1999/04/24 朝日新聞朝刊
続・自治体・民間協力 米の要望未公表(ガイドライン法案Q&A)
Q ガイドライン関連法案の修正協議が大詰めを迎えた中で、政府が地方自治体や民間の協力について、十一項目の具体例を国会に提示したんだって。
A 二月に十項目を公表しているけど、「地方公共団体の有する物品、施設の貸与等」を付け加えて、より具体的にしたんだ。まず、米軍や自衛隊の艦船や航空機が港や空港を利用すること。米軍基地や自衛隊の施設などと港湾、空港との間で、米兵や食料品、医薬品などを運ぶことも挙げている。
Q 政府はどうして具体例を示したの。
A 実は全国で二百近い自治体の地方議会が法案に反対したり、慎重な審議を求めたりする意見書などを可決、採択しているんだ。背景には、どういう協力をどの程度することになるのかについて、政府の説明が不十分だという不満がある。政府が具体的に説明したのはこうした事情に配慮したんだ。
Q 確かに、何を頼まれるのかわからないというのでは不安だよね。
A 朝日新聞社の三月の世論調査では、地方自治体の協力について「協力すべきだ」が一七%、「協力する必要はない」が一〇%だったが、「協力の内容次第だ」という答えが六四%と圧倒的に多かった。
Q その「内容」がはっきりしていないんだ。
A 核開発疑惑で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の緊張が高まった一九九四年ごろ、米国からの非公式な要請を受けて日本政府もどういう協力ができるか検討した。米軍から求められた支援項目をまとめると千五十九項目にのぼったという。
Q 例えば、どんなものがあったの。
A 膨大な要望のすべてが自治体や民間への協力依頼ではないけど、成田空港や神戸港などの使用も想定されていた。「正式に決めたものではない」という理由で、検討結果は公表されていない。
Q 法案は、自治体は協力しなくてはならないとしているの。
A 国会で政府は「強制ではない」「義務はない」「罰則を科すことはできない」「正当な理由があれば拒める」などと説明してきた。ところが同時に、「拒否する理由がない場合は協力は当然」「拒むことは常識としてあり得ない」とも答えている。
Q 国は強制できないのかな。
A 地方自治体の長が管理する港湾で、米軍艦船の寄港を「正当な理由」がないのに拒んだ場合、港湾法の規定で運輸相が判断の変更を命じることになる。ガイドライン法案自体には罰則はないけど、自治体職員が首長の命令を拒否すれば、地方公務員法などの懲戒処分の対象になる。自治体側にしてみれば、国が握る補助金の分配などで「締め付け」にあうことも恐れているようだ。
Q 民間の協力はどうなの。
A 民間と米軍の契約なので、強制ではない。米軍の武器・弾薬の輸送は、平時でも民間の運送業者がやっている。 Q 危険じゃないのかな。
A 政府は、国が契約をあっせんする場合は領域内での活動に限り、戦闘の恐れのある地域の仕事は頼まないと言っている。米軍と民間が直接契約する場合は民間の自由な判断にまかされている。
Q 戦争に巻き込まれる心配があるね。
A その危険性はゼロではない。でも、政府としては、法が成立して日米関係の信頼性が高まれば「抑止効果の方がはるかに大きい」と説明している。
Q 政府の考え方と依頼される側の認識にギャップがありそうだ。
A そうだね。政府は米国とは何年も前から緊密に協議してきたのに、自治体や民間との協議は決定的に不足していた。国民の不安にもっと目を向けて、十分な情報を示してほしい。
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