという思惑も働いていたようだ。
Q どんな活動が考えられているの?
A 支援物資の輸送や配給、テント設営、診療所を設置しての医療活動などだ。NGO(非政府組織)も取り組んでいるけれど、中谷防衛庁長官は「治安が乱れた時、自衛隊がPKOで蓄積したノウハウを生かせる」と説明している。
Q 自衛隊が行くことで、かえって緊張が高まることはないのかな?
A 確かにそういう面はあるね。94年に自衛隊がルワンダ難民を支援するためザイール(現コンゴ)に行った際、現地のNGOから「難民キャンプに紛れ込んだ旧政府軍兵士を刺激しかねない」と不安の声があがった。
今回の場合、パキスタンのアフガン難民キャンプは国境付近に集中し、タリバーンの支配から逃れてきた兵士も多いらしい。難民に武装ゲリラが紛れる可能性もある。自衛隊自体が自爆テロの標的になる最悪の事態だって起こりうるんだ。防衛庁には、ザイールより危険だという見方さえあるくらいだ。
Q 政府は、そのあたりをどう考えているの?
A 「非戦闘地域」での活動に限られるから支障はない、というのが建前だが、中谷長官自身が「軍隊が行くマイナスの部分として、よけい危なくなるという面もある」と認めている。新法ではPKO法よりも武器の使用要件が緩められたのは、こうした背景もある。
小泉首相は「法律でできることと実際にやらねばならないことは別だ」と答弁している。難民支援の具体的な青写真はまだ描けないようだね。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やパキスタン政府との協議、現地調査などを踏まえて案を練ることになりそうだ。
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