1999/04/20 朝日新聞朝刊
続・周辺事態の定義 「自衛権」問題(ガイドライン法案Q&A)
Q 新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案のキーワードともいえる「周辺事態」の定義について、政党間の修正協議で議論が再び起きているんだって。
A そうなんだ。政府案では「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と定義しているけど、これでは意味がわかりにくいというんだ。
Q どんな議論なの。
A 民主党と自由党がそれぞれ修正案を出している。民主党は「我が国に対する武力攻撃に発展するおそれのある事態」とするように求めている。自由党も「そのまま放置すれば(我が国の平和と安全が)侵されるおそれのある事態」という修正を主張している。
Q どちらも似ているね。
A 周辺事態の定義を限定すべきだ、という考え方では一致している。だけど、その発想は全然違っていて「同床異夢」という感じだな。
Q 民主党の考えは?
A 今の法案では、どんな場合に自衛隊が出るのかわからないので、それを限定しようということだろう。日本が攻撃される「有事」に次ぐような周辺事態までは、ガイドライン法案で認めましょう、と。でも、近隣諸国の懸念を考えると、それ以外はあまり自衛隊を出さない方が良いという考え方だと思う。
Q 自由党はどういう発想なの。
A 背景にあるのは、周辺事態を日本の「自衛権」の問題としてとらえる見方のようだ。
Q 政府案では、自衛権の問題とは違うということなの。
A 周辺事態への対応は、本来の日本防衛とは別枠の話なんだ。だけど自由党は、周辺事態を日本が攻撃を受けた「有事」に準ずる事態ととらえて、自衛権の発動として、自衛隊の武器使用などを考え直すべきだという主張なんだ。
Q なぜ。
A 政府は「後方地域は安全で、武力行使とは一体化せず、自衛権の問題にはならない」と説明してきた。しかし、自由党は「現代の戦争は前線も後方もない」と主張しているから、自衛権の問題としてとらえるべきだ、という理屈だと思う。
Q どうして政府は自衛権の問題として整理しなかったのかな。
A 日本では、自衛権が発動されるのは▽日本への急迫不正の侵害がある▽他に適当な手段がない▽必要最小限度の実力行使にとどまる――という三要件にあたる時だけだと言ってきたからだ。
Q で、定義は結局、どうなるの。
A この自由党案には政府関係者も「法案が根底から崩れてしまう」と心配している。自衛権の論議に入ると、従来の法解釈を見直すことにもなりかねないし、修正には応じたくないみたいだな。
Q ここにきて自由党は「そもそも論」に入ったんだね。
A これまでの安保政策は、憲法と現実の整合性をとる法解釈を積み重ねた「ガラス細工」みたいなところがある。政府はそれを改めないまま、自衛隊が日本有事の場合ではなく、日本周辺でも活動できるように転換したからね。その無理がきていると言えるかもしれない。
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