1999/02/03 朝日新聞朝刊
自治体・民間協力 首長に不安も(ガイドライン法案Q&A)
Q 新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案が定めている「周辺事態」になったら、地方自治体や民間も国から協力を求められる、って聞いたけど。
A 周辺事態法案の第九条に規定があるんだ。憲法九条は国会でもよく議論になってきたけど、新たな「九条論争」が始まっておかしくないほど、こちらも重要だよ。
Q どんな内容なのかな。
A 三つの項目があって、まず一項では、地方自治体の長に「必要な協力を求めることができる」となっている。
Q 必要な協力?
A 法案には「協力」の内容は何も書いてないし、政府は「あらかじめ具体的に確定される性格のものではない」と言っているけど、一番は港湾や空港の提供だよ。病院や救急車も必要になるし、都道府県警察は米軍基地の警備に当たることになるだろうね。
Q それは自治体の義務になるの。
A 野呂田芳成防衛庁長官は国会で「一般的な協力義務で、地方公共団体の長が求めに応じないことをもってただちに違法とするものではない」と答えている。でも、「一般的な協力義務としては協力するのが当然であり、常識」とも言っているんだ。
Q つまり義務ってこと?
A 正当な理由があれば拒むことができる、と言うんだね。例えば、ある病院に米軍のけが人を運び込みたいと政府が言っても、その病院がいっぱいだったら「軽症者を追い出しても受け入れてくれ」とまでは言いませんよ、ということらしい。でもできる限りの協力をして当たり前だ、と。
Q だいたい、ベッドに空きがある病院なんて少ないんじゃないかなあ。でもそうなると暮らしに身近な問題だね。法案に盛り込む時は政府と首長さんたちの間で激論になったんじゃないの。
A それが違うんだ。政府から自治体にちゃんとした説明がないまま、法案はできあがったんだ。もともと政府には「日本の平和と安全を守るのに自治体が協力しないのはおかしい」という発想がある。
Q それじゃ首長さんも不安じゃないかなあ。
A 当然だよね。とりわけ米軍基地を抱えるところは深刻で、政府に法案についての具体的な情報提供や自治体の意向尊重を申し入れたんだ。
Q 民間の協力の方はどうなの。
A 第九条の二項で、必要な協力を「依頼できる」となっている。「求める」としていないのは、民間の場合は要請に応じる義務がないからだって。
Q 何を依頼されるのかな。
A こちらも法案には何も具体的なことは書いていない。問題になりそうなのは、運送会社や航空会社による米軍の武器・弾薬、米兵の輸送なんかだね。民間空港の利用もそうだ。国会では「米軍が港に優先的に入り、民間の船を押しのけることはないのか」という質問が出たんだけど、高村正彦外相は「あり得る」と答えていた。
Q 民間企業が軍事協力をしたら、テロの対象になったりしないかな。
A あってはならないことだけど、危険性は考えておく必要はあるよ。
Q 周辺事態法案は自衛隊だけの話じゃないってことか。
A 国民の生活に、もろにかかわってくる。米国が最も期待しているのは実はこの部分という指摘すら、政府内にはあるんだ。第九条の残る一項目は、協力したために損害が出たら国が補償しますというものなんだけど、法案のままなら国の裁量はすごく大きいことになるね。
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