1999/01/27 朝日新聞朝刊
武器・弾薬の輸送 憲法と政策、2判断(ガイドライン法案Q&A)
Q 国会で日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案の審議を見ていたら、自衛隊が武器や弾薬を輸送するかどうかでもめていた。
A 武器・弾薬の輸送はガイドライン法案の中に含まれているからね。これは、日本の周辺地域で武力紛争などが起きた時の米軍への支援の話だ。ただ、いま国会で論議しているのは、一九九〇年の湾岸危機のような国連の「多国籍軍」への輸送の話だよ。
Q どうして、議論がそちらに流れたの。
A 自民党と自由党が連立政権発足を前に、多国籍軍への後方支援に積極的に対応することで合意したからなんだ。武器・弾薬の輸送ということでは、米軍に対してでも多国籍軍でも憲法解釈の問題では共通する所があるからね。
Q 政府はどんな見解なの?
A 多国籍軍への後方支援については法案が出ているわけじゃないから、具体的に煮詰まった議論にはなっていない。ただ、憲法九条で、武力行使が禁じられているから、九〇年の議論の時に、武力行使と「一体化する」ような場合は、憲法違反と整理してきた。けれど、逆に武力行使と「一体化しない」場合にどうなのか、明確には答弁してこなかったんだ。
Q ふつうに考えれば「一体化しない」場合は可能ということだよね。
A そうだね。だけど、武器・弾薬を輸送できるとは明言していなかった。だから、二十五日の国会審議で改めて問われて、政府側の答弁が乱れたんだ。高村正彦外相は「武力行使と一体でない場合は、多国籍軍への武器・弾薬輸送はあり得る」と表明した。ところが野中広務官房長官は記者会見で「一体とみなされなくても輸送すべきではない」と、反対の考えを強調したんだ。
Q 意見はバラバラ?
A いや、そんなことになれば、野党側から「閣内不一致だ」と追及されてしまう。そこで、政府は二十六日に「多国籍軍への後方支援は、個々の具体的ケースで武力行使と一体化するかどうかという観点から判断する。実際に武器・弾薬の輸送を含め、いかなる後方支援をするかは慎重に判断する」という統一見解をまとめた。
Q よくわからないねえ。どういうこと。
A 言いたいことは、武力行使と一体化しなければ憲法上可能だが、本当に実施するかどうかは個別のケースで総合的に政策判断するということだ。
Q 高村外相は「憲法上の判断」を言って、野中長官は「政策判断」を言った、ということか……。
A 察しがいいね。小渕恵三首相も、二十五日は安全保障の小難しい答弁に失敗して大混乱してしまったけど、翌朝、この見解を記者団に披露したんだ。「両方あわせて一本だ。矛盾していない」と大見えをきっていたよ。
Q ところで、武器・弾薬の輸送は必要なの?
A 湾岸危機のころから、米国は日本にその輸送を求めていたんだ。
Q だけど、武器・弾薬輸送なんて、結局は武力行使と「一体」じゃないの?
A そういう意見は根強いね。敵側から見れば、自分たちを殺傷するものを運んでいるから、攻撃の対象にしたとしても当然だよね。野中長官が慎重で、野党が警戒するのも、そういう考え方からのようだ。
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