2001/10/11 朝日新聞朝刊
なぜ新法なのか?(Q&A テロ特措法案)
Q なぜ新しい法律をつくるのだろう。
A 91年の湾岸戦争の際、日本は資金協力だけだったため、米国から批判を浴びた。今回は自衛隊を活用して、米軍主導の軍事行動に協力したい、というのが政府の考えだ。ただ、現行法では自衛隊の海外派遣には制約が多い。だから新法で幅広い支援をできるようにというわけだ。
Q 米軍への後方支援を定めた周辺事態法は適用できないの。
A 政府は、パキスタンなどのアフガニスタン周辺国で後方支援することを考えた。でも、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に基づく周辺事態法は、自衛隊の活動範囲を、日本国内や「日本周辺」の公海上などに限っている。この法律の適用は難しいというのが、政府の判断だった。
Q 国連平和維持活動(PKO)協力法もあるけど。
A 参加5原則にある「紛争当事者間の停戦合意の存在」などを満たさないと適用できない。パキスタンでオサマ・ビンラディン氏配下のゲリラやタリバーンの組織的なテロの可能性もあり、PKO協力法を使うのは無理がある。
Q この法律ができると、自衛隊はどんな支援をできるの。
A 食料や医薬品、燃料などの物資の輸送・補給、傷病兵の治療のほか、戦闘参加者の捜索や救助もできる。武器・弾薬も輸送は許される。分野としては周辺事態法とほぼ同じだが、新たに避難民支援が加わった。パキスタンなどに逃れたアフガン難民に物資を送ったり、医療活動したりすることを想定している。
Q 外国の領土にまで自衛隊が出ていって米軍支援をする根拠がよくわからない。
A 国連安全保障理事会は国際テロを非難し、国際社会の脅威と認める決議をした。法案はこれを踏まえ、テロに対する国際社会の取り組みに主体的に寄与する、とうたっている。
一方、米国は自らの軍事行動は、国連決議に基づくものではなくて、個別的自衛権の発動と位置付けている。日本の選択の直接の根拠を、武力行使の容認に踏み込んではいない国連決議に求めるのは、ちょっと苦しい面はあるね。
Q 首相が憲法との関係で「すき間がある」と言っていたのは、そのあたりの悩ましさを正直に言ったということかな。
A NATO(北大西洋条約機構)は米国の行動に対して、集団的自衛権を発動すると決めた。だけど、日本政府は集団的自衛権の行使は憲法上認められないとしてきた。今回は「自衛隊は武力行使をしないから集団的自衛権の行使ではない」としている。でも、活動の内容次第では、集団的自衛権の行使に触れる恐れがある。「法律的な一貫性、明確性を問われれば、答弁に窮してしまう」と答えたのも、そういう理由からだ。
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