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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/01/24 朝日新聞朝刊
「周辺事態」とは何だ「ガイドライン法案審議に」(社説)
 
 日米防衛協力の新指針に基づき、新たな対米協力体制を敷くための周辺事態法案などの国会審議が始まった。
 唯一の軍事超大国となった米国は、アジア太平洋地域をにらみ、前方展開を続ける。地域紛争を抑止し、必要なら軍事的に介入するためである。
 その米軍に対し、日本が基地の提供や財政支援のみならず、公海上まで進出する自衛隊の活動や、官民あげての後方支援で手助けする。
 これが、日米間で合意した新指針、いわゆるガイドラインの基本的な枠組みだ。
 日米安保体制は基本的に、基地提供のかわりに、侵略を受けたときには米国が日本を助けに来る仕組みだ、とされてきた。
○疑問はたくさんある
 安保体制の質的転換を図る新指針と関連法案について、わたしたちは、憲法とのかかわり、アジア諸国をはじめとする対外関係への影響、文民統制のあり方など、さまざまな観点から検討し、多くの重要な点に疑念を示してきた。
 朝鮮半島で紛争がもし現実となった場合を含め、地域紛争への対処や平和の回復にどうかかわるか、その際に大きな役割を果たすだろう米国に対し、どのように協力するのかについて、準備しておくことは大切だ。協力の範囲と限界を定めるためにも、最小限の法制化は必要である。
 しかし、指針関連法案をこのまま成立させるわけにはいかない。法案がもつ危うさを徹底的に洗い出す論議を、与野党に強く求めたい。
 第一に、周辺事態の「周辺」とはどこで、周辺「事態」とは何なのか、である。
 政府が「地理的な概念でない」として範囲をあいまいにしてきたのは、台湾問題に神経質な中国を刺激したくないことのほか、そうすることが米国にとって軍事的に望ましいからだろう。
 イラクをはじめ中東地域での作戦に、日本の基地から米軍が出動していることは常識だ。自衛隊による後方支援の範囲がどこまでも広がる恐れはないのか。
 「平和と安全の維持のため」に、在日米軍が国内の基地から出動する「極東」の範囲として「フィリピン以北および日本とその周辺で韓国、台湾も含む」としてきた政府見解とは、どう関連するのか。
 第二に、周辺事態を認定するのはだれかである。米軍の行動に協力するか否か、どこまで協力するかが、関係諸国との関係を決定的に左右する。
 わたしたちが「一つの中国」政策に基づいて、とくに台湾を対象から外すように主張してきたのは、それが日中関係を危うくしかねないからだ。
○欠かせない自主判断
 肝心なのは、周辺事態の認定や支援の態様について、日本側の判断が貫かれる余地を、制度的にも実体的にも明確にしておくことである。
 いざというとき、米国の判断を日本政府がなんでも丸のみし、対米協力を発動することがあってはならない。決定はあくまで、日本の主体的な国益判断からなされなければならないのだ。
 アジアでも欧州でも、米国の軍事プレゼンスは総じて歓迎されている。しかし、実際の行動となると、昨年のイラク攻撃や、テロ報復を名目にしたスーダンなどへのミサイル攻撃など、国際社会から独り善がりと批判される事例が少なくない。
 第三に、自衛隊の厳密な運用だ。
 物資の輸送、医療協力、救難などは、日本の領域と「活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」周辺の公海で行われる。憲法が禁じる集団的自衛権の行使や、海外での武力行使という事態を避けるためだ。とはいえ現実には、戦闘地域との区分けは難しい。
 少なくとも、米軍の武力行使との一体性がきわめて強い米艦への武器、弾薬の輸送業務は、法案から除外すべきだ。
 法案は、捜索救難、民間船舶の臨検や邦人救出の際に、自衛官に対して「合理的に必要と判断される限度で」組織的な武器の使用を認めている。歯止めとして、「必要最小限の」という言葉を加えたい。
 第四が、事前の国会承認を原則とすることである。法案では、対米協力の基本計画は事後報告でよい、とされている。
 米国から協力を求められたとき、日本側の判断とその根拠を国民にはっきり説明するのは政府の義務だ。
 日本が侵略を受けたときの防衛出動について、自衛隊法は国会の事前承認を定めている。自治体や民間も政府から協力を求められることなど、事柄の重さを考えれば、事前承認制度を通じて、確かな文民統制の仕組みを確保しておかねばならない。
 安保体制の「再定義」を確認し、新指針策定が確認された日米安保共同宣言から、間もなく三年になる。
 安全保障政策の大改編であるにもかかわらず、また、沖縄問題とも一体の問題であるにもかかわらず、与野党の関心はこれまでは決して高くはなかった。
○「危機」説に踊るまい
 状況はかなり変わったように見える。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のテポドン発射、地下核施設疑惑が東アジアの安全保障を揺るがしている。
 米国が北朝鮮政策の見直しに着手したのをきっかけに、永田町では「危機」が取りざたされている。
 政府、与党は、これを指針関連法案の追い風としたいということだろう。自民、自由両党の連立によって、危機対処論にドライブがかかったことも軽視はできない。
 しかし、危機説に踊れば、現実を見失う危うさが増す。
 法案の審議はあくまで冷静におこなわれるべきだ。朝鮮半島に危機を起こさないために日本は何ができるかについても、真剣な討議がなされなければならない。
 与党内では、「事後報告」を「事後承認」に修正することで野党の賛成をとりつけようという、舞台裏の動きが始まっている。しかし、こうした国会対策的な手法をとってはならない。論議を近隣諸国が注目していることも意識すべきである。
 戦後の日本は、安全保障を憲法と日米安保体制という二本の軸に託してきた。ふたつの間の矛盾に悩みつつも、この選択は今日なおアジアの安定に大きく寄与しているといっていいだろう。
 流動化する世界で、それをさらに役立てていくには、米国追随ではなく、日本がみずからの外交判断をもち、それを実現させる知恵を働かせることが必要だ。
 紛争への最低限の備えをしつつ、紛争の予防に努力を倍加する。指針関連法案の審議を、そうした方向へと日本の政治を動かす一歩にしなければなるまい。
 
 
 
 
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