1999/02/06 朝日新聞朝刊
「反対」の論理 概念あいまい危険生む(ガイドライン法案Q&A)
Q 新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案をめぐる国会論議の焦点は、いつの間にか法案の修正に移っているようだけど、法案にあくまで反対を主張している政党はないの。
A あるわよ。共産党と社民党は「ガイドライン法案には修正では済まない問題点が多い」「憲法違反の疑いが濃い」などとして、廃案を求めているわ。
Q 問題点って?
A まず「周辺事態」という概念自体のあいまいさ。一つは「周辺」という言葉に地理的な限定がなく、解釈上、どこまでも広がりかねないこと。民主、公明などガイドラインの必要性を認める野党には法案に「極東及び極東周辺」と明記する修正を、という意見もあるけど、社民党の土井たか子党首は「そう言い換えたとしても、あいまいさは何も変わらない」と批判している。共産党の志位和夫書記局長も「極東と明示すれば台湾が含まれ、中国の内政問題への干渉を宣言するという矛盾に突き当たる」と言っている。
Q 言われてみればそうかな。
A もう一つ、「事態」という言葉のあいまいさへの批判もある。共産党が重視しているのは昨年の米国によるスーダン、アフガニスタン、イラクに対する一連の攻撃なの。
Q どういうこと?
A 不破哲三委員長は「戦後の世界秩序は国連中心とされ、各国が独自に軍事行動を起こせるのは、加盟国が武力攻撃を受けた場合、つまり自衛の場合に限られた。しかし、イラク空爆のような先制攻撃戦略は、どの国も武力攻撃を受けていないのに米国の判断だけで戦争が起こせる国際秩序無視の戦略だ」と言う。そして、ガイドラインの問題点として「米国がアジア・太平洋地域で先制攻撃戦略に基づく軍事行動に出た場合でも、日本がそれに参加することにつながる」と指摘しているのよ。
Q なるほど。イラクと同様、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑も国際社会で問題化しているからね。でも、政府は「ガイドラインは日米安保条約の『枠内』なのだから心配ない」と言っているんじゃないの。
A 共産党はその点も批判しているわ。安保条約の第五条は「日本有事の際の日米共同対処」を定め、第六条は「極東の平和と安全の維持に寄与するための米軍の日本の基地使用」を定めている。志位さんはこの点をとらえ、「日本有事でもないのに、自衛隊が米軍と共同で海外で行動するというガイドラインは、そもそも安保条約に根拠がない。安保条約の『枠外』だ」と指摘しているの。
Q 土井さんの演説を聞いてたら、「米国が引き起こす戦争に日本が巻き込まれる危険がある」と言っていたよ。
A そういう指摘も確かにあるわ。政府は、日本が引き受けるのは、戦闘が行われていない地域での補給、輸送、医療、通信など米軍の軍事活動の「後方地域支援」だから、武力行使と一体化しない、と説明しているんだけど……。
Q だったら、戦争に巻き込まれるというのは、大げさじゃないの。
A そうとばかりも言えない。補給や輸送などの活動は「兵たん活動」とも言うのだけれど、志位さんは衆院予算委員会で、米国の戦争法規を示して「兵たん活動はもちろん、兵たんを支える施設も攻撃対象となると定められている」と追及した。つまり、いざ日本周辺有事となった場合、日本がいくら兵たん活動を「武力行使と一体ではない」と主張しても、国際社会では通用しないという現実を、パートナーの米国の戦争法規が明らかにしているとも言える。
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