1999/03/07 朝日新聞朝刊
シビリアンコントロール 問われる国会(ガイドライン法案Q&A)
Q 最近、国会の審議でよくシビリアンコントロールってことばを耳にするね。
A 新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案の議論の中で出てくるんだ。日本語では文民統制という。簡単に言えば、軍事より政治の方が優先する仕組みのことだよ。戦前は「統帥権の独立」といって、日本軍の作戦や実際の軍事行動に関することは天皇の大権に属していた。法律に基づかないで軍組織の編成もできたんだ。その結果、いつしか内閣の統制できない範囲が広がって、戦争へと進んでいった。
Q そういう反省から文民統制の必要性が言われているんだ。
A 自衛隊は、武力行使の権限を与えられた唯一の組織だ。だからこそ政治が統制しないと、民主主義を危うくしかねない。
Q 具体的にはどんな仕組みになっているの?
A ひとつは国会による歯止め。自衛隊の法律や予算、定員などは国会が決める。日本が攻撃された時の防衛出動なども国会の承認が必要で、これは自衛隊法に定められている。
Q ほかには?
A もちろん政府の役割がある。自衛隊の最高指揮権は首相が持っているし、その下で実際に自衛隊を指揮するのが防衛庁長官だ。さらに防衛庁には長官を補佐する事務方として内局がある。
Q そう言えば「背広組」「制服組」なんて区別を聞くね。
A 「背広組」は内局の事務官のことで、法案作成や国会対策などを担当しているんだ。彼らは自衛隊員だけど「自衛官」ではない。これに対して、陸海空の自衛官は「制服組」と言われている。
Q 憲法を読むと、首相やその他の閣僚は「文民でなければならない」と定められている。防衛庁長官も文民なんだね。
A そういうこと。戦前は現役の軍人が陸軍相や海軍相になって国政に影響力をもっていた。その反省のうえに今の仕組みがあるんだ。
Q でも「文民」ってどういう意味なのかな。
A 「文民」は「武人じゃない人」ということかな。「武人」というのは、政府の見解によれば、現役の自衛官と「職業軍人の経歴があって軍国主義的思想に深く染まっている人」を指すんだって。それ以外は文民ということになる。
Q 新ガイドライン関連法案とは、どうかかわってくるの。
A 法案では、米軍支援の基本計画を国会に報告することになっている。政府とすれば、素早く事態に対応するためには国会の承認を待ってはいられないということらしい。だけど民主党や公明党などは、国会が承認する事項にするよう求めているんだ。
Q 国会がちゃんと是非を判断すべきだ、というわけか。
A そう。軍事の話は専門性も高いし、機密事項も多いから、「周辺事態」になれば防衛庁・自衛隊の主導で判断する場面が多くなるだろう。そこは国民の代表でつくる国権の最高機関が最終的にチェックすべきだ、という考え方なんだ。
Q だけど、文民による内閣なんだから、政府が決める段階で文民統制が働いているはずじゃないの?
A 確かに、政府内からは「行政権の範囲でできることで、国会には報告だけでいい」という意見も聞く。すでに文民統制は利いているというんだね。
Q 首相や防衛庁長官をはじめ、内閣を構成する政治家たちが的確な判断を下せるのなら十分、ということか。
A だけど、一九八六年の参院内閣委員会の政府答弁でも、文民統制の第一例として国会の議決や承認が挙げられている。日本の平和と安全に重要な影響を与える時のことなのだから、国会が深くかかわるべきじゃないかとも思う。もっと国会で議論してほしいね。政治家の責任は大きいんだから。
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