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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/04/20 朝日新聞朝刊
もてあそぶ危うさ 有事法制(社説)
 
 日米防衛協力の指針を具体化する周辺事態法の制定準備が進むなかで、いわゆる日本有事を想定した、もう一つの有事法制論がうごめいている。
 震源は、自民党の安全保障調査会や外交部会などの最近の決議だ。外国の侵略に備え、自衛隊が円滑に活動できるようにする法整備に、次の国会から本格的に取り組むとの方針が盛り込まれた。
 これを受けて、久間章生防衛庁長官も先週の記者会見で「自民党の部会の意向が示されたので、それに向かって検討を始めなければならない」と明言した。
 日本有事のための法制について、これまでの研究段階から現実の法整備へと、政府としても姿勢を転換したいという意思をにじませた発言である。
 周辺事態法の主な目的は、日本の「周辺」での紛争に対処する米軍を自衛隊、関係省庁、自治体などが多様な分野で後方支援できるようにすることにある。日本有事を対象にした法整備と、実態面では重なり合うところが少なくない。
 ならば、周辺事態のための法整備に乗じて、この際、年来の願望である有事法制に道を開こう。そんな狙いが透けてみえる。積極論は、野党の自由党にもある。
 しかし、待ってもらいたい。
 有事法制は、たんなる防衛政策の一部ではない。この国の民主主義を根本から左右し、国際社会での日本の生き方ともかかわる側面をもつ。最も重要で慎重に扱われるべき政治課題のひとつである。
 福田内閣で、政府が有事法制の研究を始めてからほぼ二十年がたつ。防衛庁は同庁所管の法令と、他の省庁が所管する法令について、整備されるべき内容を一九八〇年代前半にはまとめ終えている。
 ところが、法制化となると、冷戦末期に対ソ強硬路線を進めた中曽根康弘首相でさえ、「高度の政治判断にかかること」とし、国会や世論を踏まえて「慎重に検討すべきもの」という立場だった。歴代の自民党政権としても、国民的な合意なしには進められなかったということだろう。
 有事法制は、国民の権利や自由の制限と裏腹の関係にある。防衛庁の研究でも、民有地の使用や物資の収用をはじめとする私権制限や、交通や通信に関する現行法に特例を設けることが、列挙されている。
 軍事的な都合を重視すれば、言論統制や国民の動員など、憲法の原理に正面から衝突することさえ、検討対象になりかねない。有事法制論議の危うさである。
 憲法は、戒厳令のような緊急時の国権発動を想定していない。有事法制の推進論者の間からは、そうした憲法そのものへの批判が聞かれる。だが、戦前の日本への反省と戦争体験に根差す国民意識が、この憲法を支えていることが忘れられている。
 見通しうる将来、日本を侵略する国が出現するとは考えにくい。大事なのは、そうした国が出現しないように手だてを講じることである。日米安保体制をより健全な形で生かしつつ、多国間の安全保障秩序へと重心を移すという、日本のたどるべき方向はこの目的にも沿う。
 指針の法制化が中国をはじめとするアジア諸国との関係を損なうことのないよう、こまやかな目を注ぐべきときに、政治家たちが有事法制の強化をいいたてる。これでは、かえって近隣諸国の不信を買う。
 いま問われているのは、むしろ、状況を冷静に判断する能力である。
 
 
 
 
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